従斧
「玲志君!」
雨宮紬が勢いよく手を挙げる。
「楓ちゃんが駄々こねちゃったから、代わりに武供を殺して回収してきて」
そう言ってケラケラと笑った。
相馬玲志は一切表情を変えない。
「予定があるので難しいです」
「仕事でそれ言う奴初めて見たー」
紬は楽しそうに笑う。
玲志は平然と続けた。
「外せない用事がありまして」
「面白いから聞いてあげるよ」
紬は頬杖をつく。
「親戚の結婚式です」
「仮にあったとしても出てから行けば?」
紬は腹を抱えて笑った。
「火ノ宮が手に余るのなら、自分の手にも負えないかと」
「そっち路線で回避するんだー」
紬は感心したように頷く。
「従斧の現在の主人が」
そこまで言いかけたところで、玲志がため息を吐いた。
「いやぁ……先代の主人が弱かっただけですよ」
「自分より強い主人に乗り換えまくる従斧を持って何年?」
「五年です」
「それだけ持ってて乗り換えられないって異例じゃない?」
玲志は少しだけ考える素振りを見せた。
そして。
「あー……面倒くさいんで無理です」
「本性出すの早ー」
紬は机に突っ伏す。
「なーんで私の部下って私の言うこと聞かないんだろ」
玲志は即答した。
「尊敬できる人間じゃないからでは?」
「泣いちゃうぞ」
「貴方の泣き顔を見たい人間なら山ほど居ますよ」
「酷くない?」
全く傷付いた様子もなく紬が笑う。
「とにかく行ってよー」
椅子をくるりと回しながら続けた。
「サクッと殺して帰ってきてよ」
「仕事があるんですが」
「楓ちゃんに押し付ければ良いじゃん」
玲志は冷たい視線を向ける
そして静かに言った。
「だから尊敬されないんですよ」




