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【自動メンテナンス】




「へえええ。アバターってのがピストル持った。思ってたよりちっこいな」

「隠し持てるくらいコンパクトなのがピストルの売りですから」

 同じ手順で戦闘ベルトに弾薬ポーチと手榴弾ポーチを取り付けて、セッティングの整ったTP9と戦闘ベルトをアバターから外し、ほかの装備と一緒にQSスロット1に突っ込む。システムが推奨してきたSサイズのトランクを選択。

 ドラッグ&ドロップも、QS機能の設定方法も、ケヴが秒で覚えてしまったので、アキラは改めて感心する。このお姉さん、学習効率めっちゃ高くない? 

 二人はQSスロット1対応トランクを出そうと――

 ――PDAが振動し、またもやゲームにはなかった要素にぶつかる。

 ポップアップしたメッセージをさっと読む。


   新着メッセージをご確認ください      

   メッセージ確認まで受領シークエンスは

   強制停止されます

   

 受信トレイをひらくと――


 【自動メンテナンスについて】  

  マルチプレイ・モードでお受け取りいただ

  く銃火器は基本的に〝箱から出してすぐ〟

  お使いいただけますが、ご使用前のイニシ

  ャル・クリーニング/フィールドストリッ

  プを強く推奨します。

  フィールドストリップは、異物や破損パー

  ツ有無の確認、動作不良の予防を目的とし

  ており、銃器の簡易的分解・清掃・潤滑剤

  塗布・組立の4工程から成ります。自動メ

  ンテナンスをご希望される場合、当該火器

  は待機時間満了まで使用不可になる点にご

  留意ください。

  ・フィールドストリップ:

    10分~20分 

    50P~100P

   *自動メンテナンスの利用上限は一度に

    二点です。

   *詳細はヘルプにてご確認ください。

   *オペレーターご本人またはチームメイ

    トによるフィールドストリップは当該

    火器のマニュアルに従ってお進めくだ

    さい。

 

 銃の掃除……マジで?

 いや、そりゃ、現実世界は天地開闢の日から〝汚れ〟を実装しているし、『SNAFU』も〝汚れ〟を実装していたから……モノホンの銃を扱う以上、当然といえば当然の話、か? ゲームの銃は3ラウンド先取の対戦終了時に勝手にキレーになっていたけれど。掃除なんて必要なかったけれど。

 掃除。自分で? ないない。

「ケヴさん、一分だけタンマ」

 返事を待たずに、アキラは検索バーで自動メンテナンスの詳細を呼び出す。

 内容は概ね通知のとおり。

 自動メンテは決定事項として……仕上げをどちらにするべきか。

 古き良きガンオイルか。乾燥潤滑剤か。

 説明によると、前者は数多の射手が信頼している伝統的な方法。ただし、油は埃を集め、細かい砂やらなんやらがくっつく異物ホイホイ。環境によっては頻繁なメンテ必須。

 後者は、説明を読む限り、完全に前者の上位互換。モリブデンなるミクロン以下の物質が鋼鉄の表面に結合して保護層を作り、(1)各パーツの摩擦係数を極端に落として摩耗から護る。(2)埃や土や泥といった異物を寄せ付けない。(3)発砲時の炭素や胴の汚れが銃腔に固着・蓄積するのを不可能にして次回メンテナンス時間を大幅に短縮させる。(4)モリブデンの溶媒であるアルコールが揮発するため酷寒の地でも酷暑の地でも油性潤滑剤使用時のようなマルファンクションと無縁でいられる。(5)使えば使うほど効果が高まる。(6)仕上げの仕上げにモリブデンパウダーを擦り込むことで上記の効果がさらに高まる。(7)特に負荷のかかる箇所、スライドレールやボルトラグなどに微量のモリブデン配合グリースを塗布することで摩擦・摩耗への抵抗力を上げ、より滑らか且つ長時間の正常作動を促す。(8)銃身によってはモリブデンのコーティング後に命中精度の飛躍的な向上が見込める。(9)従来の銃油に比べて防錆効果が低いため高湿度環境での長期保管用皮膜形成には適さず、雨などに濡れたあとはこまめな拭き掃除必須。

 欠点はあれど、銃器愛好家は目に涙を浮かべて喜ぶに違いない。ただコレ、エイリアン考案のオリジナル要素なのか、ガチで実在するものなのか、アキラには判然としない。

 乾燥潤滑剤でいこう。

 コストが銃油の倍、かかるが。

 仕上がり時間も倍、かかるが。

「いま出発したらカセリナ入りまで三〇分、ですよね?」

「スムーズにいけばな。追っ手の件があるから急ぐが、一〇分、一五分は余計に食うかもだ。いまの質問からして、自動メンテ?」

「自動メンテ」

 二人はタスクバーに増えたアイコンから自動メンテナンス画面をひらき、QSスロット1のTP9を、装着済みのドットサイトごとドラッグ&ドロップする。メニューが幾つかあるが、今は特に用がないので、フィールドストリップを選ぶ。

 自動メンテナンス画面の隅で、工程進捗度を報せる円形のカウンターと、完了時間を秒単位で刻むカウンターの両方が動きだす。

 19:59、19:58、19:57……

「ほかの装備、出しちゃいましょう。グレネードの使い方を覚えてもらわなきゃだし、マニュアルでピストルの使い方も予習しておきたいし、ここなら人目がな――聞いてます?」

「ああ」と生返事したケヴは、難しい顔でPDAを睨んでいる。

「どうかしました?」

「このデジタル時計ってやつ、正確か?」

「だと思いますけど?」

 QSトランクに顎をしゃくる。「この箱はどうする?」

「蓋を閉めたら消えます。あと、一〇メートル離れたら勝手に消えるみたいです」

「出るぞ」

「納屋から?」

「ちげぇ。出発だ」と予備のPDAをQSトランクからひったくる。「今すぐ」

「急にどうしたんです?」

「いいから来い!」

 さっさと階段を駆け下りるケヴを追って、アキラはわけもわからず納屋から出る。二頭のハラスが顔を向けてヴェーと羊みたいに鳴く。見ると、荷台からリュックサックがデリートされていて、その場所に、中に入れていた予備のPDAだけが残っている。ケヴが御者台に上がりながら怒鳴る。

「早く乗れ!」

 その剣幕に押されてアキラは御者台の隣に乗る。

 馬車が急発進する。

「あの、いろいろ準備しなきゃなんですけど」

「それ以前の問題だ」土埃を立てて駆けるハラスの背を、ケヴが手綱でピシリと打つ。「畜生が、時間的にかなり厳しい」

「説明してもらえます?」

「冒険者組合が夕方から夜にかけて込むの、忘れてたんだよ! ひと仕事終えた連中がどっと戻ってきて報告だのなんだのとやりだすと、受付はそっちにかかりきりになっちまう。軍でもそうだが、情報ってやつは何より価値があって、ときに鮮度が命になる。つまり、列に並んでやっと自分の番が来ても、重要性が低い新参の手続きなんざ後回しにされる。エクサリオの冒険者村じゃそうだったし、ロフトでも事情は同じだろうよ。んな風に延々待たされてるとこへ、ポンポンと追っ手に肩を叩かれるかもだ」

「じゃあ、後回しになった時点で冒険者村を出て、近場で一晩やり過ごして、明日の朝一で――」

「その一晩で冒険者村に手配書が回ったら、懸賞金目当ての連中が群がってくるぞ。あたしらを目撃した冒険者と傭兵が人間狩りに参加してくるのは一〇〇パー確実だ。そうなりゃ、くそったれ五〇メートルをロープで降りるか、デーエル地方で包囲網コースだよ。運が良くてもな!」

「もっと飛ばせます?」

「もう目いっぱい飛ばしてる!」







【次回新章突入】

“不幸と大惨事と悪運がいちどきにやって来た午後”は、アキラくんには悪いですが、ここからが本番です。

第77話は明日19時30分に投稿いたします。


【告知】

コメント欄は半無政府状態の解放区です。主人公の武器弾薬・ギア選択や戦術は妥当なのか、印象派と表現主義ではどちらがクールなのか、ドガとカンディンスキーがモッシュピットで暴れ回ったら迷惑なのはどちらか。オアシス対ブラー、モリッシー対全世界、トランプ(核武装)対プーチン(核武装)、くびれ対寸胴、ドラゴンボール対いちご100%、といった自由なテーマで、クイーンズベリー・ルールに準拠した言葉のボクシング(敬語・丁寧語・ビジネス文書・お嬢様言葉・演劇風)で気兼ねなくお話ください。

※ただし、他者への純粋な罵倒・誹謗中傷表現は「警告なしの一発退場(即座に銃殺処分・コメント削除)」といたします。洗練された紳士・淑女のリングをお楽しみください。

例: 「笑わせないでくれたまえ! 誰が何と言おうと少年漫画の最高傑作は『ドラゴンボール』ではない、『いちご100%』である。なぜなら、たくさんの少女とたくさんのパンチラによる負荷で読者の脳を享楽主義に作り変え、衝撃のラストで絶望の深淵に叩き落し虚無主義に塗り替え、発狂した者から順次“東でも西でもエエジャナイカ、パンチラありゃエエジャナイカ”と踊り狂う享楽的虚無主義者へと転生せしめる、軽薄なラブコメの皮を被った歴史上最も実用的な物語形式の哲学書だからである。しかし、パンとサーカスでは癒えぬ渇きに苦しみ、意味感覚に取り憑かれ、意志によるそれの再現を志ざさんがため生活を化学する者たちへの回答としては不充分でもある。そこで、新実存主義を再構築・再定義し一段階推し進める試みである『いちご0%』をこの闘論から共同で生み出そうではないか。友よ、きみのドラゴンボール的知性でわたしの論理展開に挑戦してくれたまえ」




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