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【タクティカルシューティング(未経験版)】




 アキラは面食らう。

 眼前に突如出現した長テーブルは、白いゴム張りの天板と鈍色のステンレスの脚から成る、何かの作業台。天板の上に黒い物体がいくつか載っている。アキラの視線はその黒い物体に釘付けになる。この後進世界には不似合いな、そして存在するはずのない、角ばったフォルムの自動拳銃。

 夢でも見てるのか?

 髭面の兵士もまた、面食らっている。足が止まり、ひょいと剣先で作業台を指して、アキラに声をかける。髭面の兵士の言語は、篠原のお国言葉を彷彿とさせる。エクサリオ語なんて欠片もわからないが、異質で、音楽的な響きを持つ、カエルっぽいしゃべり方だ。相手がロフト語に切り替える。アキラはただ見つめ返す。ロフト語は喋れない。

 今度は片言のリュシナリア語。

「おまえ、やた?」

 アキラは首を振る。

「なにだ、これは?」

 ほかの二人の顔も同じことを尋ねている。

 アキラは答えずに拳銃と弾倉を取り上げる。想像していたよりも重い。弾倉に込められている実包が陽光をきらっと反射する。見るからに本物だが、アキラには気にする余裕がない。なぜ本物の拳銃が魔法のように現れたのかも、どうでもいい。とにかくこれが、命綱だ。アキラはぎこちない手つきで銃把の尻に肉厚の弾倉を挿そうとする。つっかえて先っぽしか入らない。焦るな、前後が逆だ。今度は弾倉が滑らかにはまり、パチっと小さな音を立てる。

 どうやら、髭面の兵士はずば抜けて頭の回転が速いらしい。アキラの手元のセミオートマチックと、自分の胸に革帯で固定してある火打式の短筒を見比べたのも束の間、表情から不可解そうな色が消えて、はっと認識の光が宿る。

 そして俄かに剣を構え、アキラに駆け寄る。

 頭の一部が命じる――撃て。

 別の一部が疑問を呈す――ほんとに撃てるの、これ?

 いいから撃て! 殺されるぞ!

 殺されたくない一心でアキラは髭面の兵士に銃口を向ける。引き金と一体構造の安全装置のことは知識として知っているが、そうと気づかないままトリガーセイフティに人さし指をかける。指の腹の下で小さな突起が沈んだことも、それによってストライカーの内部安全装置が解除されたことも、もちろん、気づいていない。

 相手はすぐそこまで迫っている。

 アキラは引き金を引く。

 何も起きない。

 うんともすんとも言わない。

 髭面の兵士との距離は二メートルを切っている。銃口を向けられて相手は一瞬たじろぐも、何やらもたもたしている愚か者に切っ先を突き込むべく、ぐいと腕を引く。

 アキラは裏切られた気分で今にも繰り出されんとする刀身を見つめる。

 出し抜けに、過去に観たアクション映画やゲームプレイ中の再装填モーションがよみがえり、先の頭の一部がわめく――スライド! スライドを引け! トイガンと同じだ!

 トイガンに触ったのは小学五年生の夏に一度きりだが、ともかくアキラはスライドを――硬いスプリングと手汗のせいで滑って引き損なう。がっちりつかみ直して力任せに目いっぱい後退させ、手を離す。そのまま利き腕を、銃口を、突き出すようにして引き金を引く。ど素人の片手撃ちでも、射程八〇センチでは外すほうが難しい。馬鹿デカい爆竹じみた銃声と共に拳銃が暴れ、胸甲に小さな穴を開ける。髭面の兵士が自分の胸を見下ろして、がくりと片膝を突く。しかし命も闘争心も失っておらず、下がり始めていた腕をやおら上げる――剣を持つほうの腕を。

 アキラはさらに二度、発砲する。

 右胸と右頬の背後でピンクの霧がぱっと散り、髭面の兵士がその場にくずおれる。

 死んだ。

 いや、殺した。

 ぼくはいま人を――

 作業台が跳ね上がってその角がしたたかに腹を打ち、アキラは拳銃を取り落としかける。厚さ三センチかそこらの天板の側面に矢尻が食い込んでいる。右の兵士が舌打ちしたそうな顔で石弓を捨て、剣を抜く。もう一人はとっくにこちらへ向かってきている。

 たちどころに罪悪感が顕現意識の平野の彼方へ飛び去って、生存本能に突き動かされるまま、駆け寄ってくるエクサリオ兵に銃口を向け、何発も外したあと、拳銃を両手で構え直して跳ね上がった銃口を下げ、やたらめったら引き金を引く。

 三人めが倒れたとき、スライドが後退状態でロックされる。

 弾切れ。

 苦みのある異臭がつんと鼻をさす。少し金属的で、燃えたプラスチックに似ていなくもない強い臭い。一拍遅れて臭覚と拳銃が結びつく。燃えた発射薬の臭い。漂う燃焼ガスの臭い。

 もう一拍遅れて三つの点を悟る。一、銃声のせいで鼓膜に綿を突っ込んだみたいに少し耳が遠い。二、その銃声が周りの注意を派手に引いた。三、畑から現れた大勢の兵士が駆け足でこちらに――

 アキラは足元を見、作業台から叩き落された弾倉の一つを拾い上げる。もう一つは見つからないが、探している暇がない。

 ダッシュして森の中に飛び込む。




本作のスタートダッシュ期間(3連投)はこれにて終了となります。次回51話からはアクション始動に伴い、更新頻度を【毎日1回・夜19時30分】へと移行します。引き続き、彼の泥臭い生存劇を定時にお見守りいただければ幸いです。もしよろしければ、ブックマークや評価、感想などで応援していただけると執筆の励みになります。


いずれ非公開になりますよ、と明記した旧版にもブックマークをいただきました。どうもありがとうございます。どこのどなたかは存じませぬが、あなた様が最も暗い場所を通るとき法悦の星座に見守られんことを。


※本作は改丁版です。主人公が現代兵器を手にしてここからどう生き残るのか、地続きで先の話を読みたい方は、すでに連載中の旧版(オリジナル版)へどうぞ。【旧版のURLリンク】【https://ncode.syosetu.com/n0129ky/】

尚、51話以降のストック(1話あたり二千字から三千字、平均2500字前後、130話以上、鋭意増産中)が発進準備を整えておりますので、気長にお付き合いいただければ幸いです。



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