打倒英雄
「さぁ、やってまいりました!!」
雨宮紬が両手を広げる。
まるで司会者のような笑顔だった。
「英雄殺し!」
「ワクワクするね!」
楓は呆れたように額を押さえた。
「骸の王の破壊に関係あります?」
「もちろん」
紬は即答する。
「今のままじゃ当然、骸の王には勝てない」
その言葉に場の空気が少しだけ変わる。
「だから湊君には従刀の主になってもらう」
「あー……」
楓が納得したように頷いた。
「従斧も武供から作られてましたもんね」
「双子の片割れは従刀になった」
「そうそう!」
紬は楽しそうに指を鳴らす。
「従斧は最も強い者を主とする」
「従刀は最も才ある者を主とする」
紬は笑う。
「何より従刀のインスティンクトは主の才能を極限まで引き上げる」
「素晴らしいね!」
楓は深いため息を吐く。
「絶望的なのは現在の主ですけどね」
「ん?」
「千年前、骸の王を追い詰めた神速の居合斬りの使い手」
「つまり化け物」
楓の言葉に紬は満面の笑みを浮かべる。
「しかも死んだ後も骸になって主を続けてる」
「最高だね!」
「最悪なんですけど」
即答だった。
紬は気にした様子もなく続ける。
「という訳で四人で英雄をぶち殺してね」
「頑張って」
楓は無表情になる。
「その四人の中に私は入ってませんよね」
「参加してくれたら豪華プレゼントをあげちゃいます!」
「要らないです」
間髪入れずに断る。
紬はニヤリと笑った。
「隼の腕輪」
楓の表情が止まる。
沈黙。
紬は畳み掛ける。
「なんと!」
「腕に付けるだけで足がとてつもなく速くなります!」
沈黙。
楓は何も答えない。
だが視線だけが紬へ向けられていた。
紬は楽しそうに笑う。
「欲しいでしょー?」
「……怨」
静かな声だった。
次の瞬間。
布都御魂剣から黒い霧が溢れ出す。
人の形を模した禍々しい怪物。
怨。
怨の腕が伸びる。
紬の首を掴む。
「持ってるなら寄越せ」
楓の声に怒気は無い。
だからこそ怖かった。
紬は首を絞められながらも笑っている。
「隼の腕輪、武供として生まれた弟の成れの果てがそんなに欲しい?」
楓の目が細くなる。
紬は楽しそうに続けた。
「湊君を殺さなかったのも」
「弟と重ねちゃったからでしょ?」
怨の指に力が入る。
紬の首が締まる。
それでも紬は笑っていた。
「でもさ」
苦しそうな声で言う。
「私を殺したら一生手に入らなくなっちゃうね!」
数秒の沈黙。
やがて怨は腕を離した。
黒い霧となって布都御魂剣へ戻っていく。
楓はしばらく紬を見つめていた。
そして静かに告げる。
「約束は果たしてもらいますよ」
紬は喉を押さえながら笑った。
「もっちろーん」




