03.第一王子レイモンドの執着
〈第一王子レイモンド視点〉
ディアナとアレクシスが、この学園生活で少しでも交流を深めることなど到底許せない。
自分の狭量を知ってしまった僕は、もはやその心の渇きに従って行動することにした。
致し方ないことだ。
そうでなければ、僕は彼女を手に入れるためだけに内乱でも戦争でも引き起こし、この国を滅ぼしかねないのだから。
このときの僕は、アレクシスはもちろんのこと、ディアナの意思すら、僕の渇望を満たすための些細な障壁に過ぎなかった。
行動原理はただ一つ。
僕が欲しいものを、僕の手に収めること。
――それだけだ。
最高学年となった僕は、すでに学園内に手駒として動かせる人間を何人も見繕っている。先に学園に入学していたという利を最大限に活かし、僕の目の届く範囲で、ディアナとアレクシスが接触しないよう盤面を整えた。
ディアナも僕の提案に素直に従ってくれたので助かった。
とはいえ、彼女を他の手駒と同じように扱うつもりはない。
彼女には僕の思いどおりに動いてほしいと願う一方で、僕の筋書きどおりにしか動かないような存在になってもらっても困る。彼女にはいつだって僕の想定を飛び越え、自由で瑞々しい聡明さを発揮してほしい。
僕の微笑み一つで、安易に盲従するだけの女性たちと同じであっては、僕の心は満たされないのだ。
「その、レイモンド殿下は婚約者の方はいらっしゃらないのですか?」
ディアナが珍しく控えめな調子で僕に問いかけてきたのは、学園の個室サロンで政治談議を交わすことが恒例となった、ある秋の日のことだった。
彼女は夏頃から徐々に、高位貴族の令息たちの動向を気にするようになっていた。
彼女と同学年の宰相の息子や騎士団長の次男だけにとどまらず、僕と同じクラスのミヌマ商会の嫡男、果ては来年入学予定の魔導研究所長の息子まで、対象は学年を跨ぎ多岐に渡る。
どうやら彼らの婚約者の有無と、現在の交流関係を密かに探っているようだった。
直接言葉を交わした様子はないようだったので、少し苛立ちはしたものの静観していたが、まさかこの僕までもが、その調査対象であったとは。
僕は常のように、静かにペンを机に置き、組んだ両手の上に顎を載せた。ディアナと政治の話をするとき以外は、不意の動揺を悟られぬよう顔の近くに手を置くようにしていた。
「急にどうしたんだい?」
「いえ……私の婚約者については殿下もご存知だと思いますが、そういえばレイモンド殿下のお話は伺ったことがないなと思いまして」
『私の婚約者』という言葉が出た瞬間、思わず笑みが消えかけた。
ディアナは話題が話題だけに気まずそうに視線を落としていたため、気づかれずに済んだようだ。
己の失態に小さく溜息をつくと、彼女はそれを自分の失言への落胆だと勘違いしたらしい。
「申し訳ございません、殿下。本来、触れてはならぬところを……」
「顔合わせもしていないからなぁ……」
彼女の言葉に被せるように、憂いを含んだ声音で呟く。嘘ではない。
正式な婚約が内定しているリース・リドラスとは、彼女の入学時に儀礼的な挨拶を交わしたきりだ。正式な席での顔合わせは、未だ行われていない。
その一言で、察しの良い彼女はすべてを察したようだった。「そうなのですね」と、必要な情報は得たと言わんばかりに、彼女は鮮やかに話題を切り替えた。
一般的に政略結婚の場合、十二歳頃までには両家による顔合わせを済ませるものだ。公にしないまでも、最低限の儀礼を欠いては政略としての体裁を成さない。それは、貴族社会における最低限の「契約」なのだ。
ゆえに、「顔合わせをしていない」という言葉は、実質的に婚約者がいないという事実に等しい。
敏いディアナのことだ。これで、僕には公表できるような婚約者は存在しないのだと正しく誤解してくれたことだろう。
とはいえ、このままでは、リース・リドラスの卒業をもって彼女が僕の公式な婚約者だと発表されてしまうだろう。
僕はその日の夜、すぐさま陛下のもとを訪れ、公国への留学を願い出た。
以前から辺境行きを勧められていたことに触れ、さらには、辺境での生活を経て見違えるほど実直になった弟の変容をも引き合いに出したのだ。正式な立太子という重責を担う前に、一度王都を離れ、外の世界に触れたいと。
ディアナと物理的な距離ができるのは身を切られるように辛い。
だが、ここが勝負どころだ。
最良の未来を掴み取るために。
今は、なりふり構わず時間を稼がなければならない。
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完璧な計画、用意された舞台。
卒業パーティーの裏で、天才王子が最後に仕掛ける「手助け」とは。
「さあ、僕の筋書き〈シナリオ〉を始めようか」
毎日1話ずつ番外編を公開中!次話は明日21時過ぎに更新予定です。




