70話 その引き金は誰のため
ゼストという人間に果たしてまともな意思なんてあると言えるのだろうか。状況に流されるままここまできた。それを否定されただけで殺意を向けてしまう。間違いすら認めずに自分だけを守ろうとしていた。そんな彼が誰を否定し、非難する権利があるというのか。
ガイア「目を覚ましてくれ! お前だけでも生きて欲しい!」
無理かもしれないと思うが説得を試みる。ガイアにはそれしかできない。
サリア「私たちは無実よ! どうせ証拠すら何のでしょ! デタラメを言って!」
邪魔しかしないサリアと聞く耳を持たないゼストにガイアは書類を投げつける。それは自由の民の行動の記録、能力などの詳細が書かれていた。 キルーズ家に執事とメイドとして潜入していたこと。避難民の食事を減らしあえて体力を消耗させて、操る能力の発動条件を揃えて行動に移ったこと。ガイア以外のキルーズ一家を皆殺しにしたこと。他にも山のように悪事が書いてあった。
これを見せられたゼストは声を失うしかなかった。それでも認めるわけにいかなかった。
ゼスト「こんなの改竄だ!」
ガイア「だったら何が真実だ! 教えろ!」
ガイアには理解出来ない。
ゼスト「リリアたち貴族がみんなを殺したんだ!」
ガイア「そんなわけないだろ! 彼女がそんなことするはずないってお前が一番分かっているだろう!!」
本当は心のどこかで分かっていたはず。それでもあの惨劇が頭から離れなかった。あの血の匂いはまだ消えていない。
ゼスト「何年一緒だったと思う? 本当は分かっていたんだよ、そんなことくらい。リリアはそんなことしないことくらい! それでも彼女のせいにしなければ理解も前を向くことも出来ない。」
過ちも愚かさも認めるしかなかった。彼は向けていた拳銃を下げた。
ガイア「やっと分かってくれたか。」
ガイアは安心し少しだけ顔色が昔に戻る。
サリア「くだらない……」
サリアが呟いた。下らない茶番を見せられた気分だった。彼女にとってはゼストはただの道具でしかない。能力をたまたま使い損ねこうなった。
サリア「貴族なんてみんな死ねばいいのよ! 何の努力もせずに偶然手に入れた能力で調子に乗っているだけじゃない! それを認めてヘラヘラしている平民も同罪よ。この世界は不公平よ!」
ガイア「それがお前の本音か!」
ガイアがサリアを狙うより先にゼストが動いた。ゼストが今度はサリアに銃を構える。
ゼスト「お前がみんなを! 許さ……ない!」
震える心と体で引き金を引いた。誰のためでもない銃声が鳴り響いた。




