第89話 おまもり
「な、なに? 宣戦布告だと!?」
「はい。たったいまから私がエルフの里を侵略し、制圧したのち、支配します」
里長は目を剥いた。驚きと困惑が混在した表情で固まった。
里長以外のエルフも困惑してガヤガヤと小さく騒ぎだした。
里長は硬直から立ち直ると、眉間にしわを寄せて目を吊り上げた。
「ほら見たことか! だから部外者を入れるべきではないのだ。ウィルド王国が我々の土地を狙っていることはわかっていた。凶獣たちが押し寄せてきたのも、この状況を作り出すために仕向けたことだったのだ!」
里長の目はベントではなく里内のエルフたちに向けられていた。
まるで演説しているかのように辺りを見回して、手振り身振りをまじえ、怒気のこもった声を高らかに響かせた。
「違いますよ、アルヒーゴさん。侵略するのは私個人です」
ウィルド王国はエルフの里のことなど気にとめていない。
隣の大国、シエンス共和国しか見ていない。
「ほう、ならば貴様を討ち取ったとしても、ウィルド王国は感知しないということだな。我々は賊を討伐するのだ。仮にウィルド王国の法に則ったとしても正当な権利である!」
里長は声を張りあげ、エルフの民たちに強い視線で目配せした。
ベントを取り囲むエルフたちが弓やら剣やらを構え、一部の者たちがアムールトラのタラップ前を固めた。
ベントは小型GESの銃口部分についているパラボラアンテナの反射鏡の部分をカポッと取り去った。
それにより反射鏡の中央位置に伸びている副反射鏡も一緒に外れ、本来の銃口である一次放射器が露出した。
「もう宣戦布告済みなので、攻撃を開始します」
ベントはそう言って小型GESを天高くに掲げた。
「何をする気か知らんが、里じゅうの弓に囲まれているし、獣型兵器の入り口もふさいだ。貴様に勝ち目はない!」
里長は右手を高く上げ、そして勢いよくそれを振り下ろした。
矢を放てという合図である。
その瞬間、里じゅうのエルフがいっせいに倒れた。
アルチェとディーアを除いて。
立っているのはベント、ホーリス、アルチェ、ディーアの4人だけである。
「な、何? 何が起こったの?」
アルチェが周囲を見回しながらベントに駆け寄ってきた。
ベントは訊かれたからには説明をする。
右手の小型GESをアルチェに見せ、個人的な義務を果たす。
「アルチェさんは知っていると思いますが、これは小型GESです。普段は反射鏡を付けて超音波に指向性を持たせていますが、反射鏡を外すことで全方位に超音波を発することができます」
アルチェはなるほどと手を打ったが、首は終始傾いていたので、彼女がどこまで理解したかはベントにはわからない。
「でも、なんであたしとディーアは無事なの?」
「おまもりですよ」
ベントはそう言ってアルチェの首元を指した。
そこにはベントが渡した金のネックレスがあった。
「え、これ? ただの通信機じゃないんだね」
「はい。それはGESキャンセラーネックレス。通称、防波ネックレスです。超音波に干渉する超音波を周囲の狭い範囲に発するので、それを着けていればGESや撃音波銃の影響を受けずに済みます。通信機能はおまけです」
アルチェはネックレスを外してまじまじと観察した。
ベントはアルチェが凶獣に取り囲まれたときを想定して作っていたが、結果的にエルフを選別する使い方となった。
「あれ? ディーアも無事なの?」
アルチェは言いながら、すぐにディーアの首元に光る金色を見つけた。
「私はついさっき渡されたのよ」
ディーアには里長と対峙する直前に「すぐにこれを着けてください」と耳打ちしてそれを渡していた。
元々はフォルマン用に作っていたものだったが、もしかしたらディーアにも必要になるかもしれないと思って持ち出したのである。
「さて、協議の場を整えましょう」




