53話 ここから地獄
あの地獄のトラウマが蘇る。体は動いていないのに心が逃げ続ける。ここではないところへと必死に走って行く。
ただの妄想という逃避行。
「逃げろ!」
その声を発した者は、このあとすぐに引き裂かれ別の何かに変わる。ゼストの顔に赤いものが飛び散りようやく手が少し動いた。
顔に手をやり、触ったそれが何か理解するのは一瞬でできてしまった。
自分も目の前と同じになる。そんな恐怖が彼の体をついに動かした。
出口に向かってがむしゃらに走る。液体で滑りこけても気にもしない。ただ死にたくない、ここから逃げたいの一心だった。
外に出ると同じ生きた避難民が大勢いた。
そして、その奥に血塗れで歩いてくる者がいた。その者が近づくと近くにいた者が表情を変えて逃げていく。
「こいつに殺される!」
逃げた瞬間にもう彼らの命は消えていた。奪った者はゼストにも見覚えがある避難民だった。話したことは数えるほどしかなかったが、人を殺すような悪人には見えなかった。
だが、現に目の前で人を殺している。きっと部屋の前で見たあれも同じなのだろう。
ゼスト(訳が分からない。これじゃあまるであの男と同じじゃないか!)
人を殺した男は遠隔で他人の体を破ることができる能力で貴族だった。返り血を浴びて笑っていた。
貴族『平民を殺すのは気分がいい。なんでこんなこと今までやらなかったのか? あははは!』
狂って狂って狂い続ける。何が彼をここまで追い詰めたのかゼストは知らない。
ゴードン「みんな、伏せろ!」
狂った貴族を駆けつけたゴードンが撃つ。急所が外れて貴族がゴードンを狙う。急いで次の引き金を引き、頭を撃ち抜いた。
これで一人、殺人鬼はいなくなった。
ゴードン「遅くなってすまない。」
その場にいた誰もが彼を称賛し感謝した。しかし、誰かがこう言った。
「まだ何人もいる。」
その言葉で心が凍り付く。言われてみればたった一人であそこまでの惨劇は難しい。
希望がすぐさま絶望に切り替わる。




