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【チュートリアル】




 じゃあ何か? 『SNAFU』に登場する近未来架空銃器と実在銃器がぽんぽん出現してるのか? なぜ?

 いや、もちろん、ぼくを助けるために。そうだろ? そうとしか思えない。

 でも、どこの誰がどうやってこんなモンを瞬時に? まるでSF映画じゃん。SF……超科学……宇宙人。宇宙人? 宇宙人の仕業か? 誰にせよ、なんでわざわざ『SNAFU』の武器を……

 アキラは空いているほうの手で口元を覆う。その視線は今、自動小銃でも弾倉でもなく、ゴム張りの作業台に注がれている。

 ――薄暗い屋内射撃場に横一列に並ぶ仕切りの付いた作業台。異なる銃火器が置かれた幾つもの白い天板の作業台。隠しシナリオを開放すべく射撃訓練の満点評価に何度もトライしたチュートリアルの風景――

 農道のほうから声が聞こえて白昼夢が破れる。慌ててXM2038と二つの弾倉をひっつかみ、太陽の位置を確認しながら命がけの鬼ごっこを再開する。

 数分後、アキラは先ほどのトリックに名誉挽回の機会を与える。具合のいいことに、今度の農道は十字路だ。追っ手は一瞬、どこを捜すべきか混乱するだろう。できれば永遠に混乱させておきたいが、それは叶わぬ夢というものなので、配られたカードで最善を尽くすことにする。十字路に人影がないのを確認してから、南へ伸びる道を全力で七〇メートルほど走り、首尾よく畑に潜り込んで、その奥深くからふたたび西進。自動小銃は走るのに邪魔な上、拳銃よりもずっと重いが、アキラの意識はとうにそこにない。

 進行方向正面にある、木立を頂く丘。

 あの丘に行けばより効果的に足跡を途切れさせてしまえる。そして南または南西へ転進する。それとも、もうひと工夫凝らすべきだろうか。例のトリックを交えつつ、距離的・時間的優位を確保できる場所まで西か北西へ進み、次いで南へ向かうのはどうだ? 

 利点:ぼくがどうしようもなく南へ行きたがっているのを悟られずにエクサリオ軍を撒けるかもしれない。

 欠点:そこまでの大回りは体力面に少なからず不安が残る。

 難しく考えすぎか? あの丘で素直に南へ向かうべきか? アキラの脳の半分は安全圏に逃れる方法を考え続ける。もう半分は先の白昼夢のことを考え続ける。チュートリアルじゃん、と。

 意図はともかく、出現する武器の順序がチュートリアルに準拠している。ワルサー9ミリときて、お次はXM2038。本当にこれが〝チュートリアル〟なら、次に出現するのは、XM2038の銃身をさらに切り詰めたXMなんちゃらSBRになるはず。そして最後にM67破砕手榴弾。

 で、チュートリアルが終わったら? シングルプレイの米軍シナリオに突入? あの黙示録的な世界観の? 異世界に迷い込んだように、今度はあの世界へ?

 おそらくそれはない、とアキラの悟性が控えめに断じる。これを仕組んでいるのがどこの誰であれ、そいつは剣と魔法のくされ世界でぼくに近未来架空兵器を投げ与えている。現実版の米軍シナリオをやらせるつもりなら端からそうしているはずだ。では何をさせるつもりだ? リアルFPS? 異世界に放り出されたことと言い、マジで宇宙人か何かが関与してる? 陰険な灰色のチビどもが地表で右往左往する地球人/モルモットの姿をマザーシップのモニターで観戦しながら指さして笑い――

 それはさておき、と理性の声がオーバードライブ気味の想像に割り込む。一度どこかでカービンの使い方を確かめておいたほうがいいぞ。

 もっともな意見だ。アキラはこれまで、本物の銃器やトイガンに興味を抱いたことが一度もない。興味を抱いた銃はマウスの左クリックで撃つ銃だけだ。このXM2038カービンにしても、具体的に何をどう操作するのかは極めて曖昧。そこを確かめておかないと、拳銃のときと同じ轍を踏むことになる。

 畑を出、丘のふもとの雑木林に入り、西側の斜面へぐるっと回り込んでから、汗だくのアキラは自分に三分間の休憩を許す。喉の渇きが強くなっているが、我慢するしかない。三時間ぐらいじっとしていたいが、三分で間に合わせるしかない。今現在のリードは一〇分がせいぜいだろう。

 人間、集中すればたいていのことはできるものだ。アキラは一分四〇秒でXM2038の基本中の基本操作について把握する。

 セレクターレバーと引き金の相関関係――SAFEは安全装置、SEMIは単射、AUTOは連射。取説がなくとも、これくらいはわかる。ワルサー9ミリをいじくり倒したばかりなので、マガジンキャッチにまごつくこともない。セレクターとマガジンキャッチは両側にあり、左利きのアキラでも支障なく操作できる。

 安全装置をかけたまま弾倉を挿入して、マガジンウェルの脇のボタンを押し込み、自由に着脱できるかどうか試す。FPSの再装填モーションで腐るほど目にした光景を基に、折り畳み式リアサイトの真下の突起に人さし指と中指をかける。両指の下で沈んだラッチがロックを解除する。何センチか引く。動く。指を離す。戻る。これに違いない。 

 その動く突起、チャージングハンドルをめいっぱい引くと、ダストカバーが自動的にひらいて、XM2038においては排莢のためではなく、放熱および動作不良解消のために設けられているイジェクションポートから空の薬室が覗く。ハンドルをリリース。アキラは薬室の装填状況に確信を持てず、再度、チャージングハンドルをめいっぱい引く。ケースレス弾が一発だけ排出され、宙をくるくる回転し、ぽとりと落ちる。きちんと装填されているようだ。

 当然ながら、アキラは正しい射撃姿勢も、正しい頬付の方法も知らない。それでも素人なりにカービンを構えてみる。すぐ様、正確な射撃を可能ならしめる最重要ユニットの電源が入っていないのに気づく。アキラはオン/オフ表示のあるボタンを見つけると、ゲームでは常時作動していたホロサイトを手動で起動する。ガラスだか強化プラスチックだかの小窓に投影された緑色の円とその中心のドットを、近くの木に重ねる。よし。ほかにもあちこちに謎めいた可動部位があるが、放置するしかない。とにもかくにも試している暇がない。片方の弾倉に嵌められているバンド状の器具に、予備弾倉を並列に挿せるのを発見しただけでも、めっけもの。おかげで、右手が予備弾倉でふさがったまま重いカービンを操らずに済む。




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