言い訳
「えー。負けたの?」
雨宮紬は頬を膨らませた。
不満そうな顔だ。
対する相馬玲志は、神妙な顔で頷く。
「強敵でした。やはり自分では無理かと」
「勝てたでしょ」
即答だった。
玲志は肩を竦める。
「まさかぁ」
「従斧が乗り換えてないってことは、そういうことでしょ」
「あー」
玲志は腹を押さえた。
「体に空いた古傷が痛む」
「昨日空いた穴を古傷扱いする時点で頭おかしいんだけど」
紬は呆れたように言う。
玲志は気にした様子もない。
「仕事はしましたし」
「言い訳くらいは聞いてあげるよ」
「強かったんで」
「体に穴が空いたくらいでパフォーマンス落とさないでしょ。玲志君は」
「無茶言わないでくださいよー」
全く説得力のない声だった。
紬は机に肘をつく。
「昨日さぁ」
「電話したよね、私に」
「はい」
玲志は平然と頷いた。
「家で休養を取っていました」
「へぇ」
紬の口元が吊り上がる。
「玲志君の家って、パチンコ店みたいにジャラジャラ音がするんだぁ」
「心地の良いBGMの中で安静にしてました」
「最低だね君」
「褒め言葉として受け取っておきます」
紬は大きくため息を吐いた。
そして本題に入る。
「で?」
「なんで逃がしたの?」
玲志は少し考える素振りを見せた。
「相手は只者では無いです」
「本音で言ったら減給はやめてあげるよ」
「あー……」
玲志は視線を逸らした。
「ぶっちゃけ、クソ女に押し付けられた仕事なんで」
「逃がしても良いかなって」
紬が固まる。
「更に言うなら」
玲志は続けた。
「武供を捕らえろって圧かけられてるんで」
「ザマァ見ろって感じですね」
「あー……」
今度は紬が視線を逸らした。
数秒の沈黙。
やがて紬が口を開く。
「え?」
「クズが目の前に居るんだけど」
玲志は真顔のまま答える。
「奇遇ですね」
そして一拍置いた。
「俺の前にもクズが居ます」




