87話 放心のまま
リザは周りを見て絶句してしまう。ゼストを助けるためとはいえ射殺した平民の他に死体が見える。肉体が凍ったままバラバラになったものがあった。生きていたであろうそれは人ではなくなっている。
目の前にいるゼスト以外は生存者がいるようには見えない。見方によっては彼が殺したように見えなくはない。だが、彼の絶望しきった表情と言葉からはそうは考えられなかった。リザの理解が全く及ばないため、ひとまず彼の救出を優先した。
リザ「何があったか分からないけど、ここは危険よ。私に着いてきて。」
ゼスト「……」
彼はさっきの言葉を発してから考えることを止めて現実から逃げていた。これは夢だと思いたかった。見ない、聞こえないフリをすれば心は傷はつかなくて済む。肉体が傷ついてもどうなっても構わなかった。所詮、今の彼にとっては生きていることすらもどうでもよくなっていた。ガイアの最期の言葉からも逃げ続けた。
そんな放心状態でリザの言葉に従った。案内されるがままに奴隷解放団の車に乗り込む。リザ以外にも車には何人か乗っているが彼の目には何も映らない。
スジュン「大丈夫か? 怪我はないように見えるがあそこで何があった?」
ゼスト「俺が、俺が俺が……殺した……ああああ」
まともに答えられる精神状態であるはずがなかった。
スジュン「すまない。誰も助けられなくて。」
スジュンは質問を止めて彼をそっとしておくことにした。それが最善かは分からなかったが、今の彼には時間が必要だと思った。
スジュン「リザ、彼をしばらくアジトで匿ってくれるか? 素性は分からないが放ってはおけない。」
リザや他の仲間もその意見には賛成だった。
数分でアジトに帰りつく。アジトの外見はボロボロのビルだが、中身はちゃんとしたところになっていた。合言葉を交わして中に入っていく。アジト内には貴族を含めた多くの奴隷解放団の者たちがいた。ジェノサイドスレイから保護された奴隷たちもここで生活していた。総勢で百名は超えていた。組織が拡大して資金や物資、生活する場所を彼らは手に入れた。
ゼストにとってはそんなことは何の興味もない。
スジュン「君の名前を教えて欲しい。」
ゼスト「……ゼスト・アライブ……。」
何とか名前だけは口にできた。彼はここで生活していくことになった。




