口止め
「玲志君は本当にクズだよねぇ」
雨宮紬がしみじみと言う。
相馬玲志は特に気分を害した様子もなく頷いた。
「いやいや、それ程でもありませんよ」
「クズって言われて謙遜する奴初めて見た」
紬は思わず吹き出す。
玲志は平然と続けた。
「やはり雨宮さんには及びません」
「上司なんだけどなぁ、私」
「そこは否定しないんですね」
そんなやり取りを遮るように、男が声を掛けた。
「おい」
紬が振り返る。
「あー……えっと……偉い人!」
「雑すぎない?」
玲志が呆れたように呟く。
男はこめかみを押さえた。
「……まぁいい」
深いため息を吐く。
「爆発事件。そして監視カメラには武供がお前の部屋に入っていく姿と、出ていく姿が映っていた」
男の目が鋭くなる。
「言い訳はあるか?」
紬は一瞬も迷わなかった。
「まさかー。彼は顔が似てるだけの別人ですよ!」
「その言い訳が通ると思うか」
「世界には似た人が三人居ます!」
「お前の処遇だが――」
男が言いかけた瞬間。
紬がぱんと手を叩いた。
「暗い話はやめましょうよー」
男の眉がひそむ。
「五千万あったら何に使います?」
沈黙。
男の額にうっすら汗が滲んだ。
紬は不思議そうに首を傾げる。
「どうしました?」
そして満面の笑みを浮かべた。
「夢の話なんですから、もっと明るく元気にいきましょうよ!」
男は何も言わない。
数秒後、踵を返した。
そのまま足早に部屋を去っていく。
扉が閉まる。
静寂。
やがて玲志が口を開いた。
「相手が横領した事で脅すの、クズすぎません?」
「世間話が苦手みたいだね」
紬は悪びれもせず肩を竦めた。




