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【Mission 2】




「どんなモンスターなんです?」

「言葉じゃ上手く説明できねえよ。二足歩行のやつらは気色悪い外見で、狂暴。知能はそれほど高くねえが、簡単な道具を作ったり使ったりする程度の頭はある。四足歩行は、野生動物をグロくした感じで、狂暴。人よりデカい虫みたいのもいる」

「つまり、チョー危険な場所なんですね?」

「そんな言葉じゃ足りねえよ。この世の地獄っつったろ?」

「ケヴさん、ルート無視しましょう」

「ああ……いくら戦女神の指示っつっても、確かにこれはな……」

 ケヴが思案顔になる。

 ふとその顔を上げる。

「聞こえるか?」

 アキラもそれを耳にする。

 重なり合う、重い、遠い、蹄の音。

 後方の西寄りだ。

 アキラはカービンを手に立ち上がって、念のために来た道を見る。一直線の細い農道に人馬の影なし。やはり四〇〇メートルほど西を並行に走るハルドゼッヘ街道からだ。しかし納屋の長い壁が邪魔。馬車を降りて納屋の横から覗こうにも低い起伏と麦もどきが邪魔。

「来い」

 ケヴが足台から飛び下りて納屋の裏口を試す。あっさりひらく。ケヴに続いてアキラも中に入る。陽射しに慣れた目が屋内の暗さに戸惑うも、建付けの悪い板壁のあちこちからスリット状の陽光が射している。ケヴが隅の急な階段を駆け上って、板壁の隙間に目を近づける。その隣でアキラも外を覗く。

 ハルドゼッヘ街道の辺りに軽騎兵の縦列。数は三〇前後。納屋には目もくれず、軽く流す競走馬の一群のように北西へ駆けてゆく。

「追っ手ですよね、あれ?」アキラは尋ねる。

「ああ」ケヴが舌打ちする。「マズいな」

「気づかれなかったのに?」

「問題は、予想より動きが早くて抜け目ないってことだ。今の連中が空ぶったら、捜索の手を広げてくる」

 ケヴがアキラに目を向けて言い足す。

「おまえはたっぷり恨みを買ってるし、あたしはあたしで、サロ帝国軍中央参謀本部勤務の歩く機密情報だ。しかも騒ぎと同時の唐突な無許可離隊、馬車泥棒、最後に目撃された地点。勘が良くないやつでも、ニル=ヴープ大尉が――あたしの偽装名だ――連発式マスケット襲撃犯に通じている可能性を疑う。あたしとおまえの両方を捕らえるか、死体を確認するまで、連中は手をゆるめねえよ。特に身内の恥で面目丸潰れの軍事顧問団がな。馬車と徒歩、両方の移動範囲を計算して、あらゆる場所に先回りしてくるのは確実と見ていい」

 ケヴの視線がアキラのカービンに落ちる。

「一応確認だが、出会ったときの状況からして……地球の銃といえど圧倒的多数の兵士には対処できない。所詮は連発できるマスケット。合ってるか?」

「マスケットがどういうものかよく知りませんけど、ええ、そうです。対処できません」

「なら……」

「なら?」

 ケヴがアキラを見据える。

「クソ壺に嵌まったあたしらを救う手はただ一つ。予想外の行動」

 アキラは顔をしかめる。「それって……」

 ケヴが暗い笑みを浮かべる。「カセリナ」

「別のクソ壺に飛び込もうとしてるだけ、のように聞こえますけど」

「かもな。けどタイミングを考えてみろよ。包囲網が不可避なのを見越したみてえな、アルマ=クフの指示。あたしとおまえが生き残る道はカセリナという名のクソ壺しかねえと、戦女神はお考えってことだろ。今の騎兵の動きを見るに、そこは全面的に同意だ」

「でも――」

「明るい面を見ようぜ」ケヴが遮る。「こっちの足取りをカセリナまで追った時点で、連中、諦めるかもだ。諦めねえにしても、人食いモンスターどもの領域じゃ、追跡どころじゃなくなる見込みが高い」

「人食――」

「まあ聞けよ。帝国軍で少尉任官後、あたしはエクサリオ国境側から二度、カセリナに入ったことがある。マスケットの運用評価を兼ねた化け物退治で。つまり、モンスターカントリーの歩き方をいくらか知ってる。おまえっていう切り札もある。やたら詳細な地図と、すげぇ銃と、旅の守護神でもあるアルマ=クフの指示が」

「ケヴさ――」

 ケヴがアキラの後頭部をがっちりつかんで引き寄せ、アキラの額と自分の額をゴツっと触れ合わせる。アキラはどきまぎする。数センチ先に、挑むようなケヴの上目遣いがある。意志の力と覚悟を放射している目が。

「選ばせてやるよ、地球人。勝算なくデーエル地方を逃げ惑うか。それとも、アルマ=クフの導きとあたしの経験を信じてカセリナ行きに賭けるか」

 確信犯的な〝ホブソンの選択〟だ。

 選り好みの許されない選択。

 見せかけの二者択一。

 しかしアキラには〝とても深い肥溜め〟と〝二センチくらい浅いかもしれない肥溜め〟の違いにしか――

 ――柔らかな電子音が鳴る。

「すみません、メッセが来ました」

「メッセ?」

「とりま確認させてください」

 後頭部をわしづかむケヴの手が離れると、アキラは一件めの新着通知に目を通す。


  Mission 2:

  Monster Control


  主目標:標的コロニーの壊滅

  副次目標:脱出ルート上で遭遇するモンスタ

  ーの駆除

  *ミッション2は15日間を予定しています。

  *移動ペースにより期間は伸縮されることが

   あります。

  *状況の推移を反映し脱出ルートは随時変更

   されます。

 【重要】

  全般的にモンスターの活動がピークを迎える

  のは日暮れから夜明けの時間帯となります。

  夜間はなるべく行動を控え、指定ビバーク地

  点で休息を取るようにしてください。

  *ビバーク地点は現在精査中です。精査終了

   後、通知にてお報せします。


 アキラの顔が引きつる。

 くそ馬鹿エイリアンのやつ、マジで言ってんの?




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