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【PDA】




 画面が詳細な電子地図になる。タスクバーに電子メールのアイコン。〝1〟とふられていて、確認しろと言わんばかりに点滅している。開くと、受信トレイに〝PDA〟と題された長文メッセージが一件。


【PDA】             

 当PDA[パーソナル・デジタル・アシスタント]

 は『WWⅢ:SituationNormal―

 All F#$%ed Up』の諸機能を現実世

 界でシームレスにご活用いただくためのデバイスで

 す。基本的には『SNAFU』に登場する各国軍正

 式採用PDAの性能を大きく逸脱したデバイスでは

 ありません。尚、PDAの機能は現在、〝リアルタ

 イム戦術マップ〟と〝通信〟がアンロックされてい

 ます。

  *当PDAの喪失は作戦行動に大きな制約をもた

   らすため、紛失・損傷・損壊にくれぐれもご注

   意ください。

  *紛失・損傷・損壊の際は日付変更後(0000

   時)に補充機が用意されます。また、バッテリ

   ー切れで充電器が手元にない際も補充機が支給

   されます。

  *当PDAの支給数は24時間ごとに2機(予備

   は後ほど支給)となります。特に異常がない場

   合は24時間経過後も補充機は支給されず、お

   手元のPDAを継続してご使用いただくことに

   なります。

  *当PDAは継続使用に伴って蓄積される情報を

   常時共有しており、メイン機・サブ機・補充機

   を問わずストレスなくお使いいただけます。

  *当PDAが採用している耐衝撃構造は〝あらゆ

   る衝撃への絶対的な強度〟を意味するものでは

   ありません。高所から落とす、堅い物体へ投げ

   つける、重量物を載せる、などの行為は誤作動

   や故障の原因となる恐れがあります。

  *当PDAが採用している耐水構造は水深30メ

   ートルが目安です。より深い水中でのご使用は

   お控えください。浸水して故障の原因となる恐

   れがあります。また、大きな傷・ヒビ・外装の

   一部欠落などが認められる場合は水気の多い環

   境でのご使用をお控えください。浸水して故障

   の原因となる恐れがあります。

  *当PDAは内臓バッテリーで連続12時間ご使

   用いただけます。バッテリー残量を確認の上、

   サブ機と併用してください。

  *当PDAの正常作動環境は摂氏-20度から5

   0度です。長時間の使用の際は環境によりバッ

   テリーの著しい消耗または熱暴走の恐れがあり

   ます。バッテリーの節約および熱暴走防止にス

   リープモードを適宜ご活用ください。

  **デフォルト設定:最終操作から3分経過時、   

    自動的にスリープ状態へ移行。

  **メッセージ受信時は自動的にスリープ解除。


 送信者は空欄で、受信日時は〝17Aug.14:23〟となっている。

 そっか、とアキラの眼差しが遠くなる。八月一七日。〝嵐の月の雲の日〟じゃなくて、八月一七日。くされ異世界に来てからだいたいそれぐらいの日数が経った気がする。八月。夏休み。今年の夏は父さんの大学時代の友人を訪ねてミュンヘンに家族旅行する予定が――

〝通信がアンロック〟と言う割に、送信機能は見当たらない。受信機能だけっぽい。

 アキラはメールBOXを閉じて画面を電子地図に戻す。

 表示範囲は、隅っこにある距離示度からして、一・五キロ四方。縮小・拡大はできるものの、自分を中心とした一・五キロ四方の外へはスクロール不可。

 アキラは数歩動いてみる。

 その方向へ、表示範囲がごく僅かにズレる。

 なるほど、よくあるゲーム的なマップと、『SNAFU』のマップと、おんなじだ。

 ということは、レイアウトも、おんなじだだろう。地図上の濃緑色部分は森や木立。黄緑色は野原。射線の黄緑色は農耕地。茶色の線は未舗装路。水色の線は河川。蛍光グリーンの点線は移動/脱出ルート。〝UNIT‐1〟とふられた青い光点が自身の現在地。〝EK〟とふられた黄色い光点は逃走支援キットの配置場所。ゲームでは逃走支援キットのDZ(投下地点)の表示もあったが、これにはない。

 ともあれ、ルートは単純明快。真っ直ぐ行って、右。つまり、このまま畑の中を西進し、農道を二つ越えたところで北へ転進。表示範囲内のEKは二ヶ所。現在地からEK1まで約五〇〇メートル。EK1からEK2は直線距離にして一キロ弱。脱出ルートはEK2の先へと、表示範囲の外へと、続いている。

 で、ルートは全長何キロなんだ? ぼくの体力はもつのか? どこかの時点でミッション2スタート? 逃走支援キットが〝配置される〟と書いてあったけれど、ゲームみたく、輸送機やヘリがDZにパラシュートで投下してくれる……? 

 アキラは考えるのをやめる。

 考えてもわからないことを、そこに行けば自ずとわかることを、いま考えても仕方がない。

 背の高い植物の海の中、背後に顔を向けて、耳を澄ます。

 軽騎兵が水車小屋前のフレッシュな大量殺人事件現場に到着したのか、複数の遠い蹄の音がやむ。

 猛追しくてくる気配はない――まだ。

 PDAをスリープ状態にし、アキラはふたたび走りだす。




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