付喪神
雨宮紬は椅子の背もたれに身体を預けた。
「骸の王の破壊は不可能だよ」
軽い口調だった。
まるで天気の話でもするように続ける。
「というか、付喪神そのものが壊れにくいんだ」
机の上で指を二本立てる。
「武器を付喪神にする方法は大きく二つ」
一本目の指を折る。
「使い潰すこと。例えば、人を刺し続けたナイフは、人を殺すことに特化した付喪神になる」
続いてもう一本の指を折った。
「もう一つは、人を生贄にして武器を作ること」
そこで小さく肩を竦める。
「原理自体は似てるんだけどね」
その笑顔はどこか冷たかった。
「だからって、何人も生贄を捧げるなんて狂った発想だよ」
紬は少しだけ目を細める。
「でも、その狂人達は一つの法則を見つけた」
静かな声だった。
「質の良い生贄には共通点がある」
部屋の隅に縛られた男へ視線を向ける。
「エメラルドみたいに綺麗な目を持つ人間」
一拍置いた。
「それが武供」
男の顔から血の気が引いていく。
紬は楽しそうに笑った。
「しかもね」
「目の輝きと質は比例するんだよ」
そう言って、自らの目元へ手を伸ばす。
コンタクトレンズを外した。
死んだ魚のように濁っていた瞳が消える。
代わりに現れたのは、宝石のように透き通った翠色の瞳だった。
男の喉が鳴る。
紬は気付いていた。
気付いた上で笑う。
「あーあ」
困ったような声だった。
「知っちゃったなら仕方ないか」
ゆっくりと立ち上がる。
男は必死に首を縦に振った。
何も言わない。
誰にも話さない。
そう訴えるように。
紬は満足そうに頷く。
「うんうん」
「君のことは信頼してるよ」
その言葉に男の顔へ僅かな希望が宿る。
だが。
次の瞬間。
紬はいつも通りの笑顔で言った。
「だって死人は話さないもんね」
悲鳴は上がらなかった。
いや。
上げる暇すら無かった。




