27話 狂気の果てのきょうき
ここはイギリス領の街。この街は平民の割合が高く、次いで奴隷、最後に貴族だった。多くの平民は奴隷を買っており、ごく当たり前のように使っていた。この街だけが特別そういうわけではなくこの世界全体も同じだった。当然ながら安全、信用面から奴隷を一切使おうとしない者も中にはいた。この街ではそういった者はごく僅かであり、奴隷を酷使する者が大半だった。
イギリス軍も身分が奴隷である兵士が多数存在し、そこから出世し特別に平民や貴族に格上げされた者もいる。しかし、それはかなりの功績を残した者のみである。軍に入ることすら奴隷にとっては敷居が高く運頼みで、尚且つ生存率も決して高いとはいえなかった。その奴隷の死体とこの街の奴隷の死体はまとめて奴隷倉庫に運びそこの奴隷が処分することになっていた。時には、そこ以外からも運ばれることもあった。普通なら奴隷に死体の処理を任せるのは外での作業のため脱走の危険性があった。しかし、その奴隷は他の奴隷と比べて奴隷以前の記憶が一切なく、また能力が全く使用できない都合のいい人形と判断されたという経緯があった。その経緯などこの街の人間は誰一人として知らずに過ごしていた。
アース帝国内には『自由の民』という平民が主に活動しているテログループがあったが、標的は貴族であるため、自由の民を自称する者も含めこの街どころかイギリス領にはほとんどいなかった。そのこともあり、この街の治安は国内でも高い方でもあった。
奴隷倉庫にいたほとんどの奴隷たちは外の世界は十年ぶりだった。そして、キルにとっては初めての外の世界ともいえた。キルたちがついたこの街は奴隷倉庫から少し離れていた。トラックの荷台から荷物を出し、ホテルに一部を運んだ。それぞれの奴隷が自分に必要な分だけ荷物をとっていった。
キル「各自チェックインを済ませたら後は自由にしろ。」
ほとんどの奴隷は街に出かけて行った。しかし、キルは街ではなく近くの森へ探索に向かった。リザたちは外の世界に夢中でキルの監視を忘れていた。
そして、一か月の時が流れキルの計画が始まろうとしていた。奴隷倉庫にいた奴隷の約九割が協力することとなった。協力しない者は運よく職と住むところを手に入れた者だけであった。その者たちは奴隷であることをうまく隠してこの街に住むこととなっていた。キルに協力するということは世界を敵に回すということ。協力する者たちはそのことを理解していた。しかし、彼らはこの街で奴隷がどういう扱いを受けていたのか目の当たりにした。そして、この街で奴隷の死体の山を見てしまっていた。これが奴隷の末路だと、この街に住む平民がしたことだと彼らは思い知らされた。だからこそ、彼らは協力することにした。
だが、真実は違っていた。実際にはまだ山になるほど死体はなかった。キルが奴隷たちの憎悪を平民に向けさすためにあえて街で奴隷を雇い、殺して死体の山を作り上げた。そのことはキル以外に誰も知らなかった。
キル「今夜、作戦を決行する! そして、俺たちは世界を変えてみせる!!」
作戦の説明を済まして、奴隷たちの士気を上げるようにした。各々、覚悟を決める。
シークレット(これから始まるんだ。私たちの戦いが……。)
クリーン(絶対に失敗はできない!)
リザ(必ず救ってみせる!)
バゲージ(もう犠牲は出させない!)
スジュン(これが果たして正しいといえるのか? 俺たちがしようとしていることは……。)
やがて夜になり作戦が始まった。襲撃班、電話班、鉄塔班の三班のうち、電話班が行動に移った。電話班の指揮はクリーンが行っていた。電話班の役割は警察や消防車などがこの街に来ないように偽情報で誘導することであった。
クリーン『キル、こちらの班はうまくいった。』
クリーンはキルが平民から強奪した携帯電話で連絡をとる。
キル『予定通り、時間になったら車でこちらの班の援護に回れ。ただし、こちらから連絡できなくなるからお前の自己判断で頼む。』
クリーン『分かった!』
作戦の第一段階は無事完了していた。次はシークレットの鉄塔班。奴隷倉庫にあった爆弾を合わせてこの辺りの鉄塔の一部分を破壊し、この街全体を停電させることが目的。数が多く頑丈なため時間が思ったよりはかかったが無事に完了した。この班も後で合流することとなっていた。
そして、キルが率いる襲撃班の出番となった。最も重要で人数も多い班である。準備も入念にしていた。キルは監視されないようにリザとリザの仲間の候補となる者は別の班にしていた。これで邪魔者はいないことになる。
キル「今更だが訂正がある。奴隷たちを救出といったが俺はそんなことをするつもりは始めからない。これから俺たちが為すことは、平民、貴族を虐殺すること! 女、子供、赤ん坊だろうと皆殺しだ! この作戦に不満があるものは今すぐここから逃げてもらおう。ただし、邪魔をすれば殺す。」
それを聞いた襲撃班の奴隷たちは激しく困惑した。元々キルは奴隷を救出するつもりなどない。この街の住人の虐殺が目的である。しかし、そんな中一人の奴隷がこういった。
奴隷「キルの言う通りにしよう、みんな! だってあいつらは俺たち奴隷を殺しまくったんだ! みんなだって見ただろう?あの死体の山を! だから、あいつらを同じ目にあわせよう!」
その奴隷は無責任なことを言った。この言葉で一体何人の人間が死ぬかそんな重みなど全く知らずに。キルはこうなるように仕組んだ。その場の雰囲気に流されやすい者を班に入れ考えることを放棄させた。平民、貴族を憎悪の対象にし作戦をスムーズに進むようにした。そのために平民、貴族から金を奪い殺害もした。当然、死体は発見されないところに破棄した。殺した人間の数などキルにとっては覚える必要もなかった。
キル「さあ、虐殺を始めるとしよう!!」
キルたちは武器を持ち、キルがこの一か月の間に街全体の建物などに仕掛けておいた爆弾を起爆させた。建物からは煙が舞い上がり大勢の人が逃げ回っていた。夜であったのに燃え盛る炎で当たりは明るかった。
キルは街の中で人々に爆弾を投げつけ次々と殺害する。殺し損ねた者は銃で撃ち殺した。突然のことで平民は反撃などできなかった。この街の奴隷と思われる者も混じっていたがキルは何の戸惑いもなく殺した。奴隷であってもこちらの味方になるとはいえない。キルにとってこの街にいる生きている奴隷は邪魔者でしかない。様々な叫び声、断末魔がキルの耳に入った。
平民「いやだ! 死にたくない、死にたくない、死にたくない!!!」
子供「いたい、いたいよ! 助けて……ママ!」
母親「あの子は……どこにいるの?」
貴族「私を誰か助けろ!! 金ならいくらでもある! だから……命だけは!」
キルはそんな声を気にもせず殺し続けた。
キル「ふふふ、ふはははははは!! あっははははは!!!」
キルは思わず狂喜した。目の前の平民を虐殺できている自分に、そしてこの状況に。キルはこの行動が異常なことは分かっている。悪だということも。しかし、キルにとってそんなことはどうでもよかった。
キル「最高だ!! あの憎き平民どもをこうして殺しつくせるのだからな!これほど素晴らしいことが今まであっただろうか?いいや、ない。まだ! まだ!! 殺し足りない!!」
キルは平民たちを殺せることが素晴らしいと感じていた。
襲撃班の奴隷もキルに続いて戸惑いながら平民たちに引き金を引いた。
平民「私たちが何をしたっていうのよ!?」
足を怪我して動けなくなった平民の女が叫んだ。その平民に奴隷が止めを刺そうとするが躊躇した。前にジークに発砲した時は集団で自分の弾は当たっていないと思っていた。自分は人殺しじゃない、その奴隷はそう自分に言い聞かせていた。しかし、今彼がしようとしていることは間違いなく人殺しという行為。彼はそれを選ぶことはできなかった。その間にキルが止めを刺した。
奴隷「ああ……うあああああ!!」
もうその彼は精神的に限界に近かった。自分は人殺しではない、確かに彼の考えは間違いではない。しかし、目の前で人が死んだ。彼の選択など意味はなかったと告げるかのように。はたして目の前で死んだ平民の彼女は殺されるようなことをしたのか? もし、罪を犯していたとしてもその罰は自分が下していいものか?そんなはずはないと彼は心の中で即答した。だが、もう彼女は死んだ。いくら彼が悲しもうと後悔しようと変わらない。彼の大切な何かが抜け落ちた。それと同時に間違っていると感じた。今度こそは自分の選択を、行動を起こすと彼は誓った。精神的にかなりきつかったがなけなしの勇気を振り絞った。彼はキルに止めるように訴えた。
奴隷「キルお願いだ、もう……止めてくれ。」
奴隷はキルの前を遮った。しかし、遮ったのは僅かな時間で遮った瞬間にキルがナイフで奴隷の首を切り、殺害した。一瞬の出来事で奴隷は何が起こったか分からないまま死んだ。
キル「邪魔をするなといっただろう?」
ただの作業を行うかのように殺害を行った。キルには後悔も憐れみもなかった。誰であろうと殺すことに躊躇も迷いもない。キルほどではなかったが他の奴隷も無抵抗な者たちを虐殺をしていた。
平民「君は人間か?」
重症を負って倒れて動けない一人の平民がつぶやいた。その言葉はキルに向けられたものだった。
キル「まだ、生きていたか!?」
その平民に止めを刺そうと近寄った。
平民「殺してくれる前にどうか聞いてほしい。私は君に感謝している。」
キル「何だと!?」
その言葉を聞いた時、平民に向けられていた銃口が下に変わった。殺意が薄れたのを何となく感じたその平民はこう続けた。
平民「君があの貴族を殺してくれたのだろう? あの貴族は奴隷であった私の娘を殺した。ひどい殺され方だったよ。あの貴族は娘を玩具のように扱い、最期には射撃の的にされて全身に穴が開いていたよ。そんな貴族に平民だった私は何もできなかった。娘を救うことも仇を討つことも! でも、君があの貴族を殺してくれた! 私にとって君は神に見えたよ!! 私の命と引き換えに私が一番願ったことをしてくれた。」
平民は泣きながらキルに感謝を伝えた。だが、キルはこう返した。
キル「俺は神なんかじゃない。ただの人殺しの人間だ。」
キル自身が一番それを理解していた。どんな理由があろうと人殺しは悪であり決して正当化できないし、キルはするつもりもない。彼自身できることは限られており、今の彼の選択は人を殺すことのみ。さっきの奴隷の彼のように別の選択はあったかもしれない。だが、キルの生き方はもうあの日、あの瞬間に決まっていた。無力で愚かな人殺しとして……。
平民「人間か、他の人は君のことをきっと死神と思っているよ。でも、君が世界中の人間に憎悪と殺意を向けられても、私だけは君に感謝をしている!! 本当にありがとう!」
キル「言いたいことはもうないか?」
キルは銃口を平民に向け直した。
平民「後始末までしてくれるのか? 本当に君には感謝してもしきれないな。」
キル「ここまで苦しめてしまってすまない。次で必ず殺してみせるよ。」
キルは平民の頭を確実に撃った。キルが今までした行為は決して許されるものではない。大勢の罪もない者を無残に殺害した。その事実が変わるわけがない。
キル「……ここはもう生きている奴はいないか?」
自分たち以外に生存者がいないことを確認し次の場所に向かった。ここまではうまくいっていたが別のところでは平民たちが体勢を立て直し始めていた。先ほどの奇襲ほどうまくできる可能性は低くなった。
キル「ここは終わりだ! 次の場所に移る!!」
キルはまともに動ける者を引き連れ、生きている平民がいるところに向かった。この地獄に耐えきれなくなくなった奴隷たちは心中した。自分たちのしたことの罪の大きさに今更気付いたからか、考えることを放棄したからかは分からない。まともに動ける奴隷も精神的にかなり追いつめられていることには変わりない。混乱で動けない者も何人かいた。この虐殺に何の抵抗もない者はキルただ一人。キルがかつていたところは屍の山で埋め尽くされていた。
次の場所でもキルは虐殺を行う。しかし、襲撃開始から時間が経っており避難しようとする者やこの状況の異常さを察している者もいた。対して襲撃側の奴隷は人数が減っており残った者も混乱しており、戦闘を続けるのは困難であった。平民たちの一部の勇敢な者がキルたちに反撃をしていた。
平民「よくも娘を殺したな! 殺してやる! お前らなんか人じゃない!悪魔だ!!」
奴隷「違う! 私は言われた通りにしただけで……」
その奴隷は平民に刃物で切り裂かれ命を失った。それをみてしまった他の奴隷たちは逃げようとするが平民に追いつかれ何人もの奴隷が死んだ。平民といえども能力者で基本的に奴隷を上回る戦闘力を持つ。
平民「はあ、はあ。まだい」
平民たちの僅かな隙にキルは拳銃を撃った。味方であるはずの奴隷たちすら巻き込んで。戦闘力そのものは平民の方がキルより圧倒的上だが不意打ちには勝てなかった。しかし、無傷とはいかなかった。
キル「こんなクズに何人もやられるとは。計画通りにはいかないか。しかし、このまま撤退したら作戦は失敗に等しい。武器はまだあるからまだ殺せる!」
キルは残存している奴隷を確認した。キルを除き僅か四名だけだった。しかも怯えた様子でキルが見ても戦いなどできる様子ではなかった。キルは苦肉の策に出た。
キル「よく聞け! お前たち全員作戦開始前につげた合流地点に戻れ。そこにはもうすぐクリーンとシークレットの班がくるはずだ。合流しだい、俺を置いて先に隠れ家に早急に逃げろ! 俺も作戦終了すればそちらに向かう。武器を捨てて逃げるように走れば奴らも攻撃しないはずだ!」
奴隷「でも、もう足が動かない。」
その奴隷は足を怪我したわけではなかったが、恐怖で動けなくなっていた。
キル「ならば他の三人に担いでもらえ! 何としてでも生きてたどり着け!」
奴隷たちはこの場をキルに任せて、助け合いながら合流地点に向かった。
キル「ガラにもないことをするものじゃないな。だが、平民の奴らに手駒を殺されるのは非常に不愉快だ! シークレットとクリーンなら優秀だから後のことはうまくやれるだろう。それにこれからのためにも彼らは必要だ。奴らを殺すために!」
キル自身も平民たちの反撃で軽傷を負っていたがそのまま一人で戦い続けた。
自宅のベットで寝ていたゼストは爆発の音で目を覚ました。異変を感じたゼストは窓を開ける。そこには燃え盛る炎と逃げ惑う人々が見えた。一瞬で異常だと分かった。
ゼスト「何これ!?」
彼にとって初めてみた地獄のような光景だった。急いで家族を起こしに行ったが、三人は既に起きていた。
ゼスト「何が起こっているの?」
母「それが全く分からないの。火事かと思ったけどそれだけじゃないみたい。父さんには連絡しようにも電話の回線が込んでいるせいか連絡が取れない。」
ゼスト(まさかこれがガイアが言っていたこと!?)
セリカ「とりあえず無事な近くの避難所に逃げましょう!」
四人は軽く荷物をまとめ避難所に向かった。
車で合流地点についたクリーンたちは目の前の光景が幻だと思いたかった。この異様な光景は走行中の車からでも確認できたが、実際近くでみるとでは全く違っていた。あたりは炎に包まれた建物、そして見るも無残な数多くの死体がそこら中にあった。まさしく地獄そのもの。クリーンたち奴隷はその光景に拒絶するかのごとく激しく嘔吐した。彼らにはここで何が起こったかなど理解するどころか思考すら至らない。ただ目の前の現実から目を逸らすことに精一杯だった。
クリーン「誰が一体こんなことを!? こんなの計画通りじゃないじゃないか! 一体これから俺たちはどうすれば!?」
クリーンはこの班の指揮を任されていたが、今の彼にまともな判断などできない。今の彼に分かることは計画は失敗だったということだった。
少し遅れてシークレットの班が合流した。急いでシークレットはクリーンに今の状況を聞き出そうとする。シークレットにとっても耐え難い光景であった。
シークレット「これはどういう状況?」
クリーン「わから・・・ない。何も、どうすればいいのかも。」
シークレット「そう。だったら、キルはどこにいるの?」
クリーンは頭を横に振った。ここにいる者は誰もキルの居場所を知らないし、どうしてこうなったかも分らなかった。シークレットの班の班員もこの光景に混乱し拒絶していた。その中でもリザの反応は目立った。
リザ「うあああああああああ!! ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!!」
リザは今のこの状況、この地獄に地面に膝を着き発狂した。リザにとってはこれがキルの仕業だと一目で分かった。監視を行っていたらこんなことにはならなかったはず、私なら止めるれたと激しく彼女は後悔した。自分のせいだと、あの時キルを殺しておけばと彼女は自分自身を責め続けた。自分がこの街の住人を殺したのも同然だと。
リザ(キルの目的は、奴隷の救出なんかじゃなかった。私がキルを信用したばっかりに! こんなこと私は望んでいない! ……今の私にできることをする。それが唯一私にできる罪滅ぼし!)
リザは立ち上がる。キルと敵対する覚悟、いや自分の正義を貫く覚悟を決めて。
リザ「みんな、よく聞いてくれる。私はもうキル・コープスには従わない。私はキル・コープスを止めてみせる!」
シークレット「止めるってまるでキルがこんなことをしたっていいたいの!? いくら何でもキルはそこまでしない! ソウイン、あなたどうしたの? 他のみんなもキルがここまですると思っていないでしょ!?」
シークレットは他の奴隷に同意を求めた。しかし、クリーン以外誰一人同意しなかった。彼らは思い出したのだ。キルがどういう人間で仲間である奴隷すら殺したことを。
シークレット「みんなはどうしてそう思うの? 確かにキルは職員を殺しているけど、自由のために戦っただけで……」
シークレットは言葉の続きが出てこなかった。本当は彼女も薄々感づいていた。キルが職員を皆殺しにするっていったことも覚えていた。キルは自由のために戦っているわけでも奴隷のために戦っているわけでもない。
シークレット(どうして私はソウインの言っていることが否定しきれないの? どうして信じられないの? 一緒に戦ったのに……私は最低だ!)
リザ「シークレット、私はもう奴隷のソウインじゃない。リザ・マーティン! もう縛られるつもりもない。……キル・コープスはあの時職員を道連れにするために仲間の奴隷を二人も殺した。それを知らないのはシークレットとクリーンあなたたちだけよ。」
二人にとっては衝撃の事実だった。クリーンはすかさず否定しようとする。
クリーン「そんなわけないだろ! つまらない冗談はやめろよ、リザ! いくらキルを嫌っているからって言っていいことと悪いことがある!」
バゲージ「……本当のことだ。もう二人はどこのみいない。」
クリーン「嘘だろ……?」
クリーンとシークレットは信じられなかった。でも、もしバゲージとリザの言っていることが正しければ今回のこともキルの仕業である可能性が高くなる。頭の中でクリーンはずっと混乱していた。何一つクリーンにとって理解できないことばかり。そんな中シークレットは迷いを捨てこう返した。
シークレット「仮にそれが本当だとしても後でキルに聞けばいいだけの話。私はまだキルについていく。そして、今の私にできることはこの状況で最適な判断を下すこと! 私とクリーンはキルに判断を託された。その責任は果たす。キルに従えないと思う者はここから速やかに退避して!まだ私と共にキルに協力する者はできるだけ生存している仲間を探し隠れ家に向かう。」
リザ「シークレット、それは本気で言っているの?」
シークレット「本気よ。」
リザ「分かったわ。説得は無理なようね。」
結局、シークレットとクリーンしかキルについていくものはいなかった。誰も人の命を何とも思わない人間についていくものなどいない。能力という力もなければ、人望も信頼も皆無に等しい醜い復讐心のみで行動するキルについていくシークレットとクリーンが異常とも言えた。
リザ「私はこれからキルを追う。みんなが私に協力してくれるならみんなは身分に関わらずまだ生きている人を助けてあげて!」
リザたちはキルを追いかけ、他の者は救助に向かった。シークレットとクリーンも生存者を探しに向かう。彼らは従う者は異なっていても目的はほぼ同じだった。
しばらくしてシークレットと襲撃班の生き残りが合流した。
シークレット「無事でよかった! 他の人は?」
奴隷「みんな死んだよ……。自殺した者や殺された者もいた。キルだけはまだ残っている。」
シークレット「だったら私が助けに」
奴隷「待って! キルは自分を置いて先に行けっていっていた。だから、俺たちだけで逃げよう!」
シークレット「そんな見捨てるようなことできない!」
奴隷「行っても足手まといになるだけだ。現に俺たちはほとんど何もできなかった。人を殺すのが怖かった! 自分のせいでこんなことになったって思うと死にたくもなった。でも、自殺する勇気も殺すことももうしたくなかった。だから、ここから逃げよう……お願いだ。もう現実を見たくない。」
シークレットはキルが返ってくることを信じて車に六人を乗せ隠れ家の場所に向かった。キルとリザたちが乗る分車は残したままにした。
シークレット(待っているから、キル! ……リザ、あなたはあなたで戦うというのなら私は止めない。さようなら、できれば女性同士もっと仲良くしたかったわ。)
キルは民家を一件一件回って生存者を確認していた。ほとんど逃げていたが足が悪く動けない者や爆発に巻き込まれて身動きが取れない者、逃げ遅れた子供などがいた。キルは生存者を発見次第、殺した。動けない者は骨で刺殺し、子供には何発もの銃弾を必要以上に撃ち込み死んだ上で何度も骨で滅多刺しにした。明らかにやりすぎでキルの異常さを現していた。抵抗しない者も命乞いをする者、大事な人を庇う者も一人残らず殺し続けた。非情で残虐、残忍。キルの行動を見た者全てがそう思うだろう。
キルは爆弾で崩れかかったマンションに入った。非常階段は使い物にならず今すぐにでも崩れそうだった。中も瓦礫ばかりだった。ここにはもう生存者はいないそう思いキルが立ち去ろうとした時瓦礫の中から声が聞こえた。止めを刺しにキルが向かった。そこには予想にしていなかった者がいた。
奴隷「キル!? どうしてここにいる?」
そこにはかつて奴隷倉庫にいた奴隷で一か月間でこの街に住むところを見つけていた。しかし今は瓦礫に足が挟まって足首が切れていた。彼自身、もう自分が助からないことは知っていた。彼の状態を見てキルも悟っていた。
奴隷「キル、お前には感謝しているよ。お前のおかげで自由になれて仕事と住むところもようやく見つかった。でも……ついてないな。こんなことになるなんてな。」
奴隷は自らの不幸を嘆いた。彼は今回の原因がキルであることを知らない。
奴隷「キルは早くここから逃げろ! テロリストがまだこの近くにいるらしい。いつ襲いに来るか分からない。」
キル「お前はどうする?」
奴隷「俺は……もう動けない。」
キル(やはりな。)
キル「これをやったのは全て俺だ。」
奴隷「え?」
キルは奴隷にそう告げ彼に向け拳銃の引き金を引いた。
キル「この街にいなければ殺されることはなかったのにな。弾が一発分もったいないが仕方がないか。これは俺のミスだな。」
今回もあっさりと殺害した。しかし、平民、貴族の殺害と違って一切の興奮もなかった。
キル「弾の心配しかしないのは人殺しになれた証拠だな。これは何も楽しくもない。さっきまであんなに笑いながら虐殺していたのに。」
キル自身すら知らず知らずに今回は気持ちが変わっていた。
キル「別の街なら死なずに済んだのに……。いや、ここで殺した方がこいつにとってはよかったかもしれないな。」
キルはマンションをあとにし次なる標的を探しに行った。その先にも爆弾で負傷した者が大勢おり、かすかに息がある者に引導を渡した。しかし、順調には行かず残った力でキルに抵抗した者もいた。その抵抗でキルの体にいくつか傷ができた。
キル「まさか、死にぞこないが攻撃してくるとは! 奴らもただでは死なないということか!!!」
すぐさま抵抗する者を撃ち殺す。キルもこれ以上続ければ自らの命が危ういことも知っていたがもう止められるわけがなかった。
ゼストの父「早く逃げてください!」
仕事場にいたゼストの父親は近くの住民の誘導を率先して行っていた。ほとんどの者が我先にと逃げる中彼だけが弱い者を見捨てなかった。足が動けなくなった者さえ担いで避難させようとまでした。
父「これでこの辺はみんな逃げられたかな?」
彼が当たりを見渡すと傷だらけの少年がいることに気付く。しかし、その少年はキル。彼はそんなことなど知るわけがない。
父「君、大丈夫か!? 早くつかまって。ここは危ないから!」
キル「他のみんなはどこに?」
父「近くの避難所にいるよ。君も早く行こう!」
彼はキルに優しく手を差し伸べる。だが、非情なキルはそれを拒むどころか骨で彼の腹部を突き刺す。倒れて動けなくなっても何度もそれを何度も繰り返す。彼には何が起こったか理解できていなかった。
父(どうして目が、体が……動かない? あの少年を……早く……たす……)
彼は少年の安否を気にしたまま絶命した。その少年に殺されたことを知らないまま逝けただけでもましだったのかもしれない。キルはゼストの父親の服装を見て警察の人間と思い、何か武器になるものがないか漁る。拳銃を見つけにやりと笑みをこぼし自分の物とした。
キル「避難所にまとまった獲物がいるのか。これで一気に奴らを始末できる! やっったああーー!!!」
傷がまだ癒えぬというのにキルという狂気は今だ止まらない。
キルはようやく避難所となっている学校の体育館を見つける。逃げた全員がここにいるわけではなかったがかなりの生存した者がここに集まっていた。
キル(さて、どうやってやろうか? 逃げたフリして中で殺すのもいいが全員始末は無理だな。まだ、爆弾は少なからずある。)
キルは建物の周りに爆弾を仕掛けそれが終わると助けを求めたフリをして体育館の中に入った。ただの少年と思われたためあっさりと中に入れた。
中には大勢の避難民がいた。中は広いはずだが人の多さで狭く感じた。
キル(まだこんなにもいたのか!)
あふれ出そうな笑いをこらえつつ人々の中の手荷物などに爆弾を仕込んでいく。キルは爆弾の残りがなくなると一人外に出て見える場所に隠れ潜んだ。
キル「さあ! これで一気に殺してやる!」
キルは爆弾の起爆スイッチを起動させる。体育館は爆弾にとって徐々に形を崩していく。そして、中にいた人間の恐怖の叫びがキルの耳にも届く。
キル「さてこれでそろそろ大詰めか。あそこから出てきた奴らをできる限り殺す! ……俺にして殺せた方だな。」
体育館に避難していたゼストたちは突然の爆弾に驚く。近くにいた人が突然爆発したかのように彼らには見えていた。その近くにいた人々も無事ではすまなかった。建物も爆発で崩れそうになっている。もうこの場にいた誰一人冷静にはいられなかった。一斉にその場にいた人間がここから出ようと混乱状態になった。
貴族「どけ! 私はこんなところで死ぬ人間じゃない!」
中には能力を使ってまで他社を蹴落とす者まで現れる。
ゼストはそんな状態の人々を見て全く動けずにいた。そんな時一緒に避難したミーアの声が聞こえた。
ミーア「母さん! 母さん! しっかりして!!」
ミーアが母親を抱きかかえていた。かろうじで母親は息をしていたが爆発に巻き込まれた影響でそう長くはなかった。そんな中、力を振り絞り声を出した。
母「三人とも落ち着いて聞いて。私はもう動けない。三人で逃げて。」
ミーア「嫌だよ!母さんも一緒に!!」
母「このままだとここは崩れる。だから早く……。」
ミーアも母親が言っていることは理解できているがそれを行うということは見捨てるということになる。彼女には絶対にそんなことできなかった。
セリカ「ミーア、母さんの言う通りにしよう。」
セリカは涙をこらえながらそう言った。彼女もミーアのいうようにしたかったがこのままだと全員が死ぬことが分かっていた。
母「ミーア、ゼスト……嘘ついてごめんなさい。わがままな母親で。」
母親は意識がもうろうとしているなか能力を使った。彼女の能力は血縁者のみ対象の記憶操作。ゼストとミーアの記憶の改ざんを解除したのだ。それは姉セリカがかつてこの家族に雇われていた奴隷だったという昔の記憶。二人の頭の中に一気に情報が叩きつけられるような感覚が襲った。二人は頭を抱えたまま動きが止まる。あまりに突然で反応にきれなかった。
母「セリカ、あの時ゼストを助けてくれてありがとう。私にとってあの日からあなたは娘だった。最後に……頼んでいい?」
そういってかばんからナイフを取り出しセリカに渡した。
母「これで私を終わらせたらミーアも逃げるわ。だから……お願い!」
その言葉の意味を理解したセリカの手は震えた。彼女にとっても大切な人だった。嘘から始まった生活だったけれど彼女にとっては正しくはないが間違ってはいなかった。
セリカ「う、ううううああああああああああ!!!」
セリカは母親の首に一刺しした。苦渋なる決断だった。
ミーア「嘘つき!! この人殺し! 何で? 奴隷のあんたが今までいたの? 姉のフリをして私たちをだまして! 私はあんたを絶対許さない!!」
我に返ったミーアがセリカに向かって怒りを吐き出した。信じていた者に裏切られその者に大切な人を奪われた悲しみを受け入られなかった。そのまま彼女はそこから逃げるように去っていった。
ゼスト「待って、ミーア!」
ゼストは逃げるミーアを追いかけることにした。彼も真実を受け止めきれることはできなかった。
セリカ「母さん、二人とも行ったよ。これで助かったよ。でも、母さんは……」
母親の亡骸をそこに置いたまま彼女も崩落する体育館から脱出する。
外では逃げ出した者をキルが虐殺していた。物陰に隠れたまま奪った拳銃で撃ちまくっていた。しかし、外にいたミーアがそのキルを目撃する。しかもキルが使っていたのは父親が使っていた銃。どうやって手に入れたのかミーアは一瞬で察した。
ミーア「お前が! お前が父さんを殺したのか! あの爆発もお前が!! 殺してやる! 父さんと母さんの仇ぃぃ!!」
ミーアがキルに接近する。やばいと勘付いたキルは発砲しながら逃げる。そのミーアは見たゼストは後を追うことにした。
キル「くそ! いつまで追ってきやがる!」
キルはかなりの距離を走ったがそれでもミーアは追跡する。そしてついに後ろが崖のところまで追い詰められる。
キル「もう後がない!」
キルの持っていた拳銃は弾切れとなり後の武器は骨のみ。その骨でキルはミーアに攻撃を仕掛けるがあっさりとかわされた上、ミーアの空間を切り裂く能力で空間ごとキルの体を切り裂かれる。あまりの痛みに叫び散らす。
ゼスト「ミーア! やめろ!」
追いついたゼストは人を殺めようとするミーアを止めようとする。
ミーア「放して! こいつが父さんと母さん、みんなを殺した!!」
その言葉を聞きゼストは止めるのを止めた。一瞬でも死ねばいいと思ってしまった。ミーアは攻撃を再度しかける。
逃げようとしたキルは崖から落ちそうになるが、かろうじで崖の端に手が届き助かる。しかし、崖からぶら下がった状態であった。ミーアもトドメを刺しに近寄る。後一撃でキルを殺せるチャンスだった。
キル「まだだ!」
必死に崖から上がろうとするが、掴んでいた崖の岩が崩れキルも一緒に落ちることになった。
キル「嘘だろ!? 俺が終わる?ちくしょうーー!!!」
叫びながらキルはそのまま落ちて川に流された。
ミーア「私は……殺せなかった。なんで? うあああああ!!!」
ミーアは殺せなかった後悔で叫んだ。ゼストはそれをただ見ているだけだった。
この事件の数時間後に世界中でネットを通じてある動画が配信された。キルが時間差で配信するようにしていた動画でそれは世界への宣戦布告を意味していた。動画にはキルが映っていた。
キル『初めまして、俺の名はキル・コープス。身分は奴隷で能力は使えない。この動画が配信されている頃には多くの平民と貴族が俺たちの奴隷の組織よって殺されているだろう。
俺たち奴隷は確かに狂っている。だからといって世界が狂っていないというわけでもない。この世界に正しいものなんてない。狂気に満ちたこの世界で俺たち奴隷は生きてきた。その狂気の果ての狂気として俺たちは抗い続ける! 奴隷として、一人の人間として! これだけで終わるものか! 今回の虐殺はただの始まりだ。
そして、俺たちの組織『奴隷解放軍』は現時点を持ってこの世界に、アース帝国に宣戦布告する! 必ず俺たち奴隷解放軍はこの奴隷制度を破壊する!!
平民、貴族どもよ、恐怖しろ! これからは俺たち奴隷が貴様らを殺す番だ!!』




