【装備チェック】
「化けモンの返り血だ」
次のグループは荷車を牽いたり押したりしている。荷はアフガンハウンドっぽい体躯の死骸で、その頭部はそこはかとなく人面。大きな口から無数の牙が覗く、人っぽい顔の獣。挿絵にあった怪物だ。絵よりも遥かに気色悪く、奇形などというレベルではない。風光明媚? そんなことを思ったやつはどこの大馬鹿だ? アキラは募る緊張と吐き気の塊を呑み込む。
「なんで死体を運んでるんです?」
「売るからに決まってんだろ」
「アレを? 誰が買うんです、あんなの? 怪物コレクター?」
「冒険者組合。四足歩行からは上質の毛皮と肉が採れる。今の連中は解体が下手なんだろ。解体手数料を差っ引かれても、担当者に丸投げしたほうが金になる」
「アレを食べるんですか?」
「割といけるぞ」
「よくあんなキショイの……最初に食べた人はどうかしてる」
ケヴが冷ややかな眼差しをアキラに投げる。
「二〇〇年前、ご先祖様は飢餓ダイエットをしていたらしいからな、そう、どうかしていたとも」
「ああ……なるほど」
馬車が最初のヘアピンカーブに差しかかる。そこですれ違った六人組は一様に通夜みたいな顔だ。さもありなん、彼らの荷車には獲物の死骸と、派手に損壊した男の遺体。不躾な視線に気づいた六人組の一人に睨まれて、アキラは亡骸から目を逸らす。逸らした先には一段下の坂があり、そこにも仲間の遺骸を運ぶグループの姿。
さらに目を逸らして、眼下の地形と人の動きを注視する。
「ケヴさん」と六〇〇メートル北東の一点を指さす。「あの湖のそば、どうです?」
ケヴが言われたほうを眺めやる。「もし化けモンが出たら、あたしらが気づくよりも先に冒険者どもが騒ぎそうだな。いいぜ、あそこにしよう」
その湖は帰路に着く冒険者たちの列から数百メートル離れており、畔には目隠しになる木立もある。傍から見れば、水汲みに立ち寄った馬車、というありふれたつまらない場面だ。
納屋を出発してから四〇分。自動メンテナンスはとっくに済んでいる。
アキラはQSトランクを出す。
収納の天才が荷造りしたかのようにきちっと隙間なく収められている装備の中から、TP9を取り上げてマニュアルをひらく。
最初のうちは説明文を一から読むも、内容の八割方は五秒動画を追っていくだけで理解できると悟り、文字は赤い警告文のみ目を通す。安全規則、各部名称、ファンクションチェック、弾倉と本体の装填手順、発砲手順、アンロード手順、メンテナンス手順、マルファンクションへの対応――難しいところは何もない。メンテも案外簡単そうだ。
「確認、あとどんくらいかかる?」石弓を手に警戒態勢を取っているケヴが後ろから尋ねる。
「一〇分か……二〇分くらい? たぶん」
「もうちょいぱぱっとできねえのかよ?」
「無茶言わないでください。初めて使うものばかりなのに」
「急げ。化けモンが潜んでる前提で。木立沿いに忍び寄られたら、気づいたときには剣の距離だぞ」
「了解。なるはやで」
銃口を木立へ向けてドットサイトを覗く。手や腕の僅かな揺れでドットが〝窓〟の中をあちこち動き、構え方が少しでも雑だと、ドットは〝窓〟から消えて視認不能。手だけで保持する分、自動小銃の照準よりも難しい。拳銃を安定させるには――
これまたふざけた表紙の『ピストル射撃ガイド』の強調表示チャプターを斜め読みする。
ふむふむ。どうやら、拳銃の撃ち方も見事に間違えていたらしい。
初心者がやりがちな自動拳銃の構え方――サポートハンドでファイアリングハンドを真下から支える〝紅茶椀グリップ〟――は、実のところ、サポートハンドが何もサポートしておらず、ファイアリングハンドのみで反動をコントロールしている、直ちに矯正せよ、とのこと。
拳銃の各種射撃姿勢を丸暗記したあと、さらに興味深いチャプターに出くわす。ドライファイア――実包を使わずに射撃技術の向上・維持を図る実践的な練習。ドライファイアには、度重なる空撃ちでファイアリングピンと薬室を損傷させないための模擬弾、スナップキャップが不可欠。
あるかな? とSHOPで探す。ある。吟味する暇を惜しみ、リスト冒頭のメーカーから9ミリ口径のスナップキャップを二〇発購入。一二〇ポイントの出費は痛いが、生存のための必要経費と割り切る。
尻の中央がゴム製のスナップキャップを二〇連弾倉に押し込みがら、アキラは小声で毒づく。途中からバネのテンションが強くなって、こめるのがきつい。指が痛くなってきた。膝の横にある、スナップキャップ購入時のQSスロット2対応トランクにふと目が向き――ユリーカ!
中途半端に装填した弾倉と残りのスナップキャップをQSトランクに放り込んで、蓋を閉じて消し、スロット2の〝オプション〟をひらく。
MAGAZINE、LOADING、RECEIVE。
模擬弾がフルロードされた弾倉をTP9に挿してドライファイアを試す。
名高いワルサーの引き金(滑らかで軽いテイクアップ、予測可能なステップ、抵抗の小さなブレイク、短いリセット)の印象など欠片も心に残っていないアキラは――なにせあのときは緊急事態に次ぐ緊急事態――TP9の引き金が自動小銃のそれよりも軽くて引きやすいことに〝へえっ〟と新鮮な驚きを覚える。
感触はつかめた。
あとは試射だ。
第86話は明日19時30分に投稿いたします。
【告知】
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※本作は改丁版です。主人公が現代兵器を手にしてここからどう生き残るのか、地続きで先の話を読みたい方は、すでに連載中の旧版(オリジナル版)へどうぞ。【旧版のURLリンク】【https://ncode.syosetu.com/n0129ky/】
尚、50話以降のストック(1話あたり二千字から三千字、平均2500字前後、130話以上、鋭意増産中)が発進準備を整えておりますので、気長にお付き合いいただければ幸いです




