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能力社会  作者: コイナス?
1章 憎しみの世界
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11話 今度こそ

 シークレットがジークと目があった。シークレットは急いでジークに拳銃の狙いを定める。シークレットは銃の使い方は素人同然で撃ったところで当たる可能性は低い。そんなことは彼女自身も分かっていた。今の彼女の狙いは時間を稼ぐこと。そのために牽制として撃った。倒れた仲間にはできるだけ当たらないように意識して少し上に銃口を向けた。その弾道がどこかはシークレット本人すら分らない。弾切れなど一切意識していない。撃てる限り、連射できる限りを尽くす。

 シークレットが撃った弾を避けようとジークが試みる。ジークは銃口の向きである程度どこに弾が来るか予想できる。しかし、今回は銃口が極めて不安定で乱射に近い。さらに狙いが定まっていない弾であるため、この狭い通路の広範囲に散らばる。そのため、完全回避できるところは限られている。シークレットが避けようとしていた仲間の奴隷が倒れているところである。

ジークはその判断を一瞬で行った。即座にしゃがみ体勢を低くする。その動作と並行してシークレットの全体を視認する。その行為がジークの能力の発動条件。対象の姿の約五割を見ている状況に限り、対象の首から下を動けなくする能力。しかも、一度発動すれば視界から遠ざかっても効果は持続する。任意に解除するかジーク本人が体にダメージを負うと効果はなくなる。発動までに一瞬隙ができるが、身体能力もかなり高いジークならさほど問題もなかった。今まで奴隷をこの能力と補助に麻酔銃を使って無力化していた。

 もらった、と内心勝利を確信して能力を発動させる。しかし、この時に限り効果がない。


ジーク(効果がない?今までの戦いで能力を使いすぎたか!)


 能力の発動に失敗したジークは直接相手を気絶させ無力化させ、体勢を変えようとした。その時、シークレットが先ほどの銃を投げ捨てもう一つの銃に持ち替えていた。そのことを全く予想していなかったジークは困惑する。拳銃を二丁持っていることなど、今までの奴隷の攻撃からして全く考えられないことだった。仮に二丁持っていたとしても、普通は他の仲間に渡すはず、と考える。その思い込みがジークに大きな隙を作らせる。シークレットにとってそれが、今まで一番大きなチャンスとなった。無論、このチャンスをシークレットが逃すわけがない。

今度は、ジークに狙いを定めシークレットは引き金を引く。仲間の奴隷に当たる可能性だって当然あった。それでも、彼女はなさねばならないと思った。多少狙いがずれても構わない。少しでも当たればいけると、何度も撃った。銃声がさっきより響いた気がした。気が付けば拳銃は弾切れになっていた。

ジークは咄嗟に避けようとしたが避けきれず、その内の二発がジークの右肩に命中した。ジークは何とか痛みに耐え、左手で右肩を押さえる。ジークの動きが以前より鈍くなっていた。しかし、シークレットの銃はもう弾切れであり使い物にならない。いくら相手が負傷しているとはいえ、能力なしで勝てるなんてシークレットは思っていなかった。シークレットは最後にジークに向かって体当たりをした。当たるなんて思ってないし、仮に当たっても大した意味はない。ジークはシークレットの体当たりを難なくかわし、彼女を気絶させる。


ジーク「ここまでやられるとはな。だが、あと少しでこの戦いも終わる。キル・コープス、お前さえ止めれば!」


 ジークは手負いのままキルを追った。



 キルはひたすら逃げていた。逃げ場などないことなど一番キルが分かっている。それでも、シークレットが稼いでくれた時間を無駄にしないために必死に逃げた。逃げながら必死に考える。


キル「俺はどうすれば勝てる?俺にできることは何だ?もう今度こそ無理だ!何の能力も使えない俺がどうにかできる相手じゃない。」


 自暴自棄になりそうになりながら、キルはこの時自分の言葉に引っかかった。妙な違和感。


キル(能力?確かに俺は能力が使えない。しかし、俺以外の人間は使えるはず。奴が能力を使っているのだとしたら?人は何かを武器にして戦う。奴にとってそれが能力だとすれば?今回の作戦が失敗した原因が奴の能力ならそれを使えないようにすればいい。奴の攻撃手段をすべて封じたうえで攻撃して殺せば勝てる!)


 勝つために必要なジークの能力をキルは推測し始める。シークレットが言っていた「何かによってみんなは動きが止められた」これをヒントに思考を凝らす。


キル(動きを止めることは何かの比喩表現か?それとも実際に止められたのか?それが後者なら能力である可能性が高い。その能力を今までも使っていたなら無力化も容易か。そう考えれば、以前の作戦の失敗もうなずける。いくら油断していたとはいえ、数十人の奴隷を一度に捕獲など不可能。しかし、この時に奴が能力を使っていたならそれは可能だ。動きを止める能力とすれば弱点は何だ?)


 キルは今までの戦いのことを思い出そうとする。その時は全く気にもしなかった言動から何か得られるかもしれない。


キル(奴隷が動けなくなっていたとき、声は聞こえていた。ということは止められても少なくても声は出せる状態ということか。あの時、俺は奴からそれほど距離はなかったはずだが、まだ十分動ける。動けなくなっていたのは、飛び出した奴隷たちのみ。能力が作用する距離は不明。だが、奴と直接対峙した者のみに作用するということは、不意打ちは有効となるか。基本は他の能力者相手と何の変わりもないということか。これならやれる!)


 キルは新たな作戦を思いつき、準備に急ぐ。あまり時間はない。


キル 『クリーン、他の奴隷を集めろ。俺も今からそこに行く。』

クリーン『分かった。しかし、これも盗聴されている可能性がある。』

キル 『それは分かっている。詳しいことは後で話す。』


キル(俺一人では間に合わない。他の人間の協力が必要不可避。今度失敗すれば俺はどうなる?殺されるか?)


 キルは自分でも気づかずに手足が震えていた。死への恐怖なのか、緊張なのか分からない。キルはこれまで何度も失敗してきた。いつも、これで戦いは終わるとキルは思い作戦を実行してきた。失敗するたび今度こそはと思った。その結果が今回だった。キルは自分が情けなかった。偉そうなこと言っても何一つできやしない。


キル「だけど、いやだからこそ俺は奴を殺すために、俺が殺してみせる!」


 キルは自分自身に言い聞かせ、クリーンのところに向かう。



 ジークは痛む右肩をそのままにしながら歩いていた。キルを追っていたが右肩の痛みのせいで走るのは少々きつかった。それでもまだ彼には戦わなければならない理由があった。


ジーク「まだだ、私はまだ成し遂げていない!こんな痛みなど仲間たちの痛みに比べれば何ともない。」


 彼の執念が彼自身を突き動かしていた。彼はひたすら歩きキルを追った。傷を負っていても能力は使える。右肩から血が出ていることも気にもとめない。この体がまだ動けるうちは絶対に止まらない。止められない。


 どれほど歩いたか、どれほど痛みに耐えてきたかもう覚えていない。覚える必要もない。もうすぐでこの戦いは終わる。キルを倒せば戦いは今度こそ終わりとなる。ジークは近くでキルが待ち伏せていることが分かっていた。僅かだが荒い息遣いの音が聞こえていた。ジークは左手で拳銃を構える。キルが仕掛けてくるタイミングを静かに待つ。キルもジークがいることは足音などから分かっている。お互い姿を見せぬまま両者とも出方をうかがう。沈黙が少し続く。


 先にキルが動いた。姿はほとんど隠したまま腕のみを出し、何かの袋を投げつける。その袋はジークの手前で落ちたが、ジークは爆弾と思い後ろに距離を取る。キルは投げた直後、姿を現し、ジークに向け発砲する。弾はジークには当たらずに音だけが響く。その隙を逃さず、ジークは能力を使おうとする。しかし、その瞬間袋が破裂した。正確には他の奴隷

に準備してもらった爆弾と灰が入った袋だ。両者の視界を遮るほどの灰が宙を舞う。銃声を合図とし爆弾を爆発させたのだ。

 キルにとって視界など今は不要。おおよその敵の位置はさっきの一瞬で構わない。キルは先ほど使った弾切れとなった拳銃を捨てる。それに対しジークは拳銃が床に落ちて発した音でキルの居場所を推測し、撃つ。その弾はキルの体にかすっただけだった。

キルはそれを気にする様子もせず、もう一つの拳銃で走りながら撃ちまくる。ジークは何とか避けようと試みるが視界が悪く避けきれず数発くらう。


ジーク「くっ!だが、まだだ!!」


 視界がまだ悪い中拳銃を構える。


キル「そうだ!まだ、終わらないんだよ!!お前を殺すまでなぁ!!」


 ジークがキルの言葉を聞いたとき、キルが彼の目の前にいた。視界が悪いにも関わらず、ジークにはキルの人間とは思えない狂気に満ちた眼だけははっきりと見えた。その眼にジークは恐怖を感じた。この少年をこのような眼にしたのは自分のせいだと思った。心のどこかで後悔があったのだろう。そんな心が戦いの最中に迷わせ、引き金を引くのを一瞬ためらってしまった。


 その刹那、キルは持っていた骨でジークを刺した。今まで死んでいった奴隷たちの怨念、そしてキルの憎しみ、怒りを込めた一撃であった。今までの受けた弾丸よりもダメージが大きかった。キルはその血に染まった骨を一度ジークの体から抜いた。ジークは耐えきれずその場に倒れこむ。そんなジークに対しキルはさらに追撃を仕掛ける。何度も何度も骨で刺し続ける。

ジークは左手を伸ばしたが、キルの攻撃に耐えきれず崩れるように手が落ちた。それにようやく気づきキルは攻撃を止めた。この時にジークの様子を見てキルは敵の死を確信する。


キル「はぁ、はぁ。やっと殺せた。」


 疲れがこもったその言葉の後に、無意識にキルは歪んだ笑顔をしていた。キルはジークが持っている拳銃や麻酔銃、鍵などを奪い取った。


キル「これで終わり……いや、違う。ここからだ。ここから俺が奴らに思い知らせてやる!

 ふはははは!あはははは!あーはっははっは!!」


 キルは嬉しさのあまり高笑いした。


 キルは返り血にも全く気にせずにそのまま職員室に行く。


 職員室についたキルは金庫から回収された爆弾と拳銃を探し出す。他にも拳銃などの武器や金を探す。一通り探し終えると、奴隷倉庫全体に放送できるようにマイクを準備した。そして、放送準備が完了しキルは放送を行う。


キル『聞こえるか!キル・コープスは今、職員室にいる。ついに俺は奴を殺し、奴隷倉庫の鍵を手に入れた。つまり、俺たち奴隷は勝ったのだ!しかし、これで終わりではない!これから先の問題は山積みだ。それらまずは片づけるとしよう!』


 その放送を聞き、大勢の奴隷が歓喜した。

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