処遇
火ノ宮楓は緊張した面持ちで部屋へ入った。
「失礼します」
扉が閉まるより早く、明るい声が飛んでくる。
「どうだった!」
机から身を乗り出した雨宮紬が、期待に満ちた顔で楓を迎えた。
楓は一瞬だけ言葉を選ぶ。
家で匿っている、などと言えるはずもない。
「深手は負わせたのですが、逃げられました」
「そうなんだ」
紬は顎に指を当てる。
「強かったんだね。何の武器を使ってたの? 逃がしたってことは、名の知れた武器を持ってたのかな」
楓は本当のことを口にする。
嘘のような真実だった。
「何も使っていませんでした」
一瞬の沈黙。
「……へぇ」
紬は目を細めた。
「信じられないかもしれませんが」
「信じないに決まってんじゃーん!」
即答だった。
楓が思わず眉をひそめる。
「いや、ですが本当に武器は――」
「逃がしたって話を信じないって言ってるんだけど」
紬はにっこりと笑った。
楓は頭を抱えたくなる。
「強敵でしたから」
「その刀は飾り?」
紬の視線が楓の腰へ向く。
「力を引き出せば敵無しでしょ」
「…………」
楓は答えない。
答えたくない。
「で?」
紬は椅子の背もたれに身体を預けた。
「対象の戦闘スタイルは? その程度なら答えてもらうよ」
「素手であらゆる武器を使いこなします」
楓は言葉を探しながら続ける。
「……説明するのが難しいのですが」
紬の口元が楽しそうに歪む。
「いーねー!!」
机を叩く勢いで立ち上がった。
「そいつ、面白い奴だね!」
楓は嫌な予感しかしなかった。
「私の処遇は?」
「いやいや」
紬は手をひらひら振る。
「いきなり斬首とかしないからぁ」
「…………」
「怯えない怯えない」
「…………」
楓は無言のままポケットに手を入れる。
その仕草を見て、紬が吹き出した。
「てかさぁ」
「楓ちゃん、ポッケにある辞表、シュレッダーにかけといて」
楓の動きが止まる。
「…………」
「楓ちゃーん」
紬は楽しそうに笑う。
「逃がすわけ無いじゃーん」
その瞬間。
部屋の外から勢いよく声が飛んできた。
「二人共ね!!」




