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能力社会  作者: コイナス?
1章 憎しみの世界
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35話 吐き出した思い

 ゼストは一週間経った今でもキルーズ家の家にいた。葬儀などで数回出かけはしたが必要最低限しか外出しなかった。この一週間に避難していた人の九割以上がここから出ていった。別のところで住むところを見つけた者もいれば復讐のためにジェノサイドスレイに入った者もいた。ミーアもその内の一人でもあった。

 ゼストの心の傷はまだ癒えていない。姉セリカとの関係、両親の死など受け入れがたい事実ばかりが彼を追い詰めていた。


リリア「ゼスト!」


 その声は彼にとって聞き覚えのある声であり同時に救いともいえる声だった。孤独から解放されたことが彼にはとても嬉しかった。


ゼスト「どうしてここに?」

リリア「ここに住むことになったの。」


 リリアは事件のことに関しては伏せることにした。あの日は彼女自身はあの場にいなかったがニュースなどでどれほど悲惨な状況だったかは知っていた。それに彼女はゼストの両親が亡くなったことも知っていた。それ以前にこのことを掘り返すのは無神経だとも思っていた。


ゼスト「ガイアはまだ向こうにいるの?」

リリア「ガイアさんはあと何日かしたら一度ここに戻ってくるって。後、セリカさんも向こうで一緒に作業しているみたい。」

ゼスト「姉さんって向こうにいたの?」

リリア「うん。私は会っていないけどガイアさんからの連絡ではそう聞いているわ。」


ゼスト(いないと思ったらそんなところにいたのか。もう俺たちとは会わないつもりなのか?もう元の様には戻れないのか?姉さん……)


リリア「ところでミーアちゃんはどこに?怪我でもしたの?」

ゼスト「もうここにはいない。」

リリア「え?どういうことなの?」

ゼスト「ここから出て行ったよ。行先はよくは分からない。多分もうここには戻ってこない。」


 リリアには何があったかは全く分からなかったがただならぬ状況だということは分かっていた。事件によって命を奪われた人や人生を狂わされた人は数えきれないくらいいることは当然リリアだって分かっていた。ミーアもその中の一人になったとしても何一つおかしなことではなかった。


ゼスト「ミーアは……奴隷たちに復讐しに行ったよ。俺はミーアを止めることができなかった。……違う、止めようとしたふりだったかもしれない。止めたくなかったのかもしれない。俺は心のどこかで復讐を望んでいたのかもしれない。奴ら奴隷に、キル・コープスに裁きが下るのを。

俺は最低だ!自ら手を汚さずに誰かが裁きを下すのを望むだけだなんて!」


 あの日からゼストはただの傍観者だった。両親を殺されたあの日何もしなかった。ミーアの時も何もしなかった。彼自身は何もしていない。何かはできていたはずだった。できることは確かにあった。今この瞬間も別の場所で大勢の人が殺されている。それは奴隷かもしれないし平民や貴族の可能性もある。しかし、ゼストではない。彼は殺す側ではない。今までもこれからも彼だけは……。


 そんな彼にリリアはこう返した。事件のことを話すつもりではなかったが話すことにした。


リリア「私だってゼストと同じことを思ったよ。キル・コープスは死ねって。私はあの日はあの場にはいなかったけど私だってあいつが憎い!多分ここに避難している人やしていた人のほとんどはそう思っているはずよ。あなたは何も悪くない。」


 彼女も両親を殺されていた。彼女も被害者の一人であった。もう今となっては無関係な人の方が遥かに少ない。世界全体がキル・コープス事件によって大きく変わってしまったため必然といえた。


ゼスト「それだけじゃない。俺……あの事件の前にガイアから警告があったんだ。あの街ではあの事件の前から何人も行方不明になっていたらしい。今だに行方は分からないけど多分キル・コープスが関わっていたんだと思う。それを俺は確かにガイアから聞いていた!なのに俺は何もしなかった!!周りの大人に危機を知らせることもしなかった。たったそれだけでも犠牲を少しでも減らせたはずなのに!俺は彼らを見殺しにした……。」


 彼は自分のせいだと思い込もうとした。キル・コープスへの憎しみを少しでもごまかすために。何より今のこの事実をどのような形であれ受け入れるために。

 そして、今までため込んでいたゼスト自身の醜い感情を吐き捨てた。誰かに聞いてもらいたかった。ただそれだけだった。別にそれはリリアでなくても構わなかった。

 それをリリアは黙って聞いていた。彼女は今まで知らなかったゼストの心の闇を知ってしまった。それでもリリアは彼を否定しようとはしなかった。彼のそれすらも受け入れ、優しく抱きしめた。


リリア「もう無理しなくていい。」


 たったその一言でゼストはとても救われた気がした。ゼストはその場で泣き崩れた。プライドや意地、恥などもう今の彼には関係などなかった。彼女がくるまで我慢しているつもりは彼自身にはなかったが知らず知らずの内にため込み続けていた。事件の恐怖、ストレス、不安、悲しみ、そして憎悪。

そのどれもがこの場にいる人間が抱えたものだった。ゼストのそれらすべてが解消されたわけではなかったが、今の彼の表情は以前より良いものになっていた。

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