【Q&A】
ケヴがまた前を向く。
「いきさつをかいつまんで言うとだ、ハルドガルダ市の包囲が完了したとき、あたしは少し後方の丘からエクサリオ軍の働きぶりを眺めてた。そしたら急に、どこだかわからねえ海辺にいた。白い砂浜と、翡翠色の海と、尖った植物がわさわさしてる天国みたいな場所に。
目の前に一四、五歳くらいの若い女がいて、目が合った瞬間、その女が戦女神のメイシア=ウギ=アルマ=クフだと悟った。霊感に打たれたみてえな確信だよ。ともかく、こっちは頭がぼんやりした夢見心地で、相手が差し出すモンをただ受け取ってるような状態だった。そしたら唐突におまえの姿を見せられた。三人のエクサリオ兵に囲まれて、殺されかけてるおまえを」
あのときのぼくを。
ワルサーで射殺した三人組の死に様がアキラの脳裏をよぎる。
「ちなみに、モニターか何かで見せられたんですか?」
「モニター。何かの道具の名前だな、それ? ちげぇぇよ。頭ん中にこう、情景を挿し込まれた感じだ。アルマ=クフと一緒にいるあいだは全部が全部そうだった。言葉は交わさず、情報の塊っつーか、概念が直接頭に流れ込んでくるって具合に。モニターってどんな道具?」
「えーと、説明はあとで。もう話の腰は折りませんから続きをお願いします」
「おまえのことをざっと教えられたよ。おまえらの歴で言う三ヶ月ほど前に、この世界に迷い込んだこと。べらぼうに科学が発達してるおまえの故郷、地球のこと。一緒に迷い込んだ地球のツレと離れ離れになったり、市の奴隷になったり、今回の侵略戦争に巻き込まれたりで、ご難続きなこと。
そんな踏んだり蹴ったりの異世界人、雨宮アキラ少年を、アルマ=クフは大層お気に召したそうだぜ。ほいでおまえ、エクサリオ兵に殺されかけたあの瞬間、戦う力を望んだらしいな? だからアルマ=クフは、戦女神としてお望みの加護を授けることにしたそうだ。おまえにとっての戦う力、地球の銃や装備を。ちょろっと見せられたけど、すげぇ性能らしいじゃんか。しかも五〇人殺したって? やるぅ」
〝やるぅ〟に皮肉の響きはなく、素直な感心の色だけがある。アキラは耳を疑う。まさか大量殺人を褒められる日が来ようとは……
ケヴが口調を改めて言う。
「加護の件のあと、アルマ=クフは本題を切り出した。地球産の小僧が加護を上手く扱えるようなら、幾つか仕事を任せるつもりがあると。その仕事振りを見たのち、受肉しておまえに会う用意があるとも言ってたよ。それから、どう転ぶにせよ、この世界に不案内な雨宮アキラの面倒を見てやるベビーシッターが必要で、事態は切迫していて、近場にいる子守り候補はあたし一人だと言われた。神に指さして〝行け!〟と命じられたら黙ってそっちに行くもんだし、あたしにもメリットのある話だった。
そこで了承すると、日本語をブッ込まれて、今後のことは雨宮アキラを介して通達する、さっきの十字路で当人を待てと指示された。したら元いた丘に戻ってたよ。主観的にはあの海辺で半時間くらい過ごしたが、実際は一秒も経ってなかった。遠くのほうからマスケットとは違う銃声が連続して聞こえたとき、おまえの仕業だってすぐわかったぜ。あたしもソッコー動いた。敵の秘密兵器の連発式マスケットだとか伏兵だとかいう急報で慌ただしくなってるうちに、しれっと顧問団の傍を離れたのさ。あとはさっき話したとおりだ。顔の利く輜重部隊のやつをだまくらかして、ゲットした馬車で先回りして、おまえと無事合流。以上だ」
アキラは沈思黙考する。
そして口をひらく。「なんていうか……お尋ねしたいことが増えたんですけど」
「なら訊けよ」とケヴ。「答えられることは答えてやる」
しかしアキラは、ケヴからろくに情報を得られない。
Q:海辺とやらへどうやって移動したのか?
A:知んね。気づいたらそこにいた。
Q:その海辺に作り物っぽい違和感はなかったか?
A:なんも。
Q:この世界に実際、そのような海辺があるのか?
A:知んね。もしあるとしたら、たぶん南のほうじゃね? そんな感じの景色だったぜ。
Q:〝頭がぼんやりした夢見心地〟の状態になる前に、薬品のようなものを嗅がなかったか?
A:なんも。
Q:概念が直接頭に流れ込んできたとき、何か見慣れない道具を使われなかったか?
A:なんも。
Q:アルマ=クフの詳細な外見は?
A:混血が行き過ぎた感じの、人種の定かじゃねえカワイ子ちゃん。
Q:アルマ=クフはどうやってぼくのことを知ったのか?
A:さあな。でも相手は神だぞ? 隣んちの飲んだくれじゃねえんだ。世界中の砂粒の数を把握してたって驚かねえよ。
Q:アルマ=クフがぼくをお気に召した理由は?
A:さあな。
Q:アルマ=クフの加護が武器や装備の形を取るのは普通のことなのか?
A:フツーかどうかは知んねえけど、似たようなケース、読んだことあるぞ。気になるなら、このゴタゴタが落ち着いたあとでその手の本を漁ってみろよ。
Q:ひょっとして、この世界では地球のことが知られている?
A:地球のことなんざ、これまで一度として聞いたことないね。
Q:この世界の神は地球に精通している?
A:人の身のあたしがンなこと知ってると思うか?
Q:ぼくの世話を引き受けることで得られるあなたのメリットとはなんなのか?
A:チョー個人的なことだ。いつか機会があったら教えてやるよ。
Q:なぜケヴさんが世話役に適任なのか?
A:さあな。
Q:世話役のあなたにはいろいろと説明があったのに、世話をされるぼくにはなんの説明もない点を、憶測でも結構なので、ケヴさんの考えをお聞かせください。
A:見当もつかねえよ。本人に訊け。会いに来るっつてんだから。
Q:戦女神の降臨はいつ?
A:教えられてねえ。
Q:ぼくが任される仕事とは?
A:教えられてねえ。
返答がすべて本当なら、とアキラは考える。くされ宇宙人に人生を狂わされた被害者の会仲間というより、納得ずくで今ここにいることになる。“いつか教えてやる”そうだけれど、国家の的ナンバー1街道を爆走中のトラブルメーカーの子守りなんて報われない仕事、いったいどんなメリットがあれば請けるというのか。
謎だ。でもまあ、お姉さんの意図や真意はどうあれ、心強いのは確かだ。現地人との交渉や買い物、一般常識、習慣……今後何をするにも、ぼくにはベビーシッターが必要だ。
【お詫び】
昨日、予約投稿ミスにより68話と69話を2連投してしまいました。エピソードを読み飛ばされた方がいらっしゃるなら、誠に申し訳ございません。以後気をつけます。ミスの要因と反省の意は活動報告に詳細をあげてあります。
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