【ライフル射撃基礎編】
射手の体格に応じた銃器本体の調整は、無理のない一定かつ安定した射撃姿勢による照準、NPOAの土台になり、NPOAは、いつ何時でもチークレストのまったく同じ一点に頬を置くストックウェルドの土台になり、ストックウェルドは、ライフルの精度を最大限に引き出す射撃技術の土台になる。
実際に撃ってみるまでわからない部分もあるが、少なくとも、デフォルトのストック長よりもカービンを楽に構えられるようになったし、ホロサイトの〝窓〟の中央に緑色のレチクルが落ち着くようになった。ストックウェルドね。〝銃床に溶接〟とは上手いことを言う。左手が銃把に、左頬がチークレストに、左目がドットに溶接された感覚が……しないでもない。
念のためにストックの伸縮を変えてみる。
やっぱり五ポジがしっくりくる。
次に、二点スリング。留め具をカービンの右側面に付け直してから、バットストック側のアジャスターで少しきつい程度に全体を短くし、カービンを楽に構えられるか確かめ、銃身を安定させるに足る張力がスリングにかかっているか確かめ、カービンを肩から提げたときに小尾板の高さが乳首と鎖骨の中間あたりに落ち着くか確かめ、都度、ハンドガード側のクイックアジャスターで長さを微調整する。
風が吹き始める。アキラは移動を再開する。
数分後に訪れた無風休止でソフトウェア/肉体の調整に取りかかる。その準備として、外界の情報をより多く取り込んで身体反応に直結しているとかいう〝利き眼〟の診断。
ぎっちょなら照準に使うのも左目かと思いきや、時折、利き手と利き眼は左右反対のことがあるらしい。念のために診断テストをやってみる。両手の親指と人差し指で三角形を作り、その真ん中に遠い物体――いま使えるのは千切れ雲――を収めて、左目を閉じる。千切れ雲は三角形のフレームの中。右目を閉じる。雲がフレームから外れる。利き眼は右。器用な手と器用な目が左右バラバラの〝交錯優勢〟。
となると、これまでの逆をやることになる。
器用な右目で狙い、不器用な右手で撃つ。
右手に持ち替えてカービンを構える。左目よりクリアというか、とてもしっくりくる。右手で銃把を握るのは少し違和感があるものの、まあ、問題なし。頬付けの際に接触したマイクロホンを左耳側に移し、スリングの留め具をカービンの左側面に戻す。
で、ここから本格的に肉体の調整。やることが山ほどあるため、二つ三つ調整しては風と共に移動し、風がやんでは調整の続き、と複数回に分割する。
約二〇分かけて一二〇〇メートル移動したとき、音声案内が一巡する。
ちょうど風も弱まる。
アキラは辺りの物音に耳を澄ます。
危険が迫っている兆候はない。
〝ライフル射撃の基礎〟を通しでやってみるいい機会だ。
手始めに、頭を銃のほうへ下げるのではなく、銃が頭の高さにくるようにカービンを肩付けする。それから、各射撃姿勢に共通する根本要素を一から点検して、誤りを修正していく。
ぴんと伸ばした人さし指が銃身と並行になる高さで銃把をしっかりと握る。ただし、強く握りしめない。ゆるすぎてもいけない。強く握りしめたりゆるかったりすると、右手で撃つとき、着弾点が右上から右横にかけてズレる。
小尾板を肩の窪みのコンフォートゾーン、胸筋の端にしっかりと当て、その圧力を一定に保つ。ただし、強く押し当てない。ゆるすぎてもいけない。強すぎると右下に、ゆるすぎると(アキラがすでに何度か体験した鋭い痛みを伴う反動のおまけ付きで)左上に、着弾点がズレる。
小尾板を当てている肩をリラックスさせる。銃声や反動に身構えて肩が上がると、着弾点が下にズレる。逆に肩が下がると、上にズレる。
頬をチークレストにしっかりと当て、頬骨を一定の圧力で預ける。ただし、強く押し当てない。強く押し当てると真上に、圧力が不安定であれば左下に、着弾点がズレる。
ハンドガードを持つ手から力を抜き、脇を閉じ、垂直方向の骨格の支えを作る。この支えが上手く作れていないと、着弾点が右下にズレる。
アキラは姿勢と肉体感覚を総点検する。
注意事項のとおりにまあまあできてる……ような気がする。骨格と、適度に力の抜けた筋肉でカービンを保持できてる……ような気がする。
本来なら次のステップは実射だが、当然、できない。
代わりに、実射場面をイメージしてみる。
呼吸のコントロール。カービンに伝わる肉体の動きを最小にすべく、自然な呼吸サイクルの呼気を吐ききったタイミングか、吸気の半ばで息を止め、トリガーを引く。呼吸のコントロールがまずいと、上下または左下に着弾点がズレる。呼吸のコントロールは個人差があるため自分に合ったやり方を模索せよ。
トリガーコントロール。トリガーフィンガーの指先の腹を使い、トリガーを均一な力と速さでスムーズかつ真っ直ぐ〝押す〟。トリガーコントロールがまずいと、右上や右下に着弾点がズレる。また、トリガーフィンガーが銃床に触れていると、トリガーを真っ直ぐ後ろに引けず、着弾点が左にズレる。自然な指使いは個人差が大きいため、それが最も滑らかな操作に繋がるのなら、第一関節の近くで引くのも良し。
ファロースルー。発砲直後の、銃弾がミリセカンドで銃身を通り抜けている最中に人為的な動きがライフルに加わると、着弾点がズレる。よって、射手は発砲時の反動に対して、何もしてはならない。頬骨はチークレストに、視線は照準器に〝溶接〟したまま、肉体的にも精神的にも反動に抗わず、おさまるのを待つ。可能なら何も起きていないかのように反動を無視する。同様の理由により、単射での発砲直後はトリガーを引き絞った状態に保ち、反動がおさまってからトリガーをリリースする。
注意点はまだまだある。着弾点が水平方向にズレる原因、カント(ライフルの左右いずれかへの傾き)に注意せよ。バレルハーモニクス(発砲時の一定した銃身の振動)を狂わせて精度が劇的に不安定になる原因、銃身に触れる異物に注意せよ。目は一度に一つの物体にしか焦点を合わせられないため、標的ではなく照準――フロントサイトポスト/ドット/十字線――に集中すること。片目を閉じるとどこかしらの筋肉に無駄な力が入る上、遠近感・光量・視野・状況把握力が低下するため、両目をあけておくこと。ただし、片目を閉じるほうが上手く当てられるのであれば、片目を閉じるのも良し。各種支えを用いて安定した射撃姿勢を取る練達の射手であってもワブル(照準点の揺れ)からは逃れられないため、ひとたびワブルが最小限になったあとは、その動きをコントロールしようとせず、狙うべきポイントと照準点が重なったときに引き金を引くこと。
さらに、射撃速度ならびに機動力を優先するときは胸を正面に向けて前傾すべし(その際、サポートハンドは可能な限り伸ばしてハンドガードの前端をくるむように握るCクランプで反動制御)。精度を優先するときは半身に構えて全身をリラックスすべし。使い分けろ。
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