【SHOP分岐点】
「ほんとヘンなところで無知だな。冒険者組合っつーのは、化けモン退治やらなんやらが生業のフリーランサーを管理してる国境なき巨大組織だ」
ああ、と思い出す。
冒険者。成田が言ってたやつじゃんか。まさか本当にそんな仕事が存在するとは。そして成田はどこへ消えてしまったのか。
「マップ見ろよ。国境のロフト側にデカい人里、あるだろ? ザ・ヴィレッジってやつ」
「ありますね」
「いわゆる冒険者村だ。最大で数千人の冒険者と傭兵が活動できる宿とか鍛冶屋とか売春小屋とか、なんでも揃ってる。村っつーのは俗称で、機能は実質、街だよ。直轄してるのは冒険者組合。村ん中は治外法権。今みたいな戦時下じゃ、その権利をどこまで尊重してもらえるかは極めて怪しいけどな」
「手続きっていうのは?」
「単なる冒険者登録。名前と身体的特徴を書いて、説明聞いて、終わり。あたしはエクサリオの冒険者村で登録済みなんだが、認識票はサロ帝国の官舎に置いてきた。だから、もっかい登録しないとカセリナに入れねえ。悪いけどカセリナに入るとき、おまえのことは、あたしの奴隷ってことにするぞ。そうすりゃおまえの冒険者登録が省けて少しは時短になる」
ケヴがアキラの喉元を指さす。
「個人所有のチョーカーだな。市の奴隷と聞いていたんだが?」
「いろいろあったんです。その時短ですけど、冒険者村とかいうのは無視して国境を越え――」
ケヴが片手を挙げて遮る。「旧カセリナ王国は、モンスターカントリーになった時点で国土全体が地盤沈下してる。五〇メートルほどズドーンと。出入りに使う坂道は組合支部の敷地内。管理してるのも冒険者組合。組合を避けて通るなら、何本も結び合わせたロープを崖から垂らして忍び込むことになる。ちなみに崖はどこもオーバーハングしていて、足掛かり手掛かりゼロ。些細なミスで転落事故だ。試してみたいか?」
アキラはぶんぶん首を振る。
マンションの一五、六階相当の高さからロープで降りるなんて、きっと握力がもたない。
「つーわけで、冒険者村に寄らないわけにはいかねえのさ」
「なんで五〇メートルも地面が沈んだんです?」
「専門家連中の考察を聞かせてやってもいいけど、長話してる場合と違くね?」
うん、違う。
装備アイコンをタップ、と指示しながらアキラも自分の設定画面をひらく。
「これ何?」とケヴ。「下穿きだけ履いた人間の……絵か? ゆらゆら動いてんぞ」
「アバターって言葉、わかります?」
「わかんね」
「なんというか、機械的に作られたイメージ図です。選択する装備がこのイメージ図に反映されて、実際に装備を着けたときの格好や、装備の重量がわかるようになってます。ゆらゆらしてるのは気にしないで」
「へえ……なんかすげぇな」
「ケヴさん、上のほうにあるSHOPの欄をタップ。エイリ――じゃなくて、あー、ケヴさんがぼくの加護のことを教えられたとき、地球の銃のことも教わりました?」
アキラはつい〝加護〟の部分を皮肉っぽく発声したが、ケヴに気づいた様子はない。
「なんも」とケヴ。「ちらっと見せられただけだぜ? 妙な格好の連中がバンバン撃ってる場面を。あたしにわかったのは〝アレは連発式マスケットのようなもの〟ってことぐらだよ」
「じゃあ、なるべくわかりやすくいきます」
SHOP利用時の最大の分岐点――
・NATO
・Neo-Warsaw Pact
全般的にハイテク関連の品質が高いとは言えず、軍用・民生用を問わず弾薬の種類と質が今一つの新ワルシャワ条約機構の装備は、ゲームで遊ぶならともかく、現況ではデメリットが多すぎる。
というわけで、NATO。
「ナトーってなんだよ?」
「装備の供給元。説明すると長くなるので、また今度」
「りょ。なんか字が出たぞ」
出てきた字、大カテゴリーは――
・Small Arms
・Infantry Equipment
・PPE
・Foods and Beverages
聞きそびれていたことを思い出して、アキラは尋ねる。
「今更ですけど、モンスターに銃、効くんですか?」
「効くよ」〝当たり前だろ〟という顔でケヴが言う。「マスケットは通用してる。相手の大きさや当たりどころによるけどな」
当たりどころの重要性はアキラにもわかる。22LRの二連射を腹に食らっても即死のリスクは低いが、処刑スタイルで後頭部に二連射を食らうと九九・九九九……パー死ぬ。ショボい火力でクマちゃんの群れに追い回されるお遊びマップでの経験から、各種弾薬の有効性は標的のサイズ次第、という点もわかる。
わからないのは――
「モンスターのサイズ、どれくらいなんです?」
「ひと口じゃ言えねえな。けっこう幅があるよ。二本脚はちっこいので一三〇センチくれえ。デカいのは三メートルかそこら。言ってみりゃ二足歩行の……ボフってわかるか?」
アキラは首を振る。
「北部に棲息する大型のプレデターだ。日本語的にはなんだろうな……」ケヴの視線が宙を泳ぐ。「ヒグマ? ヒグマってやつを見たことねえからこの言葉で合ってんのか謎だが、二足歩行のヒグマみたいなモン」
「なる……ほど」
「四本脚もまちまち。小型の家畜サイズから超大型の捕食動物サイズまで、忌々しいほどバリエーションに富んでるよ。軍の仕事で仕留めた一番デカいクソ野郎は、体長八メートルだった」
「八メートル?」三階建ての家くらいあるじゃんか。「そんなのどうやって倒したんです?」
「魔術師の遠距離攻撃で。言うほど簡単じゃなかったよ」
「なる……ほど」アキラは憂鬱な声で繰り返す。
「あと虫系は、体高一メートルから二メートル。頭の天辺からケツの先までだと、その数倍」
なんて出鱈目な……
もしよろしければ、ブックマークや評価で応援していただけると執筆の励みになります。




