【ピストル選定】
「リストの上のほう、ケンイクを選んで。綴りはC、A、N、I、K。製品リストが出たら、TP9SFXミート。ミートの綴りはM、E、T、E」
TP9――比較的安価、高信頼性、高精度、と三拍子そろったシリーズ。通称グロックキラー。
銃口装置に配慮したネジ付き銃身が標準装備、一八連弾倉と二〇連弾倉のオプション、マイクロドットに配慮したホルスター付属、と全部盛りスターターキットで四八〇ポイントはなかなかのお値打ち品。
「数は?」ケヴが尋ねる。
「一挺で。ポップアップしたマガジンは20RDを選択。数は――」
デフォルトの弾倉はたったの二個。TP9が採用している安価なメクガー製二〇連弾倉は、紛失前提の消耗品としては決して安い買い物ではないが――実戦中のリロード後に空弾倉をきっちり管理? ムリ――この世の地獄を行くことを思えば、装填済みの予備は多いに越したことはない。
「カウンターの矢印か手入力で一〇個。終わったらサブカテゴリーに戻って」
マガジンてなんだよ、と問いたげな目つきでケヴが言う。「したぞ。次は?」
ドットサイト。
小カテゴリーのオプティクスから、ピストル用ウェポンサイト、リフレクスサイト、クローズドエミッター、そしてメーカーリストへ。
どうせ当座凌ぎだから、と安いマイクロドットを選びたいが、たいていは〝窓〟が突き出ているオープン型で、脆い。少なくともゲームでは頻繁に壊れて都度買い直す羽目になった。頑丈なオープン型は高価な上、〝窓〟に雨粒や埃がダイレクトに付着し、ドットの反射および視認に支障をきたす。にわか雨が多い今、同じ高くつくなら、より堅牢な外殻と二重の〝窓〟に覆われたクローズド型。照準装置も最重要ファクターのひとつ。ケチれない。
「ホロサンUKを選んで、EPSキャリーをカート」
高性能な割にお値打ち品。四〇〇ポイント。
アキラはショッピングカート内の総額を見る。
二九八八ポイント。
あとで弾薬をがさっと買い足すから――初回アンロック時にピストルも買い足すから――確実に六五〇〇ポイントはいく。
ちょいとキツイけれど……致し方なし。
「お買い物、終了」
「オッケ。〝BUY NOW〟をタップ?」
「あー、念のためにカート、見せてもらえます?」
「嫌いじゃないぜ、その慎重な性格。間違ってたら言ってくれ」
合計品目数。個々の品目。総ポイント。すべて問題なし。
アキラは親指を立ててみせる。
ケヴが親指を見つめる。
「そのジェスチャーの意味は?」
「オーケーですよって意味」
「じゃ〝BUY NOW〟でいいんだな?」
「〝BUY NOW〟で」
「ほんとにこれでいいのか尋ねてきたぞ」
「YESで最終決定」
タップした直後、ケヴがPDAを取り落としかける。不意にヴーヴー振動して驚いたらしい。アキラのPDAも振動している。
「大丈夫、通知が来たって合図です。画面に触れたら止まりますよ」
「ニヤニヤすんな。ムカつくぜ」
通知は三件。一件めには〝新規保管装備のテクニカルデータとオペレーターズ・マニュアルがダウンロードされました〟。二件めには〝『初心者ガンスリンガー雨宮アキラくんのためのピストル射撃ガイド』『チーム行動の手引』がダウンロードされました〟。三件めは〝装備のお受け取りはQS機能をご活用ください〟。
ケヴに届いた通知も同じ内容だ――『射撃ガイド』のタイトル以外は。ケヴのほうは簡潔に『ピストル射撃のすべて』と題されている。
で、マニュアルとは? まんまの意味?
アキラは装備一覧表のTP9をタップする。ゲームでお馴染みのテクニカルデータと、お初に目にかかるデジタル・マニュアル。後者の内容は、ページのあちこちに添付されている洒落た図解、ページのあちこちに添付されている洒落た五秒動画、いささか散文的で簡明な説明文。これは……助かる。手探りで実銃の操作方法を確かめるのは限界があるし、その最中に壊したり事故ったりしないかと不安だったのだ。えらく手の込んだ方法で支援してくれるエイリアンに感謝の念が湧き、どうせ助けるならなぜスパッと助けてくれなんいだという怒りに転じる。何もかもふざけてる。くそ宇宙人め。
目を上げると、ケヴが横から食い入るようにして観ている。口が半開きだ。
「ケヴさん?」
反応がないので、その視線を遮るように手を振る。ようやくケヴの注意が向く。
「よう……その動く絵、何?」
「コンピューターグラフィックスのアニメーションぽいですね」
「何が何やらだけど――」全注意が画面に戻る。「スゲェな」
アキラはマニュアルを閉じる。ケヴが名残惜しそうに唇を尖らせる。
「そろそろ二〇分経ちますし」と画面隅のデジタル時計を指す。「残りの準備、急いでやっちゃいましょう」
といっても、もう大して残っていない。
「装備設定の初期画面に戻って、アバターの左、縦に並んでる項目のプライマリ・ウェポンをタップ。選択項目のピストル、TP9。銃の小ウィンドウがポップしたら、オプション、オプティクス、リフレクスサイト、EPSキャリー。インストールするか尋ねてくるので、YESを選択」
「〝インストール〟って?」
「取り付けるって意味。この場合はドットサイトをTP9に」
「なんのことやらだが、したぞ。お、銃の絵が変わった」
「ポップした零距離設定の……ケヴさん、メートル法でものを考えられるんですよね?」
「ああ。日本語をぶっ込まれてからな」
「ヤード法ではどうです?」
「そもそもヤード法って何?」
「地球で使われてる度量衡の一つ。銃の規格はヤード法をよく使いますから、今度教えます。とりま距離関係はメートル法で統一しましょう。〝ゼロ・レンジ〟の欄の、メトリックをタップ」
「じゃあインペリアルってほうがヤード法?」
「です。上の矢印を――」
言いながらさっと思い返す。銃口初速がべらぼうに速いFTM弾なら、零点を少し遠くにしても、近距離を撃つときの弾道はフラットだったはず。間違っていたらあとで直そう。
「――〝50m〟になるまで押すか、手入力」
「したぞ。基準にする弾を選べって出た」
「七七グレインAPCで」
「した。銃の絵に戻った」
「下の〝OK〟をタップ」
すると、『SNAFU』にはなかった要素をシステムが問うてくる。
弾薬を弾倉に装填しますか?
〈YES〉なら、装填弾倉・空弾倉・バラ
で携行する弾薬の数を指定してください。
〈NO〉なら、弾倉と弾薬が別個に支給さ
れます。
*上記設定はQSスロットに引き継がれ
ます。
*上記設定はQSスロットのオプション
から変更可能です。
弾を弾倉に装填しない意図がわからず、アキラはゲーム的な感覚で装填を選ぶ。現れた小ウィンドウで弾倉の数を指定し、弾薬カウンターを〝20〟まで回す。これで装填済みの二〇連弾倉が六個。もう弾がないので、残り四個は空。ケヴにもそうするように言う。
再度〝OK〟をタップ。
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