【LBE調整】
信頼性の確認を兼ねて各パーツの作動が馴染むように本番前に数百発撃つべし、と『ピストル射撃ガイド』は推奨している。もちろん、通行人や冒険者村から近すぎるここではできない。
ひとえに緊急事態への備えから、アキラは実包の弾倉を一つ取り上げる。コレ、どの弾だ? 弾頭に幾何学的な窪み……APCか。
ああ、と合点がいく。弾倉に弾をこめるか尋ねていたのは、こういう事態を見越してのことか。もし似たようなのが何種類もあったら、どれがどれだかわからなくなる。
アキラはハーネスを両肩に掛け、戦闘ベルトを腰に巻き、長さを調節してQDバックルをぱちんと嵌める。マニュアルで指示されている装着位置と一般常識とが噛み合わず、アキラはあえて指示に逆らう。ベルトは腰に着けるもんだろ? 所定のポーチに所定の物を入れて具合を確かめると……なるほど、邪魔だ。ただ歩くだけで手榴弾ポーチが腿の付け根にガンガンぶつかる。片膝立ちになると腿と腹の両方に食い込む。ちょっと屈んだりしゃがんだりしただけでも色んなポーチが腹部を圧迫する。
今度は指示どおりに、戦闘ベルトが臍の高さになるようHハーネスのストラップを短くする。ずいぶん動きやすくなる。どんな姿勢を取っても概ね問題なし。とはいえ、腹の前面に位置する手榴弾ポーチがまだ邪魔。
ウェブギアを脱ぎ、アーセナルに仕舞い、アバターに装着させ、大きくて嵩張る手榴弾ポーチを腹回りから四つ減らし、うち二つは左右のショルダーストラップに移動。余り二つはリュックで保管。
調整したウェヴギアをQSトランクで出してふたたび身に着ける。いい感じだ。
ちらちら様子を見ていたケヴがアキラに近寄り、右腰のホルスターを指さす。
「それ、留め具が見当たらねえんだが?」
「摩擦で固定するタイプらしくて」
「摩擦、ね。要は挟んでるだけだな? ピストル、しっかり固定されてんの?」
「少し抜きにくいくらいには。きつめに調節しましたし」
ケヴが批判的に双眸を眇める。「ちょっとジャンプしてみ」
アキラはその場で何度か飛び跳ねてみる。
ケヴがかぶりを振る。
「ピストル、浮き上がったぞ。きつめでそれじゃ、気づかないうちに落っことす。もっとしっかり固定するやつがあるなら、用意したほうがいい。あるか?」
「選り取り見取り」
真っ先に思い浮かんだのは、ショルダーホルスター。しかし拳銃の携帯位置を細かく指示している『ピストル射撃ガイド』によると、車の運転中などの特定状況を除き非推奨。理由は、反対の脇へ利き腕を伸ばさなければならない大きな動作と、射撃姿勢への移行にかかる時間。ゲームや映画でお馴染みのドロップレッグホルスターに至っては糞味噌にこき下ろされていた――太股の血流を止める勢いで縛りつけないことにはホルスターがあちこちに動き、たった一キロの物体が脚にくっ付いているだけで恐ろしく走りにくくなり、可能な限り高く装着すればちったあマシになるとはいえ、ほかに選択肢がないとき以外は使うな、と。
推奨されていたのは、ベルトホルスターとチェストホルスター。大っぴらな携帯が可能でほかの装備の邪魔にならない場合、安全に管理できて抜きやすくて負担にならない胸部が、特に良いらしい。
というわけで、三点式よりも安定度が高いと書いてある四点ストラップのチェストホルスターを買う。またウェブギアを脱ぎ、身に帯びたチェストホルスターにTP9を引っ越しさせ、人さし指でトリガーガードロック解除ボタンを押す。拳銃がするっと抜ける。そのロックがパチッと反応するまで拳銃を挿し直す。がっちり固定される。抜きやすく、挿しやすく、構えやすい。大変良い。
上からウェヴギアを着け、チェストホルスターの下部ストラップを戦闘ベルトに留めて、ジャンプを含む色んな動きと姿勢を試す。なんら問題なし。四点ホルスターのストラップがHハーネスを阻害することも、絡まることも、拳銃がすっぽ抜けることもない。
その拳銃を抜く邪魔なので、右肩の手榴弾ポーチを、空いた右腰に移動させる。
みたびLBEを脱ぎ、チェストホルスターを外す。着けたままでは悪目立ち必至。
「一応、終わりました。ケヴさんの番です」
「いや、今すぐ出る」
口をひらきかけたアキラをケヴが押し止める。
「まだ幾らか時間的余裕があるっつっても、あくまで予測だ。たった今、追っ手が冒険者村で聞き込みしてるかもなんだ」PDAを掲げて、「マップによると開けた地形が続いてる。化けモンが出たらすぐわかる。だから村に近いここから可及的速やかに離れて、人の多い砦ルートからも離れて、一刻も早く脱出ルートに潜り込む。あたしの装備はそれからでいい。異論はナシだ」
二人は装備を毛布の下に隠す。脱出ルートと重なっている道沿いにはまだまだ人目があるため、拳銃も毛布の下だ。ケヴが御者台に、アキラは装備のそばの腰掛けに、座る。
「ほら、これ」ケヴが肩越しに革製の筒を差し出す。「望遠鏡」
「使い方は?」
「小さいほうのレンズを覗け。予備がもう一個あるけど、壊すなよ」
アキラは早速、異世界の小型望遠鏡を試してみる。鉄製の堅牢な細い筒型で……意外と良く見える。鏡内像の隅に妙な曇りがあるものの、中心部はクリスタルクリア。おそらく三倍率程度。操作部位ゼロの固定倍率。極めて視力の良いアキラにはどちらかと言うと無用の長物だが、ピンポイントで遠いものを見るのに使えそうだ。
「ああそうだ、二分やる。おまえも直近のルート、頭に入れろ」
「もう入ってます」
「そいつは結構」
第87話は明日19時30分に投稿いたします。
【告知】
コメント欄は半無政府状態の解放区です。主人公の武器弾薬・ギア選択や戦術は妥当なのか、ノーベル文学賞とバッド・セックス・イン・フィクション賞ではどちらがクールなのか、ヘミングウェイとアップダイクがフーターズに繰り出したらハメを外しすぎて店を叩き出されるのはどちらか。グリーンデイ対BLINK182、田中角栄対アメリカ政府、純愛対三角関係、優しい嘘対愉快犯な嘘、といった自由なテーマで、クイーンズベリー・ルールに準拠した言葉のボクシング(敬語・丁寧語・ビジネス文書・お嬢様言葉・演劇風)で気兼ねなくお話ください。
※ただし、他者への純粋な罵倒・誹謗中傷表現は「警告なしの一発退場(即座に銃殺処分・コメント削除)」といたします。洗練された紳士・淑女のリングをお楽しみください。「もっとハードコアを寄越せ!」と抑えがたい魂の叫びを残すだけでもアリ寄りのアリです。
例「実在の人物のみ伝記の題材にされるからして、シャーロック・ホームズは実在するのである。口に入ならないサイズの釣り針などではない! 決して! オックスフォード大学の研究で判明したところ、アーサー・コナン・ドイルはワトソン博士のペンネームであり、バッキンガム宮殿にすら忍び込む悪質なパンティ泥棒だったホームズJrがオーストラリアに流刑され、身分洗浄で名前を変え、その曾孫にあたるのがアカデミー賞5冠のカーク・ラザルスなのだ。でなければ、伝記の描写と似ても似つかない風貌の俳優を抜擢する道理がないではないか! ……ところで、ロンドンのパン屋の屋根裏からシェイクスピアの未発表原稿が発見された世紀のニュースはご存知か? ロイヤルシェイクスピアカンパニーが来季にかけるそうだよ、砂漠の嵐作戦前夜に起きた米海兵隊偵察隊員とフセインの娘の禁断の悲恋を描く『ハムレットPART2: スカッドミサイルの夜』を。つまり、シェイクスピアはタイムリーパーなのだ」
もしよろしければ、ブックマークや評価で応援していただけると執筆の励みになります。
※本作は改丁版です。主人公が現代兵器を手にしてここからどう生き残るのか、地続きで先の話を読みたい方は、すでに連載中の旧版(オリジナル版)へどうぞ。【旧版のURLリンク】【https://ncode.syosetu.com/n0129ky/】
尚、50話以降のストック(1話あたり二千字から三千字、平均2500字前後、120話以上、旧版17話以降を鋭意増産中)が発進準備を整えておりますので、気長にお付き合いいただければ幸いです




