03.男爵令嬢ニナの警戒
〈男爵令嬢ニナ視点〉
交流関係の広いマルコ様が学園で宣伝してくださったこともあり、わたしが入学する頃には、ボーシャ商会の『密やかな演出プラン』や『贈答品選定サービス』は、若い男性たちの間で知る人ぞ知る人気のサービスとなっていた。
「若い女性にも手軽に手に取ってほしい」というわたしの抱いていた課題にも、意外な形で解決の糸口が見つかった。
男性からの贈り物という形であれば、高価な品でも問題ない。
さらに、選定サービスの「特典」という名目で割引価格のセットを用意することで、ブランドの格を落とすことなく、幅広い層に自社商品を使ってもらえるようになったのだ。
王立学園の入学式。
わたしが政経科の教室に足を踏み入れるなり、わっと男子生徒たちが駆け寄ってきた。
兄弟や親戚からボーシャ商会の噂は聞いていたものの、入学という社交の場に出るまでは、直接の接点を持てずにいた子息たちだ。
もっとも、彼らの多くとはすでに文通……もとい、注文の手紙を通じて、顔を合わせる前からのお得意さまも少なくないのだけど。
「ニナ殿! あの後、婚約者からの反応はどうだったと思う?」
「こないだの贈り物。学園に入学するとき、みんなに自慢できるとすごく喜んでもらえたよ。ありがとう!」
「……あの、恋人ではなく、もうすぐ嫁ぐ姉への贈り物なんだが、相談に乗ってもらえるだろうか?」
「もちろんですとも!」
待っていました、と言わんばかりに。
わたしの学園生活は、いつもの「商談」から幕を開けた。
同じクラスに第二王子殿下が在籍しているのは承知していたが、わたしは数ある貴族の中でも最下層の男爵令嬢。おいそれと近づけるはずもなく、直接お話しする機会などないだろうと考えていた。
それ以上にわたしの注意を引いていたのは、シクルス伯爵家の次男、デリック様だった。
何を隠そう、あのマルコ様が拳を握りしめて憤っていた「浮気男」仲間の弟である。結局、その兄の方は廃嫡され、代わりにデリック様が次期当主の座に据えられたようだが……「兄が兄なら弟も弟」という言葉もある。油断はできない。
わたしのサービスは、誠実な恋を応援するためのもの。
不実な輩への加担など、商会の沽券に関わる。
万が一にも、不埒な男に恋愛成就のアドバイスを授け、その影で正しい女性が涙を流すような事態は、商人として絶対に許容できない。
男爵家という立場の限界はありつつ、私はマルコ様をはじめとする有力顧客の皆さまの情報網も駆使し、彼らの素行調査を密かに行っていた。
「浮気者の恋愛相談には乗らない」
――それが、わたしの揺るぎない信条なのだ。
誰もが畏れ多さに殿下を遠巻きに眺めている中、真っ先に挨拶へと向かったのがデリック様だった。
この教室内では家格も高く、行動自体に不思議はないが……実に出世欲の強そうな、抜け目のない男だ。王都の流行を完璧に押さえた髪型に、さりげなく胸ポケットからのぞかせた上質な絹のハンカチが、その計算高さを裏付けている。
――彼が浮気をするとしたら、すごく巧みに完璧にやるだろう。
わたしはひとり、彼に対する警戒心を一段と強めるのであった。
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誠実な恋の味方か、それとも不実な男の隠れ蓑か。
ニナが突きつけた問いに、令息が返した意外な本音とは?
「私が求めているのは、商品ではなく『信用』です」
毎日1話ずつ番外編を公開中!次話は明日21時過ぎに更新予定です。




