55話 幻影にすがって
目の前で大事だった人が死んだのに、ゼストは悲しみを感じなかった。彼の心の中はもう既にすさみきっていた。
サリア「大丈夫ですか、ゼストさん。」
ゼスト「もう、どうでもいい。どうでもいい、どうでもいい。」
彼にサリアの言葉は届かなくなっていた。殺されそうになったこと、沢山の人が死んだことで壊れていった。
そんな彼を複雑な目でサリアは見ていた。殺人鬼を片付けたゴードンが駆けつけてくる。
ゴードン「敵はもういない。しかし、生存者もほとんどいなくない。」
サリア「こちらも彼と少しの人しか守れませんでした。」
ゼストの目の前で二人はこの最悪の状況について話し合った。残された人たちをこの後どうするかも含まれていた。
惨劇が終わり数時間が過ぎた。朝日はもう昇り現実がはっきりと見えてくる。
赤く染まった建物、数えきれぬ動かぬ人体、鼻が曲がりそうな悪臭、泣き叫ぶ人々。悲しみに包まれ、そして憎悪に溢れていた。
殺戮を行っていたものは全員が貴族だった。ゴードンやサリアが行った調査では、原因はキル・コープス事件によるストレスからだった。このことをゴードンはみんなに伝えることにした。それが何を意味するか完全に理解した上で行う。
ゴードン「皆さんに報告があります。この惨劇を起こした者は全て貴族でした。原因はストレス等により錯乱した結果あのような行為を行ったと推測されます。」
そのような結果だけで被害者は納得なんてするはずがない。被害者たちは憎しみを声に出した。貴族に裁きを、奴等を許すな、被害者全員がその色に完全に染まった。ゼストですら例外ではない。
ゴードン「ですが安心してください。皆さんは私たちが責任を持って保護致します。そして、皆さんの憎しみを代わりに晴らそうと思います。」
彼は用意していた旗を掲げた。旗にはエンブレムが描かれていた。
ゴードン「隠していて申し訳ありません。私たちは『自由の民』。愚かで腐った貴族に裁きを下す、正義の組織です。」
自由の民はテロリストという認識が今まであった。しかし、今回の件で人々のその先入観は打ち砕かれる。彼らから見たら少なくても救世主、果てには神に見えるものもいた。
何人もの被害者が自由の民に協力を願い出た。ゼストがそのなかでも最初だった。
目の前に現れた幻影の希望に彼らはすがり、とりつかれた。




