52話 ドアを開いて
朝になり、部屋でリリアは起きた。体の調子は少し悪く、頭痛がする。昨日から徐々に強くなってくる。ここには薬はあるがそう多くはない。他の避難民のためにも使うわけにはいかなかった。
リリア「これくらいみんなの辛さや苦しみに比べてたらなんてことない。そうよね、ゼスト。」
近くにはいない彼の名を呟く。辛いのは誰も変わらない、そう考えたかった。
リリア「お父さん、お母さん。……私、頑張れているよね? 二人がいなくても立派な人に……なれるかな?」
返事なんてあるはずはない。そんなことは頭では理解できている、それでも心は何かにすがりたかたった。
部屋のドアを叩く音が聞こえる。ゼストが食料を持ってきてくれたようだ。食料なんて保存食や質素な食べ物でまともとはあまり言いづらかった。だからこそ、少しでも心が満たされるようにと彼は気を遣った。
ゼスト「食事、持ってきたよ。ここに置いておくよ。良かったら今夜、屋上にきてほしい。見せたいものがある。」
リリア「ありがとう、ゼスト。今、着替えているから後で頂くね。夜はいけたらいくね。」
ドア越しで二人は会話する。
彼女は着替えている最中ではない。鏡を使って化粧をしていた。化粧品は私物であまりまとも多くはない。少ない物で青ざめた顔を何とか誤魔化していた。平常心を保つため、ゼストに心配かけないためだった。
夜の九時になり、リリアは震えた手で部屋のドアを開く。具合がよくはなかったが部屋にいたままでは良くならないと感じた。屋上にたどり着くとそこにはゼストが先に待っていた。
リリア「ごめん、遅くなった。」
ゼスト「時間はいってなかったからね。来てくれてありがとう。空を見て。」
空を見上げると綺麗な星が沢山あった。この世界は狂っていくばかりなのに宇宙と星は変わらない。
リリア「綺麗な空。」
彼女は無意識に笑顔になる。顔色も少しだけましになった。
ゼスト「良かった。元気が無さそうだったから。この前のお礼もしたかったし。」
隠していたはずのことがばれていた。ドア越しの会話でゼストは見抜いていた。そんなゼストを嬉しく思う。
リリア「ねえ、いつかまた星を見ようよ。ここじゃなくていい。こんな世界じゃなくなって世界が平和になったときに。約束だよ?」
ゼスト「ああ、必ず果たすよ。」
約束を交わして二人はそれぞれの部屋に戻る。その時の二人はすぐに眠れた。
夜中の十一時半ぐらいのゼストの寝室。とてつもない寒気に襲われ、彼は飛び起きる。耳に聞こえるはずの何かを完全に無視する。脳が情報を無意識に遮断する。
ドアを開いて、廊下にでる。
すぐに見えた赤色の床や壁。いつもと変わった様子もなんてない。彼は喉が渇き水を飲みに行こうとする。
イタイ、イタイ、クルシイ、シニタクナイ、ダレカタスケテ
聞かない、聞こえない、見ない、見えない。
ゼストは何事もなかったかのように歩こうとする。一歩を踏み出しただけすべてが狂った?
いいや、それがそれこそが正常だ。彼の脳に真実が叩きつけられる。
泣き叫ぶ声、助けを求める声、断末魔、笑い声。
血の臭い、血塗れの廊下、その先にはいくつもの死体。
どうして、誰が?
あまりの情報に頭が混乱し、錯乱する。あの地獄が再臨する!




