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国外追放されたマッドサイエンティスト、何を血迷ったか世直しを始めてしまう~狂科学者のオリジナル武器無双~  作者: 日和崎よしな
第2章 剣聖ホーリスと風の射手アルチェの救国

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第96話 狂科学者、ベルグバルト大連山にて②

 せっかくシエンス共和国の政的幹部と話せるのだから、その機会を有効に使うべきだと考えた。


「サイス長官。投核弾が落とされると知っている私が、趣味でウィルド王国にエアバイクを普及させたと思いますか? 投核弾を使うのはやめたほうがいいですよ。ついでにウィルド王国への侵略も」


「思わせぶりな口ぶりだが、投核弾に対処する算段はついているのかね?」


「投核弾が落ちてきたら、空間転送でシエンスにお返しします」


 サイス科学省長官はまたしても一笑に付した。


 ベントはいつもどおり笑わない。


「私を誰だと思っている。君にできないことくらいわかる。それができるなら、君は真っ先に大好きな太陽系地球へ行っているだろう」


 その言葉を最後に、しばし無言の時間が流れた。


 お互いに両手を白衣のポケットに突っ込んでいる。


 ベントのそれは心の防衛心がそうさせた結果だが、きっとサイス科学省長官も同じに違いない。


 ベントがシエンス共和国の投核弾開発の進捗度を気にするように、サイス科学省長官もベントがどれくらい投核弾の対策を進めているかを気にしているはずだ。


 いかに自分の情報を与えず、相手からの情報を引き出すか。


 しかし、ベントはこういった腹の探り合いは好きではない。


 それはサイス科学省長官も同じようで、疲労感のあるため息を吐き出した。


 そして眉間に寄っていたしわが消えた。


「ベント君、シエンスに戻ってこないか? 君の能力は大統領をはじめ、長官たち全員が認めている。謝罪さえすれば、彼らも開発費横領の罪はこの追放期間で償われたとみなしてくれる」


 そう言いながら、サイス科学省長官はエアトラックの助手席から荷物を取り出した。


 それは爆弾だった。


 サイス科学省長官は爆弾を小屋の壁際に置き、ベントの隣に戻ってきた。


 爆弾には爆発までの残り時間が表示されている。

 6分にセットしたようで、残りは5分と数十秒。


 わざわざ爆弾をセットしたということは、小屋に自爆装置は付けていなかったということだ。

 投核弾がこの小屋も吹き飛ばすはずだったのだろう。


「で、どうなんだね?」


 爆発までは少し時間がある。


 横並びに立つサイス科学省長官は、顔だけ横に向けてベントの反応をうかがった。


 ベントは隣の白衣から小屋の方に視線を戻して答える。


「丁重というわけでもなく、お断りします」


「やはり国外追放で気分を害したか? 君にもプライドがあることは知っている。だから私は反対だったのだ」


 その口調は少なからず怒気を孕んでいた。


 ベントが視線を横にやると、サイス科学省長官の視線は小屋の方を向いていた。


「いまさら戻ってきてほしいと言われてももう遅い、とかじゃないですよ。タイミングの問題ではなく、あなた方は根本的に駄目です」


「根本的に?」


 ふたつの視線がかち合った。


 サイス科学省長官の眉間にはふたたびしわが寄っている。


「シエンス共和国は民主主義の皮をかぶった組織的独裁国家です。行政府の基盤がガチガチに固まってしまったいま、もはや一般国民の手によってはどうにも変えようがありません。方法があるとすれば、それはただひとつ。革命だけです」


「権力者が法を作り、法が権力者を守るから、力ずくで変えるしかないというわけか。だが、警察組織や軍隊すら掌握している支配層を革命で打ち破るのは至難だぞ。一般国民が徒党を組んだところで支配を覆すことなどできまい」


「そうですね。ですが、それは内側からに限った話です。外側からならどうでしょう。シエンスが戦争を仕掛けるというのなら、それはむしろ好都合。ウィルド王国がシエンスに勝利し、逆に国家を吸収してしまうことで、本来あるべき公平と自由を取り戻すことができます」


「専門外の分野では君も妄言を吐くのだな。ウィルド王国に勝ち目などないが、仮に勝てたとしても、その公平と自由とやらは(はかな)い夢だ」


 サイス科学省長官は嘆息混じりにそう言った。


 オールバックの下で細められた目は、素人が語る政治ほど滑稽なものはない、とでも言っているようだった。


「儚い夢、ですか……」


 その目がふたたび時限爆弾の方に向けられたので、ベントも同じく目減りするデジタル表示に視線を向ける。


 残り時間は3分と少し。


「いくらいまのウィルド王が名君だったとしても、代替わりしていけば必ず暗君や暴君に当たる。君は科学者なのだ。にわかが政治を語れば恥をかくだけだぞ」


 サイス科学省長官はベントを一瞥(いちべつ)したが、すぐに視線を爆弾に戻した。


 ベントは自分に向けられた視線に気づいても爆弾から目を離さなかった。


 爆発までのカウントダウンを見ながら、心の中では離脱までのカウントダウンを進めている。


「もちろん、絶対君主制のリスクについては承知していますよ。でも、もしそのリスクを取り除くことができたとしたら、儚い夢も、夢のような現実になるとは思いませんか?」


 ベントは疑問形で投げかけたが、サイス科学省長官は答えるより先にエアトラックに向かって歩きだした。


 いや、先にというより、そもそも答えなかった。


 爆発の時間が迫っているので、おそらくもうベントの言葉は聞いていない。


 爆発まで残り1分半。


 ベントもオウギワシの方に向かおうとしたとき、エアトラックのドアに手をかけたサイス科学省長官が振り向いて口を開いた。


「好奇心のおもむくままに好き放題やっていたマッドサイエンティストが、何を血迷ったか世直しを始めてしまうとはな」


 ベントは不敵な笑みだけを返し、そのままオウギワシに体を向けた。


 そして1分後、決別を叫ぶかのような爆発音を背に、ベントはベルグバルト大連山の上空を羽ばたいた。

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