第八話 笑う声の絶望
先ほどまで人の活気で溢れていた広場は悲鳴や断末魔で満たされ、眼前に佇む悪魔を喜ばせていた。
その悪魔はイタイテの人々を根絶やしにし、セーテンにまで手を伸ばしてきた。
悪魔は嗤う。彼の王都にも近いとまで言われた街を支配したことに。
悪魔は嘲る。この街の貴族が自分に怒りをぶつけようとしていることに。
「ガロココ!何故貴様は悪魔なぞに成り下がった!貴様は民衆のことを想い、救おうとした心ある貴族ではなかったのか!?」
「アラウよ、民衆の命なぞ些末なこと。そのことに私はようやく気付いたのだ。民を救おうが私の欲望は満たされぬ!民の嘆きを聞き入れようが私の老いは止まらぬのだ!故に私は全てを潰す悪魔になった。永劫の命を持つ悪魔に!」
「堕ちたものだな!貴様に永劫の命なぞない!貴様はここで死に伏せるのだからな!」
アラウを含む三人の戦士がそれぞれ戦闘態勢に移る。
アラウは剣を抜き、構え。黒髪の男は腰の刀を握り居合の構えを取る。
フードの男?は懐から三枚の札を取り出し内一枚を悪魔に向かって投げる。
投げた札が空中で弾け、その弾けた後から五本の黒い手がガロココの頭両手両足に伸びる。
「ふんっそのような子供騙しに掛かるほど私は甘くはないぞ」
ガロココが避けるために空中を縦横無尽に飛び回る。
そして一瞬、ガロココが地面に近づいた瞬間、黒髪の男が居合で一閃する。
「死ね。疾風斬」
ガロココと黒髪の男の距離はかなり離れていたが、黒髪の男の一閃は見事ガロココの腹部を切り裂いた。
「ぐうううう・・・ぐふううううう・・・」
切られた箇所を抑えながら、地面に膝を付く。
「まだ死なんか、やはり新米とは言え悪魔。その程度の傷、簡単に治してしまうのだろう。だが、それを待つほど拙者も甘くないぞ?」
黒髪の男が抜身の刀をぬらりと動かし、次の技の構えに入る。
「魔滅武・・・」
無数の剣の実体を持つ残像がガロココの首、頭、胴体、手、足に傷を入れていく。
ガロココは回復に専念するあまり、抵抗することも出来ず、一方的に殴られている。
「ぐううう!貴様!やめろ!それ以上は洒落にならぬ!貴様!じょ、情報をやろう!何が知りたい・・・!なんでも教え・・・」
突然、ごふぅと血を吐き出し地面に伏せる。
「・・・やはり三下であったか・・・」
上空から二つの悪魔の声が響く。
一つは若々しい女性の声。もう一つは肥えた声。
「あらあら、助かろうとして情報を渡そうとするなんて彼のお方への信仰が足りないのではなくて?」
「ガロココ~ダメだよぉ。そんな事するのは物語の中だけにしないとぉ」
ガロココと同じように背中にコウモリの羽を生やした悪魔だが、二人共体型が違う。
女性の声の悪魔はとてもグラマラスな体型で、まるでサキュバスのようだ。
肥えた声の悪魔は醜くブクブクと太っており、そんな羽でよく飛べるなと言った体型だ。
片手に子供の死体を持ち、もう一方の手で肉を口に放り込んでいる。
「グヒヒヒヒ、やっぱりこの街の人の肉は特別美味しいなぁ・・・」
バリバリと貪る。
あまりにも酷い光景にアラウは青ざめ、口元を抑えている。
震え声で俺とサラに屋台を指差し、そこに隠れるように指示した。
「貴方達には後でちゃんと話を聞くから、今は戦いの邪魔になるわ。早く隠れなさい」
指差された方に俺達が逃げようとすると、それに気付いたか肥えた悪魔がこちらに近づいてくる。
「おいおい逃げるなよぉ、せっかくこれから楽しいショーが始まるっていうのにっておやぁ?」
肥えた悪魔がサラを見るなり邪悪な笑みを浮かべる。
「グヒヒヒヒヒヒヒ!おいイア!あの日生け贄にした下僕が生きてるぞ!グヒヒヒヒ!不思議なもんだなぁ!これって好きにしていいんだよねぇ!」
イアと呼ばれた悪魔は少し驚いた顔をして
「何があって生きてるか知らないけど、そうねぇ・・・いいわよ。チミー、その子買ってからずうっと気にしてたものねぇ」
「グヒヒヒヒ!人間だった頃はとても犯したくて犯したくて、悲鳴が聞きたくて聞きたくて、憎悪や絶望に歪んだ顔が見たくて見たくて仕方なかったんだよねぇ!!!でも!今はただひたすらに生きながらにして腸を食べながら苦痛に歪む顔が見たいんだよぉなぁ!!!!」
肥えた笑い声が響き渡る。
その声はあまりにも邪悪で不快な声で、サラの表情も一気に青ざめガロココの時に見せた顔よりも一層深く絶望に堕ちた顔になった。
「グヒヒヒ!ほらほら!こっちにこいよ!だあいじょうぶ!ちゃあんと足の爪まで全部食べるから!」
チミーのブクブク太った手がサラに伸びる。
(サラッ!こんな糞野郎に二度も殺させるか!)
俺はチミーとサラの間に入り込む。
「んー?なんだぁ君はぁ?チミーとこの下僕の間に入ってくるなんて相当な命知らずだねぇ?ま、いいやぁ!先にお前から食ってやるぞ!」
チミーの手がガッシリと腕を掴む。
あまりに強い握力で身動きを取ることが出来ない。
「チミー!待ちなさい!そいつから離れなさい」
イアの声が響く。
するとチミーは首を傾げながら力を抜き、そっと腕を離した。
「チミー、そいつは食べちゃダメよ。そいつは彼のお方の大切な大切な"贄"ですもの。殺してはいけないわ」
「あれ、こいつがリザック?変なメイクしてたから分かんなかったや!」
(贄?なんの事だ。だが、離れてくれたのは好都合だ!)
俺は両手にナイフを作り、そのまま投擲する。
バターも切れないほどの切れ味で殺傷能力なんてないナイフだが、気をそらす事は出来るだろう。
だが、投擲したナイフはチミーの腕に深々と刺さった。
「ん?あぁ、痛いなぁ。何だこのナイフぅなんで刺さってるんだぁ?お前か?お前がやったのか?」
刺さるはずがないナイフが刺さった事にこちらも内心びっくりしていた。
(だったらもっと投げてやる!)
どんどんナイフと作りチミーに投擲する。
チミーは始めはそんなに痛がっていなかったが次第に痛みで体をよろめかしていた。
「あぐぅ・・・痛いな!やめろよ!」
チミーが腕を振り、俺と俺の後ろに隠れていたサラ共々吹き飛ばす。
少し吹き飛ばされて屋台の近くまで飛んだ。
「ぐっ・・・サラ大丈夫か・・・?」
「はい・・・なんとか・・・」
ナイフが効くのは確認したが、それだけで戦うのは圧倒的に不利だ。
俺はサラを抱えながら屋台の後ろに隠れた。
「グヒヒヒ・・・やってくれたなァ・・・よく考えれば殺さなければいいんだろう・・・?だったら四肢をもいでも問題ないよねぇえええ?!」
ズシンズシンと腹にまで響く足音が聞こえる。
ゆっくりとこちらに近づいて来ているようだ。
「そんな所に隠れても意味ないよぉおおお?!?!チミーを怒らせた罰はしいっかりと受けてもらうんだから!」
隠れていても邪悪な気配がどんどん大きくなって行くのは分かる。
これは実にマズイ。俺もここまでなのか・・・
「拙者に後ろを見せすぎたな、お主の魂は地の底へと逝くだろう。『先天火砲三式:鉄火』」
いつの間にか近づいていた黒髪の男が切先をチミーに向け術式を発動させる。
ゆらゆらと移動する火の玉がチミーの体に着弾したと同時に蒼い炎が全身に回る。
蒼い炎はどんどんと燃えていき、天まで届きそうなまでの火柱を立てていた。
「あああああああぢいいいいいいい!あづいあづいあづいよおおおおおお!!!」
チミーはゴロゴロと転げまわり、火を消そうとするが逆に炎は勢いを増す一方だった。
「とどめは私が・・・」
フードの男?が取り出していた札の一枚をチミーに投げる。
札は弾けず、チミーの体に到着し蒼い炎で燃えること無く、どんどんとチミーの体を吸い込んでいった。
「うおおおおなんだこれあああああああ体があああああ体が吸い込まれてええええええ」
チミーの悲鳴を最期にチミーの体は札に吸い込まれた。
「さて・・・あと一体であるが・・・恐らく奴が最も強いのだろう」
黒髪の男が刀を鞘に収めてイアを睨む。




