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02.第一王子レイモンドの目的



〈第一王子レイモンド視点〉



 アレクシスはあの日を境に、人が変わったように引きこもるようになってしまった。


 僕という存在に萎縮せず、いきいきと授業に励んでいた頃の面影はどこにもない。心のどこかで危惧していた事態が現実となり、原因である自責の念と、弟への少しの失望が胸の中で渦巻く。


 とはいえ、それは言い訳にもならない、ほんの一部分にすぎない些末なことだ。



 僕の心を支配していたのは、あの日出会った――王国の建国神話で語り継がれる氷の精霊のような、ディアナという存在だけだった。


 彼女はこれから王宮を訪れるようになる。

 その折に、どこかで。もう一度だけでもいい、あの日の続きを話したい。




 目的のなかった僕の人生に、初めて生まれた「願い」。


 それは、あまりにも高揚感に満ちた感覚だった。





 そのあと僕は、弟が辺境に行ったことを最大限に利用し、王宮を訪れるディアナを労わるという大義名分で、一度どころか頻繁にお茶の時間を設けることに成功した。



「辛い王族教育のさなか、婚約者が不在ではやる気をなくすのも無理はない。弟がいない間は、代わりに僕が話し相手になって支えましょう」


 そう理屈を並べれば、誰もが納得して僕たちを二人きりにしてくれる。


 話題を真面目な政治談義に絞れば、両親も周囲の貴族たちも、この義兄妹の交流を温かい目で見守ってくれた。

 それどころか、以前よりも熱心に授業へ取り組むレイモンドの姿に、両陛下や教師たちは、僕と彼女の交流をむしろ歓迎している様子さえあった。



 周囲の人間を観察し、誘導するのは難しいことではなかった。何より僕は王太子であり、誰かを陥れるような悪だくみとは無縁だと思われている。この立場は、あまりにも動きやすい。


 少し微笑むだけで、周囲は簡単に僕の思惑どおりに動いてくれる。

 自分の賢さを、僕は生まれて初めて心から喜んだ。






 十六歳になり、学園に通い始めると、ディアナと頻繁に会うことは叶わなくなった。


 彼女もその優秀さゆえに、前倒しで全ての王族教育を修了してしまったため、どちらにせよ王宮にいても会う口実がないのだけど。



 だが代わりに、僕は政務会議への出席を許されるようになった。


 かつて二人で語り合った理想を議題として提案し、それを現実の政策として動かせるようになったことが、今の僕にとっての唯一の張り合いだった。



 あれから対話を重ねて――。


 ディアナの魅力は、あの出会いが象徴するように、この国にとどまらず新しい知見を貪欲に学ぶ向上心と、それを瞬時に吸収する理解の早さだとわかった。「このくらいの勉強量は普通でしょう?」という彼女の基準は、この国の標準では決してない。


 ひとつの議題に対し、詳細を詰めるように論理を戦わせるのは苦手なようだったが、その弱点を補って余りある発想力が彼女にはある。


 彼女の提案は、これまでの議論の延長線上にはない、全く別角度からの視点で、いつも新しい風を吹き込んでくれた。僕一人では決して辿り着けなかった答えも多く、心から彼女を尊敬した。


 論理を構築する部分は僕が得意とするところだ。

 互いの持ち味を活かせる僕たちは、間違いなくベストパートナーだった。




 手紙に「今はまだ、これらが君と共に考えた法案だと言えないのが残念だよ」と綴る。


 君が隣にいるつもりで、僕はひとり議会で戦ってくるよ。心の中でそう言葉を添えて、僕はペンを置いた。






 そして、二年後。

 待ちに待った、ディアナが学園に入学する日がやってきた。


 とはいえ、王太子であり学年も違う僕が、無闇に新入生へ接触するのは波乱を招きかねない。そう自制して過ごしていた三日目の昼。



 アレクシスとディアナが、二人きりで睦まじく談笑している光景を目の当たりにして、僕は初めて、プツンと理性が外れる音を聞いた。


 頭では理解していたはずなのに、彼女がアレクシスの婚約者であるという現実を、僕は無意識のうちに思考の外へと追いやっていたのだ。


 感情に溺れて職務を疎かにし、目先の甘い蜜を求めて大局を見失う。そんな愚かな大人たちを、僕はこれまで嘲笑ってきた。

 だが、今の僕には、あの者たちの浅ましい「心」が痛いほど理解できてしまう。



 弟の隣で柔和に目じりを下げる彼女を前に、心臓が焼け付くような嫉妬で身動きが取れない。

 今すぐに飛び出して二人を引き剥がしたい衝動を、自身の腕を指が食い込むほど掴み耐える。感情の赴くままに動けば、これまで僕が作り上げてきたすべてを壊してしまうから。




 ディアナは、弟アレクシスの婚約者だ。


 このままの筋書き(シナリオ)では、数年後の未来、僕の隣に彼女はいない。

 その瞬間、僕は将来の王としての責務と、自身の激情を天秤にかけ――。



 いや、天秤にかけるまでもなく、最初から決まっていた。

 この日、僕は人生における唯一の目的を定めた。




もし少しでも面白いと思っていただけたら、下にある高評価【☆☆☆☆☆】やブックマークでぜひ応援いただけると嬉しいです!


「あぁ、この賢さが、初めて役に立つときがきた」


欲しいものは、手に入れる。それがたとえ、弟の婚約者でも。

国を滅ぼすよりは、略奪する方がマシだろう?


毎日1話ずつ番外編を公開中!次話は明日21時過ぎに更新予定です。

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