54話 狂い始めて
ゼストだけでなく他の者も恐怖で足がすくんでくる。ゴードンだけは怯まず勇んで、彼らを誘導する。
血に染まった者たちが何人もこちらにやってくる。さっきの人殺しとおそらく同じ目をして笑顔を浮かべていた。
もはや、それらをただの人間とは思えない。生きた者を殺し、自らは笑う。殺人鬼そのもの。
ゴードン「なんてことだ! 見た限り何人もいる。しかも全員が貴族じゃないか! みんなは逃げてくれ。ここは私が食い止めてみせる。命に代えても!」
絶望的な状況でもたった一人で抗おうとする。そんな彼を心配しつつも避難民たちは別の場所に逃げる。逃げれば、生きてさえいいればなんとかなるとみんなが思った。
三十人以上は死んでいた。あの虐殺で何もかも奪われ、そして今回でも奪われた。悲劇は連鎖的に続く。
ゼスト(みんなどうかしている! なんでそんな簡単に人を殺せる!? 苦しいから、辛いからって誰かを殺していい理由になんてならない。)
狂人を見て、走りながらもゼストは少しだけ落ち着いてきたつもりだった。あれが狂った末路だとしたら、リリアがいなければああなっていた可能性もあった。
何がきっかけで狂ったのか、時間を置いてまともに考えれば答えは出るかもしれなかった。だが、誰も答えまでには行き着かない。
走りたどり着いた先には、リリアが先に待っていた。彼女の無事にゼストは心から喜んだ。
ゼスト「良かった。リリアは無事だったんだね。」
リリア『私も何とかここまでたどり着いた。』
彼女は彼だけでなく、他の者たちの生存を確認する。
リリア『私、疲れちゃった。』
ゼスト「こんなことがあったんだ。誰だって疲れる。」
彼女はそう言って震える足で彼の側を離れようする。心配でついて来ようとする彼を静止させる。
リリア「ついて来ないで。…………もう何もかもが嫌になった。世界なんて嫌い、壊れてしまえ!』
突然、リリアが豹変する。さっきまでとは違う顔でゼストを睨み付ける。彼女の目が先程見た者の目に変わる。
彼女は糸を操る能力を使い、生き残った者たちの首を糸で巻き付け窒息死させていく。何人もの人がもがき苦しみ死んでいく。その光景を彼女は間違いなく見て笑った。それをゼストは見ているだけしか出来なかった。
ゼスト「これは夢だ。そうだ、あり得るはずがない。こんな、こんな……」
ついに糸が彼の首にまでくる。あっという間に動けなくなり死のふちに立つ。
リリア「……殺して
やる!
彼の耳に聞こえたであろう言葉が全てを壊していく。今までのことが全て嘘であったみたいに。もう死ぬのか、と覚悟を決めた瞬間に糸が消えた。
サリア「間に合って良かった。」
間一髪と思われるところでサリアが彼女を射殺した。




