↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
66/86

【世話役】




 耳を疑うアキラの脳味噌がたちどころに三つの仮説を吐き出す。

 A、このお姉さんは日本で生まれ育ったか、日本に帰化した肌の白い人で、自分同様に異世界に放り込まれた拉致被害者仲間。

 B、エイリアンの超科学で日本語を脳にインストールされた――それくらいの芸当、近未来架空兵器を出したり消したりする連中ならお茶の子さいさいだろう――黒幕野郎の現地人協力者。

 C、『MIB』みたく人間の皮を被った、モルモットの経過観察か何かが目的のエイリアンご本人。

 しかしそのどれとも違う方向から、女が名乗る。 

「フロレターリだ。信じる信じねえは勝手だが、戦女神の命を受け、おまえの世話役として参上した」

 戦……女神?

 リラン先生の宗派が奉る、メイシア=ウギ=アルマ=クフ?

 困惑するアキラをよそに、女が言葉を継ぐ。

「ったく、火球でミンチにされたんじゃねえかと思ったぜ。怪我の塩梅は?」

「怪我?」アキラはオウム返しに尋ねる。

「左腕。血まみれだ。乾いてっけど。さっきの爆発か?」

「あ、いや……これは、もっと前です」

 女がアキラの左袖の切れ目を覗き込む。「重傷ってわけじゃなさそうだな」

 聞けば聞くほど、欠点なき完璧な日本語。見れば見るほど、フツーの人間。その挙措も、表情も、前髪が汗で額に張りついている様も……

 ともあれ、何かを推断したり断定したりるするには、情報がまったく足りていない。

 アキラは半歩身を引く。

「あの、お姉さんは誰なんですか?」 

「世話役っつったぞ。おまえの援軍、味方だ」

「意味がよく――」

「細けえ話はあと」女が丘のほうを気にして望遠鏡をふたたび構える。「おまえを追ってる連中、火球をぶっ放した時点でどれくらい離れてた? 単位はメートルでいい」

「えと……一五〇〇メートル。ここからだと三キロくらい離れた集落です。そこから撃ってきました」

「なら、獲物を仕留めたか確認するために、連中はあの丘に登るか、周囲一帯に散開している頃だな。それっぽい動きはこっからじゃ見えねえけど」望遠鏡を下ろして革ベルトの筒に仕舞う。「今のうちにとっととずらかるぞ。ほら乗れ」

 女が御者台に戻る。アキラは動かずにいる。

「いや待って。あなたは――」

「よお、テメェはあたしに訊きたいことがいろいろある。あたしもテメェに訊きたいことが山ほどある。でも今はそんな場合じゃねえから、くっちゃべるのはあとだ。乗れ。ぐずぐずすんな」

 確かに、ぐずぐずしている場合じゃない。

 アキラは御者台に身を引き上げる。板張りの座席に尻が落ち着くか落ち着かないかのうちに、ピシリと手綱が振るわれて幌馬車が進みだす。

 ここは念のために9ミリをいつでも抜ける状態にし、女神の使者を名乗る自称助っ人を警戒すべき場面なのかもしれないが、アキラはそうしない。荒っぽい態度なれど敵意を感じないというのが一つ。危機意識が居眠りしてしまうほどの疑問と興味を掻き立てられているのが一つ。馬車に揺られながら銃にさわるのは危なくてしょうがないというのが一つ。

 実際のところ、幌馬車の乗り心地は車輪の付いたみかん箱を思わせ、あまりにガタガタ揺れるものだから、アキラはカービンを暴発させやしないかと心配になる。安全装置を確かめ、銃口を外に向けて膝に寝かせてから、手綱を握る女を窺う。女も横目でアキラを窺っている。

「ナビしてくれ」

「ナビ?」

「ルートだよ、ルート。地図やらなんやら渡されてるはずだ。戦女神からそう聞いてる。どこへ行きゃいいのかはおまえに教えてもらえともな」

 その女神の御髪は安物のかつらっぽくて、肌が灰色で、目がデカすぎて、ピカピカぶんぶん唸るコンソールに囲まれてませんでした? との疑惑は胸に仕舞っておき、アキラは丁寧に切り出す。

「すみません、どういうことなのか最初から話してもらえると――」

「優先順位はナビ、安全確保、質問ゲーム。行き先は?」

 ここで押し問答をしても始まらない。

 アキラはPDAに視線を落とす。個人的な希望が叶うなら、遥か南のカルナリー王国に行きたい。しかし誘導されているのは真反対だ。

 女も横からPDAを覗き込む。数分前にカービンやモジュラーベストを眺めたときと同様の、抑制された好奇が窺える。その視線がPDAからアキラに移る。

「で?」

「北のほうってことしかわかりません。でもルートは合ってます。この道を真っ直ぐ」

 女が顔をしかめる。「〝北のほうってことしかわからん〟ってどういうことだよ?」

 アキラも顔をしかめる。「地図の表示範囲は限られてるんです。ほら」とタッチスクリーンを女に向けて、リアルタイム戦術マップをスクロールしてみせる。「これ以上動かないでしょ? 現在地の限られた範囲しか地図もルートも出ないんです。なので、最終的な目的地はわかりません」

「じゃあまあ……とりあえず真っ直ぐでいいんだな?」

「真っ直ぐです」

 女がうなずき、幌の開口部を通して背後を見やる。アキラもつられてそうする。危険地帯から遠ざかりつつあるものの、馬車はせいぜいママチャリくらいの速度。自動車の速さを知っている身には、恐ろしく悠長で、じれったい。




もしよろしければ、ブックマークや評価で応援していただけると執筆の励みになります。 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。