第四話 向かって行くんだ、明日に
翌日。
昨日は空腹の中干し肉臭のする寝袋に包まって寝たせいで地獄だった。
まさか自分の腹の音で目が覚めるとは思っても見なかった。
魔法で出した水で顔と口を洗い、さわやかな目覚めとはいかなかったが前世の寝起きよりも清々しさを感じていた。
しっかりと目を覚まし、商店街に赴く
「金がないとはいえ、なにもしないわけにもいかないからなぁ」
まあ、試食とかもあるだろうと期待を抱きつつ、足を運ぶ。
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早朝ということもあってか、朝市で賑わい。「安い安いよ!」といった声で満ちていた。
が、今日はそれだけではなかったようだ。
この街に住む貴族の家が昨夜、襲撃があったというものだ。
貴族の家には人集りができ、辺りは騒然としている。
その中で周りの人の話を聞いていくうちにおかしな点が見えてきた。
一つ目は、豪華な調度品などが壊されていて明らかに争いがあったと見て取れるが、近隣の住民は争っている音や悲鳴なんかは聞こえず、むしろとても静かだったということ。
二つ目に、襲撃に遭ったのであれば、死傷者が出ていてもおかしくないはずだが、その家には誰一人居なかったそうだ。
二つ目は、貴族を嫉妬した人が乗り込んでみたがその日はパーティか何かで誰も居なかったという可能性があるが、家に誰一人置かずに出て行くものだろうか。
置いて行かなかったのであれば非情に不用心だし、さあどうぞ盗みに来てくださいと言っている様なものだ。
それに被害にあった貴族は「人に優しく」をモットーに生きていたらしく、恵まれない者にはその日の食事を、働き口のない者には仕事を与えていたそうなのだ。
この街が発展したのも偏にこの貴族の尽力によるものらしいのだ。
街の中で襲撃などというものから最も縁遠い人たちであり、人から感謝されることはあれど、恨みなど買うことなどなかったそうだ。
「おい!何か運ばれてきたぞ!」
人の流れに身を任せていたらいつの間にか人集りの最前列に着ていた。
そこで、見てしまった運ばれて来た物を・・・
女の子の亡骸だった。
皆、口々に「知らない子」「何処の子だろう」「どうしてこんな所に」と言っていたが、
俺には見覚えがあった。
心臓を一刺し・・・だったのだろう、ボロボロの服の真ん中は血で染まっている。
少女は苦しそうな顔をしていたが、顔と身なりを見て間違いないと確信した、
この子は昨日パンを届けに来てくれた子だと。
「嘘だ!嘘だろ?!」
確信と同時に女の子に駆け寄った。
この世界にきて初めて優しくしてくれた子が、明日また違う芸を見せてあげようと言ったのに、どうして。
疑問と驚愕と・・・様々な気持ちが入り混じり、頭で処理が出来なくなる。
「この子、君の知り合いかい?残念だけどこの子はもう死んでいる。悲しいかもしれないけど、埋葬でもしてやってくれないか?」
一宿一飯の恩義・・・ではないが、それぐらいはやってあげよう。
きっとこの子は身寄りもないのだから引き取ってあげないと埋葬もされないままなのだろう。
「わかりました・・・」
「ありがとう、きっとこの子も喜ぶよ。この街を出て少し北へ行ったら墓地があるからそこに埋めてあげてくれ」
「わかりました」
そっと、女の子の亡骸を抱き上げ言われたとおり北へ向かう。
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~イタイテ:北部墓地~
事件があった所から歩き、太陽が丁度真上に来ている。
「少しっつってたけど、全然少しじゃねえじゃねえか・・・・」
昼ということもあって、暑く額から汗か吹き出る。
だが、その甲斐あってか暗くなる前に到着した。
「さて・・・」
周囲を見渡し空いているスペースに亡骸を運ぶ。
【創造】でスコップを作り出す。
こういう物も作れる【創造】の魔法は便利だ。
スコップで掘り続けもうすでに夕方だ。
この体は、中々に体力があるようで、ずっと掘り続けてもつかれることはなかった。
穴の大きさは凡そ、この子の体が丁度入る程だ。
「これくらいで・・・いいか・・・」
女の子の亡骸を掘った穴にそっと置いた。
「そうだな・・・昨日、約束したものな・・・」
俺の数少ないネタを幾つか披露した。
見てくれていないと分かっていながらも、きっと弔いになるだろうと思い、この子の冥福を祈ってこの子が喜んでくれた芸をした。
芸をし始めて気づけば時間が経ち、もうすでに夜だ。
周りは灯りもなく真っ暗だ。
「きっとこれで満足だろう・・・この子もあの世で笑ってくれてるだろう・・・」
皆を笑顔にすることがあんなに嬉しかったのに、今は笑ってくれた子をもう一度笑顔に出来ない自分に僅かに苛立ちを覚えた。
「ピエロだったはずなのにな・・・・」
亡骸に手を合わせ、別れを告げゆっくりと土を戻していく。
ふと、顔を見ると笑っている様に見えた。
「なんだ・・・笑ってるじゃないか・・・この子はこんな時でも俺の事を・・・」
ん・・・?
笑ってる?
この子の亡骸を見た時は苦しそうな表情を浮かべてたはず、それがどうして。
運んでいる最中に表情が変わっていた、なんてことはないはず。芸を見せるまで表情は変わっていなかったはずだ。
俺は土を動かす手を止め、スコップを地面に置き、少女をまじまじを見た。
確かに笑っているのだ。
死んで確かに終わった命ではあるが、俺の想いに応えてくれたかのようだった。
「まあ・・・異世界だから、こういうこともあるのか・・・」
魔法がある世界なら尚更有り得ることなのだろうと決め付けた。
その時、目がゆっくりと開いた。
それを見た俺は驚き、飛び退いた。
実際、目を開けることのない死者が突然目を開ければ驚きもする。
次に少女は、両手をゆっくり何度も合わせ拍手をした。
何の原理かは分からないが、これは確実に蘇生したということが、無知な俺ですら分かった。
「嘘・・・だろ・・・?」
「あ・・・あり・・・がと・・・う・・・」
信じることが出来ない。というより頭の整理が追いつかない。
ついさっきまで死んでて、口も訊けないはずだった。
それが動いて、更には喋っている。この状況をどう飲み込めと。
「え・・・あ・・・私・・・いきて・・・る・・・?」
本人すら驚いている様だった。
少女は体を起こし、頭を抱えていた。
「昨日の夜・・・ご主人・・・様に・・・胸を刺されてそれで・・・どんどん寒くなっていくのが・・・怖かった・・・」
少女は昨日の出来事を思い出した様でさっきまで笑っていたのに顔を強張らせ体を震わせている。
俺はそっと抱き寄せ、耳元で「大丈夫、大丈夫」と囁いた。
少女は安心した様で震えが収まり、顔も穏やかなものに変わっていた。
「昨日、あなたと別れたあと・・・ご主人様・・・に呼ばれて・・・ベッドの上に寝かされたの・・・」
落ち着いた様子で、今までの事を話してくれた。
"ご主人様"という人、恐らくは今朝襲撃された貴族であろう人がこの少女の心臓を刺し、何かを行ったのだろう。
だが、俺の知識では何を行ったかというのが分からない。
前世読んでいたラノベでは、大抵儀式的な物であるということは推測できるが、何故それを行う必要があったのかと言うのも分からない。
ただ、今出来ることは
「きっと、このままイタイテに帰っても居場所がないのは確かだろう。それに君を刺して何かしらの儀式を行ったのであれば、生き返った君を見過ごす訳がないだろう」
「それじゃあ・・・どうすれば・・・」
「逃げるついでに、俺と一緒に旅に出よう!俺は流浪の旅芸人で丁度アシスタントも欲しいと思っていた所なんだ」
「アシスタント・・・?」
「助手みたいなものだよ。一緒に芸をしたりするんだ」
「楽しそう・・・でも、私に出来るかな・・・」
「大丈夫さ、君なら出来る。一人で楽しい事も二人でやればもっと楽しい!悲しいことや辛いことも二人でわけ合えばずっと楽だ!だから一緒に行こう!」
少女は笑って頷いた。
「そうと決まればさあ行こう!二人なら暗い夜もへっちゃらだ!」
【創造】で松明を作り、夜道を照らす。
これから先の道も二人でならきっと、畏れずまっすぐ進めるだろう。
俺は少女の手を取り歩き出す。
少女も照れたように俯きながら付いて行く。
「・・・これからよろしくお願いします・・・"ご主人様"・・・」




