第153話 超硬装甲②(中央軍・セルフィートSide)
セルフィートの視線の先にあるのはキャタピラーガードだった。そこがドリル戦車のパーツのなかでもっとも弱そうに見えるのだ。
セルフィートが槍を構えると、ギレスがドリル戦車から離れた。
レーザー・ランスに青い光が灯る。
「はあっ!」
セルフィートがキャタピラーガードの端に向かって真横から槍を振る。
――カンッ!
鋼鉄の装甲は槍の穂を受けとめた。
よく見ると青い光の触れた部分が赤熱して熔けているが、そのスピードはあまりにも遅かった。
「おいおい、マジかよ。ベントが作った武器でも斬れねーのかよ」
ギレスが天を仰ぎつつ左手でひたいを押さえて嘆いた。
ウォルグは沈黙している。
セルフィートは槍を引いて青い光を消した。
「これはてごわいな。弱点を探そう」
セルフィートはドリル戦車の周囲を歩き回り、じっくりと観察した。
キャタピラーとガードの間にはほとんど隙間がない。巨大ドリルと車両の隙間も同様。
車両後部には何もない。無人兵器なので入口も存在しない。
「どうだ、攻略の糸口は見つかったか?」
ウォルグの問いかけにセルフィートが顔を上げる。
そこで彼女の目がグラビティー・ハンマーに留まった。
「ああ、いま見つけた。ウォルグ、そこを代わってくれ」
セルフィートが車両上部に飛び乗り、ウォルグがハンマーの重量増加を解除して得物を引き上げた。
セルフィートがふたたび槍に青い光をまとわせ、それを車両上面に突き立てる。
当然ながらカンッという抵抗音が響くが、彼女はそのままの姿勢を維持した。
じわり、じわりと鉄が熔けていく。
槍がゆっくり、ゆっくりと沈んでいく。
「これくらいか……」
セルフィートが槍を引き上げた。
ウォルグが彼女の隣に来て覗き込む。
「おい、途中じゃねえか。あのまま続けていたら貫通しそうだっただろ」
「いや、あれ以上は槍が熱に耐えられん。あの青い光は槍の穂の部分には触れないようになっているが、熔かした鉄のほうが穂に触れてしまう。熔解した鉄に加熱されて穂が熔けてしまうのだ」
実際、セルフィートの槍は穂先も穂の刃も丸くなっており、それ自体の切れ味を失っていた。もうレーザーを起動することでしか敵を斬れない。
「そうか。武器を損なわせちまって悪かったな」
「いや、構わんさ。元々この武器はこの戦争に勝つためにもらったものだ。それより、そのグラビティー・ハンマーをもう一度使ってみてくれ」
セルフィートの作戦は亀裂を入れた場所に荷重をかけ、亀裂を破壊の起点とすることだった。
それを理解したウォルグは亀裂の上にハンマーを置き、重量増加のボタンを押した。
――ミシッ、ミシッ。メキッ……ギギギ……ギギ。
金属の悲鳴が聞こえてくる。装甲もさっきよりたわんでいる。
ギレスも車両上に乗ってきて、3人でハンマーの沈み具合を見守った。
「おお、今度はいけそうだな、兄貴!」
――ギィ。
そして、ドリル戦車が最後の悲鳴をあげる。バリバリバリバリと鉄を千切るような騒音とともにハンマーが一気に沈み、車両部分に大穴が開いた。
前方のドリルも息を引き取るように回転を止めた。
「よっしゃ!」
ギレスがガッツポーズを決めた。
その横でウォルグがセルフィートに拳を差し出す。
セルフィートは目を見張った。彼女がその反応を見せるのも無理はない。
レフトフット、ライトフットという強い派閥意識を持つウォルグは、ライトフットであるセルフィートのことを敵対視すらしていた。
そんな彼が同胞に対するものと同じ振る舞いを彼女に見せたのだ。
セルフィートはすぐに応えた。ウォルグと拳を突き合わせ、難敵撃破の喜びを分かち合ったのだった。
しかしドリル戦車はあと2両ある。ロボットの侵攻はピオニールの勇士たちが抑えているが、ドリル戦車だけはウィルド王城に向かって突き進んでいる。
「俺は前衛部隊と合流する。ふたりとも、ドリル戦車のほうは頼んだぜ」
ギレスはそう言って中央軍の待機位置へと走っていった。
それを見送りつつ、セルフィートとウォルグは北のドリル戦車を目指して走った。




