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【4択問題】




 入れ替わるようにして、新たな作業台が影を落とす。

 アキラは立ち上がり、天板の上の物体を見下ろす。ごついスマートフォンか、携帯ゲーム機に似ていなくもない。これは……? PDA? 取り上げて側面の電源ボタンをスライドさせる。スクリーンに明かりが灯り、完全武装の兵士の画像を背景に日本語の――日本語!――メッセージが表示される。


  WWⅢ:Situation Normal―

  All F#$%ed Up 

  特別編 ~雨宮アキラくんの異世界大冒険~


  PART 1: 

  ESCAPADES


  Mission 1:

  Run Through 

  The Wheat-like Fields


 ・リアルタイム戦術マップの脱出ルートを辿り

  エクサリオ軍から逃れましょう     

  *状況の推移を反映し脱出ルートは随時変

   更されます

 ・ルート上に配置される逃走支援キットを活

  用し血路を開きましょう

  *ルート変更時は逃走支援キットの配置も

   変更されます

           

  逃走支援キットの支給元を選択

  ・合衆国陸軍

  ・EU陸戦群

  ・ロシア陸軍

  ・人民解放軍

  *支給元をタップすると自動的にリアルタ

   イム戦術マップが表示されます


 答えはまさかの、名指しオリジナル脱出イベント開幕。

 ざけやがって……

 アキラは夏の碧空を仰ぐ。UFOとかドローンとか、自分を監視している飛行物体がいるのではないかと思ったのだ。何もなし。いや……静止軌道上のスパイ衛星や母船の超望遠レンズが、地球人/モルモットのマヌケ面を捉えているのかも。

 スクリーンに顔を戻す。もう宇宙人の介入で決定だろコレ? それもとことん性格が悪いタイプの。〝雨宮アキラくんの異世界大冒険〟なる副題に悪意と嘲弄を感じる。

 ぼくらを異世界に放り込んだのもクソ宇宙人? そのせいで篠原は死に、成田はレイプされ、小林は行方不明になり、ぼくはとんでもない苦境に立たされてる? 宇宙人が諸悪の根源? 異世界に放り出して何ヶ月も放置しくさったのは初期環境適応テスト……?

 アキラは差し迫った大問題に注意を戻す。

 脱出イベント。

 ゲームのは楽しかったけれど、リアルのは今んとこ何ひとつ……

 水車小屋の陰から首を伸ばし、次いで背伸びして、来た道を窺う。勾配のおかげで割と遠くまで見える。銃声と炸裂音を聞きつけた軽騎兵の小グループがあちこちから接近中。加えて、たくさんの歩兵が駆け足で先の丘の辺りに集結しつつある。騎兵にしろ歩兵にしろ、距離はもう七〇〇メートルもない。

 アキラはPDAっぽいやつを手に急いで倉庫の裏手に回り、そっと似非麦畑に入って、真西と思われる方向へ走る。

 疲労が消し飛んでいるのは、恐怖とアドレナリンのおかげだ。

 しかし恐怖はスタミナの代わりにならないし、アドレナリンの泉も無尽蔵じゃない。

 そのうちガス欠になる。

 あるいは熱中症でヘロヘロになる。

 逃げても逃げても追いつかれる。

 アキラは一瞬、畑の中に身を潜めようかと考え、即時却下する。現状じゃ一時しのぎにもならない。人海戦術の捜索網の真っただ中で身動きが取れなくなっている一五分後の自分の姿がありありと目に浮かぶ。

 だからとにかく――

 ――リアルタイム戦術マップ。

 脱出ルート。

 コレの黒幕の性格がクソだろうと、凝りに凝ったお膳立てからして、そこは信じてもいいはずだ。

 ケツの四択はそう難しい問題じゃない。

 シングルプレイの逃走支援キットには武器が入っていた。黒幕野郎が寄越す逃走支援キットにも、きっと。でなきゃ〝血路を開け〟なんて文言、出てくるはずがない。

 今や意識的に記憶を掘り起こさずとも『SNAFU』のプレイ経験と知識がどんどんよみがえってくる。その経験と知識が告げる各陣営の銃火器の特徴は――

 ロシア陸軍の主武装であるAKシリーズとその派生・発展型はアリ寄りのアリ。雑に扱っても壊れないし、制御しやすい反動だし、近距離のパンチ力は大したものだし、命中精度も世間で信じられているほど悪くない。最大の難点は、戦時下の逼迫した兵站の都合でどのAKが支給されるのかわからないこと。純正ロシア製かもしれないし、ライセンス生産された同盟国製かもしれない。アクセサリーをふんだんに装着できる当代流かもしれないし、廃棄予定の骨董品かもしれない。AK神話を体現する高信頼性の個体かもしれないし、品質管理が杜撰な頃の信頼性に疑問のある個体かもしれない。うん、やっぱナシ。かなりギャンブルの要素が強い。

 人民解放軍の火器は意見の分かれるところだ。〝最の高〟と五つ星を付けるプレイヤーもいれば、〝所詮は西側の劣化コピー〟と鼻も引っかけないプレイヤーもいた。アキラ自身の評価は〝銃本体は悪くないけれど弾の性能がイマイチ〟。というわけで、ナシ。

 EU陸戦群は、アリ寄りのナシ。欧州諸国が個別に戦闘群を編成している関係上、資金力のある先進国の銃火器は高品質アクセサリーてんこ盛りのフル装備だが、そうでない国は特にお金のかかる照準装置が並みだったり旧式だったりする。最悪、アイアンサイトもあり得る。どの国の武器をもらえるのかは蓋を開けてのお楽しみ。ここもちょっとギャンブルの要素が強い。

 というわけで、良くも悪くも堅実かつ最新鋭の――ゲーム的視点では面白味に欠けるが、リアルでドツボに嵌まっている身にはこれほど頼りになるものもない――安定の米軍一択。

 アキラは足を止めて、息を入れながら〝合衆国陸軍〟をタップする。




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