【FNG】
設定画面の〝チーム〟をタップ。〝設立〟をタップ。
たちどころに新着通知。
【重要】
ケヴィイム=フロレターリがチーム加入資格
を有しています。チームリーダー権限により
ケヴィイム=フロレターリをチーム〈FNG〉
に加えることができます。
〈YES/NO〉
「チームってなんの?」
その声が耳元で聞こえてアキラの心拍数が上昇する。肩越しに覗き込む顔が近い。アキラは一瞬、ケヴのカッコイイ顎のラインと、白く滑らかな首筋に見惚れる。
「えと……ぼくとケヴさんが一緒に戦う仲間になる、みたいな。で、ケヴさんも、地球の銃と装備がもらえるようになります」
「マジで?」と目をみはる。
「マジで。そう書いてありますし」
「すげぇ。嘘だろ? アルマ=クフの加護を授かれんのかよ」
ケヴの顔が驚きと悦びに輝く。
まるで神がいるかのように。
リランを思わせるじゃないか。
実証主義的な性向が強いアキラとしては、〝神さま本人がぼくをお茶に招いて大皿山盛りの奇跡と神秘と真実を見せてくれたとしても幻覚やトリックを疑う〟といったところで、加護にしても、この後進世界の住人はふとした拍子に使えるようなった不思議な力をどうにか理屈づけようとして〝神さまからのプレゼント〟という神話を創作した、と踏んでいる。
さらに言えば、異世界人はホントに異世界人か? はるか昔に地球から拉致され、不思議パワーを与えられ、“さあ、どうなるか見てみようじゃないか”式の悪趣味な社会実験、心理実験なのでは? この惑星はくされエイリアンの“蟻の観察キット”みたいなものなのでは?
なんであれ――
「確認ですけど、チームメイトになるってことでいいですか?」
「断ると思うか? やってくれ」
「だと思いました」
「で、FNGって何?」
「さあ、なんでしょうね」アキラはとぼける。
FNG――クソ新人。総キル数一五〇〇未満の初心者帯のチーム名は一律コレ。プレイヤーに命名権なし。ゲームでは〈FNG1〉〈FNG2〉と自動的に振られる数字で各チームを識別していたが、こいつにはない。普通に考えて、リアルFPSをやらされているモルモットがぼく独りだからだろう。同胞/地球人の不在を寂しく思うべきなのか、似たような境遇に陥っている可哀想なやつがほかにいないことを喜ぶべきなのか……
アキラはYESをタップする。
また新着通知。
【重要】
新規加入メンバーのPDA(x2)がアー
セナルに保管されました。PDAは作戦行
動に不可欠な装備のため直ちに新規加入メ
ンバーに譲渡してください。
装備一覧表を出す。PDAが二機。アキラは二機ともQSスロット1にドラッグ&ドロップする。今は板壁に向いているので、受け取りコマンドは最初から青色だ。
ふたたび小型トランクが現れて、ケヴが小さく飛びすさる。アキラは笑みを噛み殺してトランクを自分の前に引き寄せる。中に二つの保護ケース。両方ともあける。自分のと色違いのPDA。
「これ、ケヴさんのPDAです。使って」
ケヴが隣にしゃがみ込む。「それがこの機械の名前?」
「です。パーソナル・デジタル・アシスタントの頭文字」
「個人……デジタル介助? ヘンなの」
「ヘンな名前ですけど、誇張抜きに、PDAがぼくらの命綱です。地図とメッセだけじゃなくて、装備を選ぶときや、今みたいな受け取りにも使いますから。早速ですけど、装備、選んじゃいましょう。今のうちに準備しておかないとマズいし」
「どっち使えばいい?」
「どっちでも。片方は予備」
ケヴが一機をトランクから出す。「おまえのみたいに光ってないんだが」
アキラは起動方法を教える。ケヴのPDAに光が灯る。名指し脱出イベント開幕時のふざけたタイトル画面が出るかと思いきや、いきなりリアルタイム戦術マップが表示される。
すると、アキラのマップに変化がある。UNIT‐1がAKIRAになり、右隣にKEV。これはおもくそ本名だが、プレイヤー名で現在地が表示されるマルチプレイ仕様のマップだ。
「このKEVってのが、あたしの位置だな?」
ええ、と返事をしながらアキラは横から覗き込む。ケヴのタスクバーにもメールBOX。未読通知4。そして最初から装備アイコンとQSアイコンがある。タスクバーと各アイコンの役割を簡単に解説してから、アキラはメールBOXをひらくように指示する。ケヴの受信トレイに目新しいメッセージはない。五〇〇メートル制限やPDAの紹介、ポイント支給の通知だけだ。
アキラのやり方を見ていたからだろう、ケヴが迷わず通知をタップする。
四通とも黙読してから言う。「なんつーか、ワケワカメだな。キーワードみてえになってる『WWⅢ』なんちゃらって何?」
テレビすら知らない異世界人にFPSひいてはビデオゲームの概念をわかりやすく口頭で説明せよ。
ムリだろ。
「今は気にしなくて大丈夫」
「ふうん?」と双眸を眇めて、ケヴが矢継ぎ早に尋ねる。スリープモードとは? また使うときは? バッテリー残量ってどれ?
アキラは訊かれる端から答える。
「あたしの理解が正しいなら、電池ってやつはどんどん減っていく?」
「減っていきます」
「スリープモードで節約しろってあったけど、そのあいだは減らないんだな?」
「ほぼゼロ。なので、一機当たり一二時間以上はもつはずです。ちなみに今、ぼくらの時間的余裕ってどれくらいあります?」
「あー、そうさな……馬車をかっ飛ばしたとして……一時間に移動できる距離は一五キロから二〇キロ。ここから一〇キロないし一五キロ進んでもへばってる馬車の姿がないとくれば、当然、さっきの騎兵連中は引き返してくる。馬を休ませながら二人一組くらいに分散して枝道をさらうとなると……早けりゃ二時間から三時間でそこのカセリナ方面を確認、かな」
そっからさらに引き算だ、とケヴが続ける。
「現在地からカセリナ国境まで三キロ弱。馬車をちょいと急がせて一五分。冒険者組合の手続きに一五分。食料と飲料の補給に一五――」
「食べ物と飲み物は大丈夫」アキラは口を出す。「PDAで買えます」
「食いモンって、地球の?」
「地球の」
「どんな食い物か想像もつかねえけど、そりゃ助かる。カネ、どれくらいかかる?」
「お金はかかりません。あとで説明します」
「ふうん。なら内輪に見積もって、時間的余裕は九〇分。でも何があるかわかんねえからな。もっと短く見といたほうがいい。三、四〇分もあれば足りるか?」
諸々を考え合わせるとまったく足りないが、「充分です」とアキラは答えておく。
「ところで、冒険者組合ってなんですか?」
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