死合
「ふんふーん、ふん」
橘湊は鼻歌を歌いながら人気のない道を歩いていた。
次の瞬間。
上空から何かが凄まじい勢いで落下する。
轟音。
湊が立っていた場所を中心に地面が砕け、大きな亀裂が走った。
土煙の中から現れたのは相馬玲志だった。
「えー……今ので死なねぇのかよ」
心底嫌そうな顔で呟く。
対する湊は周囲を見回した。
「警察呼ばないと!」
そして少し考える。
「あれ。携帯持ってませんでした」
全く緊張感がない。
玲志はため息を吐いた。
「殺しに来るって分かってて散歩とは良い度胸だな」
「日課の散歩ですよ!」
湊は満面の笑みで答える。
玲志は従斧を軽く振った。
次の瞬間、その巨体が斧に引っ張られるように加速する。
一瞬で間合いを詰めると、そのまま湊へ斧を振り下ろした。
だが。
湊は片手を上げる。
何も持っていない。
それなのに。
甲高い金属音が響いた。
だが弾かれる。
「うわ」
湊は目を丸くした。
「あっれー!」
迎撃が間に合わないと判断したのか、そのまま後方へ飛び退く。
さらに空中で何かを掴むような仕草を見せる。
そのまま身体が持ち上がった。
まるで見えない槍でも電柱に突き刺したかのように。
湊は宙吊りのまま玲志を見下ろした。
「武供の最高傑作……か」
玲志は従斧を肩に担ぐ。
「なるほど。見えない武器を常に持ってるって解釈で良さそうだな」
「その斧……重すぎますね」
湊は興味深そうに従斧を眺める。
「インスティンクトで引き出された能力ですか?」
玲志は答えない。
代わりに眉をひそめた。
湊は人差し指を向ける。
「バン!」
玲志は即座に従斧を前へ出した。
だが何も起こらない。
沈黙。
玲志は顔をしかめた。
「ブラフかよ」
「逃げまーす!」
湊は踵を返した。
「させるかよ」
玲志は再び従斧を振り上げる。
その瞬間。
湊が振り返った。
「バン!」
乾いた声が響く。
玲志の身体が僅かに揺れた。
視線を落とす。
腹部に小さな穴が空いていた。
血が滲む。
「狸がよぉ」
玲志は顔をしかめる。
湊は楽しそうに手を振った。
「バイバイです!」
そしてそのまま路地の向こうへ消えていった。
静寂が戻る。
玲志はしばらく立ち尽くしたまま、自分の腹を見下ろす。
「うわぁ……」
他人事のように呟いた。
「体に穴空いてるよ」
しばらく考える。
そして携帯を取り出した。
「これ口実にして今日は休もうっと」
電話の相手が出る前から、もう帰る気だった。




