【クイックスワップ】
表示された大カテゴリーは四つ。ゲームより一つ多い。このSHOPは飲食物も買えるらしい。
さておき、武器、武器、武器。あるいはひょっとして自動小銃を最初から買え……たりはしないようだ。ピストルとナイフ以外はロックされている。くそ。
気を取り直して未知のカテゴリー、〝飲食物〟をひらく。
戦闘糧食、缶詰、フリーズドライ食品、プロテインバー、ジャーキー、ナッツ類、ガム、飴、ゼリー飲料、ミネラルウォーター、スポーツドリンク……。戦闘糧食? タップして詳細を出す。缶詰またはレトルトパウチの軍用保存食。MRE、IMP、EPA、RCIRと国ごとに名称は様々。
これ、とても助かるのでは?
値段も手頃だ。グラノーラバーが一ポイント。サラダが二ポイント。チキンが三ポイント。三食分の詰め合わせが二〇から五〇ポイント。野菜ジュースまである。半リットルで一ポイント。
ほかのカテゴリーもざっと目を通す。ゲームにはなかったものがちょいちょい含まれている。例えば衛生キット。安いほうはフツーの歯ブラシセット。高いほうは電動歯ブラシセット。
ヘルプでほかのゲームシステムもチェックしていく。
見たところ……各種装備のアンロック条件に宇宙人野郎考案のオリ要素なし。
アーセナルも『SNAFU』のシステムそのまんま。ゲーム時代に二個中隊規模の装備をアーセナルに保管していたアキラにしてみれば、空っぽの初期状態には薄ら寒い思いを禁じ得ないが。
アンロック毎のボーナスポイントや殺害ポイント、条件に応じた殺害ポイントの増加率……この辺りも概ね変更点なし。相違点は二つ。モンスターの駆除がキル数および殺害ポイントに計上されることと、戦闘手当(途中退室せずにフルラウンドを終えたときのボーナスポイント)がないこと。
うん、まあ、リアルには〝部屋〟なんてないのだから、戦闘手当がないのはわかる。でも塵も積もれば山となる的な収入源の一つがないとなると、収支の計算がだいぶ変わってくる。
アキラはヘルプを最小化して、設定画面のポイント欄を見やる。
ポイント――『SNAFU』プレイヤーが呼ぶところの〝ドル〟または〝ユーロ〟。装備の購入に必要なポイントが、リアル装備品の小売価格や市場価格とだいたい同じせい。
初回支給の七〇〇〇ポイント。
あるいは七〇〇〇ドル/ユーロ。
日本円に換算して約一〇〇万円。
要は支度金だ。
拳銃フェーズを乗り切るだけなら潤沢な資金と言えるが、ここで考えなしに使いまくると――「わーい、ほしいハンドガン全部ゲットだぜ!」――あとで困ったことになる。
〝この世の地獄〟ではクソほど困る羽目になるだろう。
先々考えて、ゲームのときよりも倹約しないと。
で、クイック・スワップ。即時交換とは何を……?
ヘルプの当該項目を読む。
アキラは胸の中で独り言ちる。このオリ機能、バチクソ便利じゃね?
実際どんなもんか、図説を見ながら試してみる。
タスクバーに増えたQSアイコンをタップすると、QSスロット1から8が並ぶ小ウィンドウがポップ。小ウィンドウの〝オプション〟をひらいて、クロックシステムの任意の方向、〇・五メートル以上二メートル以内にQSトランクなるものの出現位置を……。真正面にはケヴがいるため、利き腕側、九時方向の〇・五メートルに設定しておく。
それから、QSスロット1を指定し、スロット対応トランクのサイズ(XSからXL)を選び、小ウィンドウ右上の赤字の〝RECEIVE〟をタップ。
【失敗】
障害物があるためシークエンスを実行でき
ません。QSトランク出現位置に障害物が
ない方向へ体の向きを変えるか、障害物か
ら一メートル離れて、受け取りコマンドが
青で表示されたのち再実行してください。
障害物。
板壁のことだろうと思い、アキラは壁と正対する。
RECEIVEが青字に。
再実行。横手の壁際に逃走支援キットとそっくりなやつがぽんと出現。こちらのほうが――XSサイズ――二回り小さい。アキラは片膝をついて黒いトランクをあける。
「んなもん、そこにあったか?」とケヴ。
「いま出したんです」とアキラ。
「〝出した〟?」
「ちょっと待って」
首から提げている革袋を外し、トランクに入れて蓋を閉める。トランクが消える。PDAを見ると、QSスロット1に〝三ラート入り革袋、アルマ=クフ派の司祭の指輪、正装用の鎖紐〟。スロット画面隅の〝アーセナル保管〟にドラッグ&ドロップ。装備一覧表のその他項目に〝三ラート入り革袋、アルマ=クフ派の……〟。
ほほう。
つまり――残弾がヤバい? QSトランクで出して使え。喉が渇いた? 買ってトランクで出して飲め。使わない装備が邪魔? 空のトランク出してアーセナルに突っ込んどけ。
論理的には、アーセナルに保管してある装備の数だけ、あるいはポイントが続く限り、延々と物資の補給を受けられる。必要な装備だけを帯びて常に身軽でいられる。
「今のなんだよ?」ケヴが囁くように尋ねる。「また消えたぞ」
「装備を受け取ったり保管したりする手段。まだ何も用意していないから空でしたけど」
「〝保管〟ってどこに? どうやって?」
「〝どこ〟はぼくにもさっぱり。〝どうやって〟は、これで」PDAを掲げる。
ケヴがトランク消失地点を疑わし気に見やる。「地球はイカれてんな」
アキラはその誤解を解かずにおく。誤解を解こうとすると確実に話が長く、ややこしくなる。
片膝立ちのままチーム作成の詳細を出す。
・チームメイトにはマルチプレイに準拠した
装備が支給されます。
・チームメイト間では装備の貸借や譲渡が
可能です。
・貸借装備は500m制限の対象外となり
ます。
・チームメイト間ではPDA本体でのテキ
ストの送受信や内臓無線機能を介した音
声コミュニケーションが可能です。
*無線機能使用時はバッテリー消費量が
増加します。詳細はヘルプを参照して
ください。
尚、設立者/チームリーダーの恣意的な判
断によるメンバーの勧誘はできません。チ
ーム設立後は、綿密な背景調査・資質・人
格などを考慮した加入に相応しい人物がメ
ッセージにて通知されます。
アキラはケヴのほうをちらりと見る。ベビーシッターに任命されるくらいだから、お姉さんは黒幕野郎の謎めいた選考基準を満たしているのでは……?
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