18話 兆候
ゼスト「ただいま。」
事件を解決してゼストは家に帰ってきた。彼にとって今日という日は日常とはかけ離れたものだったに違いない。これからはいつもと変わらない日常が続くとゼストは思っていた。
ミーア「おかえり。おそかったね、兄さん。」
別の高校に通う二歳下の妹、ミーア・アライブは既に帰っていた。彼女はこの家族の中で唯一の貴族だった。ゼストと彼女の兄妹仲はそこそこ良かった。
ミーア「こんな時間まで何やっていたの?」
ゼスト「色々あったのさ。色々と。」
ミーア「リリアちゃんが来ていたよ?何の用か聞いてなかったけど。」
ゼスト「え?」
ゼスト(用事があるって言ったのに何か急用でもあったのか?でも、携帯には着信ないし明日でいいか。)
ゼストはこの時は特に気にも止めなかった。というよりは事件の疲れであまり考えられなかった。リリアとは長い付き合いのためいつもなら異変に気が付くことができたはずだった。
ゼストはそのまま自分の部屋に戻った。彼の部屋には机にベッドなどがありいたって普通であった。机の上には雑誌などがある程度無造作に散らかっていた。彼の部屋は異常すぎる普通、というより個性がなかった。
特技も特徴も優れた能力などないと心のどこかで思っている彼自身の深層心理を表した部屋。仕事のできる両親、貴族の妹と幼馴染、命の恩人でもある姉。今までのゼストはどこか周りに壁を感じていた。しかし、今日の出来事で誰かの役に立てたことによりその壁はもうなかった。以前のゼストにあった劣等感と思わしきものはなくなった。彼の心は彼の行動によって救われた。それはまぎれもなく自己満足であった。
ゼスト「こんな俺でもできることがあったのか。」
そんな感傷に浸っていると母親から晩ご飯の準備ができたとの知らせがきたので部屋を出た。食卓にはいくつものおかずが並んでいた。
母「みんな揃ったわね。」
家族五人揃い食事を始めた。食べ始めてから少しすると父親がある話を切り出す。
父「話を聞いてほしい。本当は外部の人間に話してはいけないことだから他の人にはいうな。」
母「どうしたの?」
父親は警察であり最近はある事件について調べていた。
父「この街から少し離れたところにある奴隷倉庫のことだ。そこの奴隷倉庫で先日から人がいなくなった。職員も奴隷も誰一人いなくなっていた。一部の職員は自宅に帰宅していたが事情を聴いても誰一人何も教えてくれなかった。」
ミーア「それってどういうこと?」
父「俺たち警察は何かの大きな事件の前触れだと思っている。何者かが大勢の奴隷をさらって何かしようとしている。実際に何人かの職員が行方不明となっている。おそらく奴隷をさらった何者かに殺害されたのだろう。」
ミーア「テロリストの仕業ってこと?」
父「警察はその可能性は高いと考えている。しかし、この街には標的となる要人や建物がないからまず大丈夫だろう。でも、万が一ということもある。貴族であるミーアは特に気を付けろ。」
ミーア「分かった。でも、奴隷だけなら怖くないわね。」
母「用心することには越したことはないわ。」
父親の話にゼストは違和感を覚えた。奴隷倉庫を襲うにしてもリスクがあまりにも大きすぎる。失敗、成功にしろ足が付きやすい。父親は何かを見落としているのではないかと感じていた。
ゼスト「父さん、本当にそれはテロリストの仕業?」
父「他に誰がやったという?」
父(やはりゼストも疑問に思っていたか。)
ゼスト「職員同士の争いの可能性はない?」
父「確かに、それもありえない話ではない。」
ゼスト「それと一番可能性が低いけど奴隷たちの反乱。」
ミーア「それこそ有り得ない!奴隷が反乱なんて起こせるはずがない。監視カメラもあるし脱走防止のために爆弾だって付けている。それに能力差が圧倒的じゃない!」
真っ先にミーアがその可能性を否定した。貴族であるミーアは能力の恐ろしさも有能性も知っている。平民と貴族ですら能力差は大きすぎる。ましてやないに等しい奴隷の能力で貴族もいる職員に勝てるはずがないと考えた。もし、それが実現したなら世界が変わることを意味していた。
父「ミーアの言う通りだ。それはありえない。」
言葉ではそういいながら内心その可能性を考えていた。
父(奴隷の反乱、今まで世界中の奴隷倉庫ではそんなことは起きなかった。だからといって可能性がゼロではない。しかし、それは最悪の可能性。これが事実で明るみになれば世界中で奴隷の反乱が起きる。奴隷倉庫だけでなく、一般家庭の奴隷も反旗を翻す。結果がどちらに転んでも身分制度は成立が不可能となる。それどころかテロ組織『自由の民』も本格的に活動を開始し世界の秩序が崩壊する。最終的には世界中でテロや犯罪が起きまたアース帝国建国以前の暗黒の世界となる。それだけはあってはならない!!)
父親は最悪の結末を想像しそれだけは避けたいと願う。しかし、今の現実は想像通りになっていた。そして、誰一人想像すらしなかった結果がその先に待ち受けていた。




