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能力社会  作者: コイナス?
1章 憎しみの世界
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10話 逆転の攻防

 作戦の実行に移ったキルたちだったが予想外のことが起きていた。奴隷たちの部屋の周りにいるはずの職員が一人もいなかった。


キル「一体これはどういうことだ?」


 キルは罠の可能性を考えていたが、部屋の近くまで来ているのになにも仕掛けてこないことに不自然に思えた。


シークレット「何で職員がいないか分らないけど、とりあえず鍵を開けるわ。」


 そう言ってキルから部屋の鍵をもらうと、奴隷たちの部屋の鍵を解除しに回った。

奴隷A「これでまた自由に動ける!」

奴隷B「まだ戦っていたのか?すごいな。」


 奴隷たちが様々な反応をした。相変わらず戦うことを拒み部屋から出ない者もいた。


シークレット「これで全部の部屋が終わったわ、キル。」

キル「ああ。」


 キルはシークレットの言葉にあまり反応できなかった。今だに何故職員がいないのか考えていたからだ。


キル(なぜ、やつらがいない?俺たち二人の居場所が分かっているのならここに来ることも分かっていたということになるはず。まさか、逃げた!?)


 シークレットにより開けられた部屋から出た奴隷にキルは質問した。


キル「職員にどこかおかしい様子はなかったか?」

奴隷「そういえば職員たちがやたら通信機を使っていたな。それから職員全員どっかいったし。」


 キルの予想が確信へと変わった。


キル(間違いない。奴らは逃げたんだ。くそ!皆殺しにするつもりだったのにできなかった!無責任な連中め!後で必ず殺してやる!!)


 キルはあまりよくは思わなかったが、これは奴隷側からみて非常に有利な状況であった。キルは他の奴隷たちに職員が逃げたことを伝えた。クリーンにも通信機を通じて伝えた。これで戦いは終わったとみんなが思った、その時だった。放送で聞き覚えのある声が聞こえたのは。


ジーク『聞こえているか、奴隷諸君。この奴隷倉庫は完全に閉鎖した。ここから出るには私を倒し鍵を奪うしかない。職員も管理長である私しかいない。私を倒すか、君たちが全員捕まるかまで終わらない。これで決着をつけよう、キル・コープス!』


 そういい終わると放送が終わった。


キル「上等だ!たった一人で何ができる?さっさと息の根を止めて、俺が殺した奴らの元に逝かせてやる!」

シークレット「この戦いが最後になるわ。みんなもう一度、力を貸して!」


 シークレットの言葉により、最初に協力した奴隷はもちろん、少しだが力を貸そうと何人か名乗り出た。その大半がこれで夢のように思えた自由が手にできると思ったからだ。しかし、キルが仲間を殺したため、キルを信用している者は真実を知らないクリーンとシークレットの二人のみだった。他の者はただ利害の一致のために動いているに過ぎない。ましてやキルのために命を賭けることなどあり得ない。


ソウイン(キル・コープス。どんな理由があったとしても、仲間を殺したことだけは私だけでなく、他の仲間もお前を許さない!!必ずお前を・・・!)


 奴隷たちの中でも特にソウインはキルを恨んでいた。しかし、そんなことはまだキルには知る由はなかった。


キル(さてこれで人数は問題ない。しかし、武器があまりにも少なすぎる。拳銃は全部で四丁、クリーンの持っているのも含め五丁。骨は焼却炉にいけばある程度あるが、一人の敵相手にあまり意味はなさそうだ。爆弾も奴隷たちのものは全て取られているから全部で二個。至近距離からくらわせれば即死であることは先の戦闘で分かっている。万が一、爆弾で始末し損ねてもその後を銃で襲撃する。)


 キルはこれから起こるであろうジークとの戦闘の対策をしていた。相手は一人、前の状況とはうって変わって奴隷側が圧倒的に優勢。しかし、キルはジークの能力を知らなかった……。



 ジークも同じく奴隷達との戦いに必要な麻酔銃を机から取り出していた。  

ジーク(こんな物も始めから使った方がよかったかもしれないな。こんな物が今更役に立つとも思えないが。キル・コープスの今までの戦い方から今回も罠を用意しているはずだ。今までのパターンは待ち伏せやハッタリの類。今度は逆に、数の利を利用して挟みうちでくる可能性が高い。その可能性を考えれば、戦いやすい場所で待った方がいい。)


 ジークは準備を整え、職員室から退室した。当然だが、ジークは建物の構造を完璧に理解している。どこが戦いに適している場所か、又爆弾を隠すことが困難な場所など、迎え撃つのに最適な場所が分かっている。ジークはその場所に廊下を選んだ。廊下には特に物は置かれていないため、爆弾などの不審物があればすぐに気づく。見通しがよく敵の接近にも対処がしやすい。しかし、挟み撃ちにはされやすい場所だった。そのことを全て分かったうえでこの場所にした。

奴隷倉庫は元々、奴隷達の脱走がいち早く分かりやすいように足音が一般の建物より聞こえやすいような作りになっている。そのおかげで、わずかだがジークには奴隷達の足音が聞こえていた。まだそれ程近くには来ていない。おそらくジークの場所が正確には分かっていないから慎重に行動していると思われる。


ジーク(まだ遠い……。だけど、数は多い?一気に集団で攻めるつもりか。)



 キルはシークレットを連絡係とし、敵であるジークを捜索していた。捜索は一階、二階の班に分かれ、敵の対応に備え一人一人ある一定の距離を取り行動していた。慎重に捜索しているため、あまり範囲は広がらないが時間が経てば全ての場所を確認できる。場所さえ分かれば複数で一斉に襲う、そういう作戦だった。


キル(奴が隠れているのなら、そう簡単には見つからないか。この奴隷倉庫の細部までは俺たちは知らない。逆に、簡単に見つかったら奴がこの状況を変える何かを持っているということになるのか?それに奴は俺たちを挑発していた。これはどういうことだ?)


 キルは今までのジークの言動がひっかかっていた。普通に考えれば不利な状況で挑発など絶対にしない。つまり、これは罠の可能性が非常に高いということになる。


キル(通信機の盗聴までする奴が、感情に流されただけの挑発などあり得ない。そもそも、他の職員を全員逃がしたといっていたが、油断させるための嘘の可能性もある。しかし、いままで見つかっていないのなら、他の職員はもういないのか?隠れるにしても職員全員隠れているのは不自然。考えれば考えるほど、分らなくなってくる……。ここはシークレットからの連絡を待つしかないか。)


それから少し経って直接シークレットから連絡がきた。シークレットは少し慌てていた様子だった。


シークレット「やっと会えた。今の状況は通信通り管理長一人。他の職員は見つかっていないわ。場所は奥の通路に待ち構えたようにいるわ。仲間にはとりあえずその周りで隠れて待機させているけど、あの様子だとばれているかんじね。どうする、キル?」


キル(くっ、そうきたか! これだとこちらから仕掛けても失敗するかもしれない。既に奴は戦える準備をしている。指示を出すなら俺が近くに行かなくてはならないか。しかし、失敗すれば今度こそ終わる。どうすればいい?)


シークレット「もしかしたら、もう敵が動いているかもしれない。」


シークレットが他の奴隷からの連絡を聞いてからキルに伝えるのに、距離が長く走ることもできない。そのため、かなり時間がかかりかなりの時間差ができる。シークレットが伝えた状況は現在ではなく、少し前の過去となる。


キル(考えている時間も無いか!)


キル 「仕方がない。シークレット、その場所に連れて行ってくれ!」

シークレット「こっちよ!」


シークレットがキルを案内する。当然、無策で行くのは無謀そのもの。しかし、今までの考える時間があった状況とは違い今回は敵が近くおり、いつ来てもおかしくない。そうなれば考えていた作戦なんて何の意味もない。足音が響くのすらお構いなしに全力で二人は走った。


キル(先に攻め込まれられれば、不意打ちはおろか、ろくに指揮が取れないこの状況では集団で襲撃もできそうにない。それに加えて味方が孤立してしまう。そうなれば数での有利はなくなる。)



 キルたちがたどり着く前に別の場所で待機していた奴隷に引き留められた。


奴隷「待ってくれ、シークレット!」

シークレット「どうしたの?」

奴隷「さっき敵を監視していた仲間の一人の叫び声が聞こえた。おそらく戦闘があったのだろう。シークレット、お前は逃げろ。俺も逃げようとしたところだ。俺より先の場所にいた仲間が戻ってこない。もう終わりだ。」

シークレット「嘘!?そんな……。」

 

 シークレットは奴隷の言葉を聞き、希望を失った。しかし、キルは諦める様子を見せない。


キル「馬鹿か?逃げ道など初めからない。」

奴隷「じゃあ、どうしろっていうんだ!」

キル「それが分かれば苦労しない!」


 この状況はかなりまずいことは分かっていた。


キル(このままでは、確実に負ける。……待て?どうしてたかが数人失ったくらいで俺は負けると思っている?今までの状況でいえば今でも相当有利なはず。作戦が失敗したから?違う!俺たちが少数で動いているからだ。敵はおそらく他の奴隷のところにも来る。ならばこの作戦を!)


 キルは咄嗟の思い付きの作戦を二人に話す。


キル「まず、お前たちは他の奴隷、十人くらいを集めろ。シークレットを除く全員で敵に突撃しろ。あっけなく無力化されるだろう。」

奴隷「それなら意味ないだろ。」

キル「しかし、わずかな時間は作れる。無力化された直後に敵は少なからず隙ができる。シークレットが銃を乱射しながら突撃しろ。敵はすぐに対処はできない。時間差で俺も加わる。これなら勝てる!もっとも素手とはいえたった一人で十人を退けられるほどの敵かは分らないがな。」

奴隷「分かった。お前のことは信用していないが、今は従おう。」


 奴隷は他の奴隷を呼びに向かった。奴隷が見えなくなってから、シークレットがキルに質問する。


シークレット「なぜ、私を突撃役に選んだの?」

キル「俺よりもシークレット・スレイが適任だからだ。俺がロクに動けないときにお前が俺を助けてくれた。あれを思い出したから、この作戦を思いついた。今回もあてにしている。」

シークレット「でも、私はあの時みたいに能力は使えないよ?」

キル「それくらいは分かっている。あの時は……ありがとう。」


 キルは感謝の言葉を小さく口にした。彼の中で何かが変わった気がしていた。


シークレット(それはこっちのセリフよ。あなたのおかげで私は生きることができている。この戦いに勝てば自由が勝ち取れる。今までのような生き方をしなくて済む。私だけでなく、他のみんなも同じように。だから、負けられない!)



 少し時間が経って奴隷たちが揃った。敵であるジークは近くまで来ている。


キル「敵がもうすぐで来る。この角の先だろう。準備はいいか?」

奴隷たち「「「ああ!」」」


 奴隷たちはキルを信頼はしていなかったが、他の奴隷も同行することによりこの作戦を受けた。それに一度捕獲されたため、今度も失敗しても殺されはしないと思っている。何にせよ、彼ら奴隷にとって勝てば外の世界が待っている。外の世界はほとんどの者が十年ぶりとなる。ある者は家族との再会を望み、またある者は以前のような暮らしを望んでいる。人によって様々だが勝ってここから出たいと思うのは、キルを除くみんなの願いだった。

キル・コープスの本来の目的は外の世界ではない。もしかしたら、彼一人ならここから脱出できただろう。だが、今の彼の目的は職員を皆殺しにすることだった。昔なら脱出が目的だっただろう。いつの間にか目的がすれ違う、ほかの奴隷とキル。そのすれ違いを誰一人知らず作戦が開始する!


キル「3、2、1、いけ!」


 最初の一人がジークに向かって突撃する。ほとんど間もなくジークに気付かれる。ジークは突撃してきた奴隷を目視すると同時に、爆弾を所持していないか確認する。自爆による攻撃を防ぐための行為。ジークはその後瞬時に距離を取り、先ほど奴隷たちを無力化した麻酔銃を取る。取り出し、その引き金を引くまで一瞬。その短い時間で一人、奴隷を無力する。

 次々と、ジークに突撃する奴隷たちだが、僅かな隙すら作れず六人目も無力化される。しかし、七人目で麻酔銃が弾切れとなる。八人目の奴隷が突撃するとき、ジークが銃口を向け引き金を引くが、麻酔銃からは何もでない。僅かな瞬間だが、ジークが焦りを見せた。その焦りを奴隷は逃せなかった!


奴隷「今がチャンスだ!」


 七人目以降のシークレットとキル以外の奴隷たちがジークを襲う。この僅かなチャンスを大きなチャンスに変えるために。ジークはほんの少し慌てて後ろに下がる。


奴隷たち「「いっけーー!!」」


 ジークに向かって全力で突進しようとする。しかし、その行為を為す前に奴隷たちの体がバランスを崩し全員床にふせるように倒れる。


奴隷「体が動かない?何故だ!?こんな時に!!!」


 奴隷たちは必死に叫んだ。もし、倒れなければ作戦はうまくいっていた。あと少しだった。


奴隷「ちくしょうーー!!!」


 それらを憐れむような目で見つめ、ジークがつぶやく。


ジーク「愚かな……。さてと、全ての元凶を討つとしよう。」


 ジークが奴隷たちを退けキルたちに迫る!音しか情報がないため、一体何が起こっているのかキル。


キル「どういう状況だ!?」


 何となく叫び声から察したシークレットが悲しげに答える。


シークレット「作戦は失敗よ、キル。」

キル「なに!?」

シークレット「おそらく何かによってみんなは動きが止められた。だから、動けないって言っていたと思う。」


 シークレットは覚悟を決めたかのようにこう続けた。


シークレット「私が時間を稼ぐからキル、あなたは逃げて!職員を殺したあなたは見つかったら殺されるかもしれない!」

キル「しかし!」


 キルが言葉を続けようとしたが、シークレットが遮るように続けた。


シークレット「だから、必ず戻ってきて奴を倒して終らせて!この戦いを!!」


 キルはその言葉を返せなかった。

バゲージとの約束を破ったから。

またしても作戦が失敗したから。

そして、信頼できる仲間を失うから。


シークレットはジークの足止めに向かった。

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