第151話 穿たれる防衛線(中央軍・ウォルグSide)
ウィルド平野の中央部。
100もの敵ロボットの大群が押し寄せてきていたが、戦線は押し込まれるどころか押し返してすらいた。
灰色のケープを身にまとったギルド・フレダムの勇士が走り回り、敵ロボットの重機関銃の弾切れを誘う。
敵ロボットが飛び道具を失ったところに、ウェアウルフ族の戦士たちが飛びかかって攻撃する。
ウェアウルフ族は動体視力や瞬発力といった身体機能が優れているため、ロボットの左腕から繰り出される鉄球ハンマーをかわすのは容易だった。
パワーも並外れているので、胸部にある動力装置を厚い装甲ごと破壊することができる。
「うおらぁ!」
ただひとり、ロボットの鉄球ハンマーと真正面から打ち合える者がいた。
ランク1stのウェアウルフ勇士、ウォルグ・エフカインである。
鉄球ハンマーを弾かれた敵ロボットはその反動で仰向けに倒れた。
そこにウォルグの巨大な鎚が振り下ろされる。
ロボットの胸部はプレス機で圧縮したかのようにペシャンコになった。
「こりゃあいい。さすがはベント製だな」
ウォルグが担いでいる巨大な鎚は、その名をグラビティー・ハンマーといい、ボタンを押している間だけ重量がどんどん増加する機能を有している。
ちなみに増幅重量の最大値は100tである。
「おーい! 新手が来たぞー!」
最前線で戦っていた誰かが叫んだ。
ウォルグがそちらに視線を向けると、戦闘中のロボットの間を巨大なドリルが前進していた。
ウォルグが走って近づくと、その全容が確認できた。
それは戦車だった。
ただし、それが正面に抱えているのはドリル。直径2m、長さ3mほどもある銀色の円錐に螺旋状の刃が付いていて、それがグルグルと回っている。
それを支える直方体形状の車体はドリルよりも大きい。ウォルグの目測で、長さ5m、幅2m、高さ3m。
緑色をしたその分厚い金属の塊を、ガードの付いたキャタピラーがせっせと西へ運んでいる。
しかも、北側と中央と南側に1両ずつの全3両。ロボットを3機ずつ挟んで横並びに進行している。
ウォルグはウェアウルフとフレダムの勇士たちにフォンをつないだ。
「中央軍前衛部隊に告ぐ。ドリル戦車に構わずロボットの対処を継続せよ。ドリル戦車は俺とギレスで対処する」
その指示を聞いた弟のギレスがウォルグの元に走ってきた。
肩には彼の武器であるガトリング砲が担がれている。
「兄貴、来たぜ」
「おう。俺が北と中央の2両を壊すから、おまえは南の1両をやってくれ」
そう言って駆けだすウォルグをギレスが呼びとめた。
「待ってくれ、兄貴。さっき攻撃してみたんだが、俺のガトリング砲だと歯が立たなかった。ドリルも車体もキャタピラーのガードも、どこを撃っても弾かれた。こりゃあ、ふたりで協力したほうがいいぜ」
ウォルグはギレスの顔を見たまま一瞬だけ沈黙した。
険しい顔と申し訳なさそうな狼顔が向かい合っている。
やがて、ウォルグはギレスに背を向けてから言った。
「わかった。ふたりでやるぞ。だが俺ひとりでじゅうぶんそうだったら、おまえもロボットのほうを処理しろ」
「ああ、わかった」
ウォルグとギレスはまず中央のドリル戦車に向かった。
ドリル戦車はひたすら前進するのみなので、横から近づいても攻撃はしてこない。
「おらあっ!」
ウォルグがハンマーでキャタピラーガードを叩く。
しかしビクともしなかった。
「兄貴の力でも駄目なのか」
「これは硬いな。いまのはグラビティー・ハンマーの重量を100kgまで上げたんだが」
ウォルグは大鎚をさっきよりも大きく振りかぶった。
今度は早めに重量を上げはじめ、自分の体が遠心力に負けないギリギリ、200kgのところでそれをぶん回した。
「おぉりゃあああっ!」
――ガァアアアアン!
ものすごい音が戦場に響き渡った。
しかし、キャタピラーガードに小さな凹みができただけだった。
走行速度が落ちることすらなかった。
呆然とするギレスを尻目に、ウォルグは大鎚を肩に担ぎ、大きく跳躍してドリル戦車の上に乗った。
そして肩に担いでいたものを足元に降ろす。
「このままグラビティー・ハンマーの重量を上げていく」
ウォルグはボタンを押し続けた。
いま現在の重量がどれくらいかはデジタル表示が教えてくれる。
ハンマーの重量がどんどん増えていく。
10kg、50kg、100kg、500kg、1t、10t、50t、そして――。
「馬鹿な! 100tにも耐えるだと!?」
ドリル戦車の車体は少し沈んで走行速度がかなり落ちた。
しかし止まらなかった。
ハンマーが装甲を突き破ることもなかった。
「いまの状態でガトリング砲を叩き込んでみるぞ」
「いや、弾の無駄だ」
ウォルグは大鎚から手を離さずにギレスを制止した。
いちおう進行速度を遅らせる効果は出ている。
ただ、北の1両と南の1両は本来の速度で進んでいる。
しかも、敵ロボットの数が多いため、前衛メンバーに疲労が見えていた。
おそらく50機ほどは撃破できているが、撃破スピードが明らかに落ちており、中央軍の戦線は少しずつ押し込まれていた。
「兄貴、何か策はあるのか?」
「やむを得ん。あいつに頼るしかないだろう」
そう言いながら、ウォルグは中央軍の後衛が待つ西方に視線を向けた。




