第150話 虫の天敵(南軍・ジオスSide)
青と緑のケープたちは血の気が多かった。
だからこそ臆せず敵ロボットに向かっていけたのだが、早々に殲滅したせいでエネルギーが有り余っていた。
その余剰エネルギーを吐き出す先は、当然ながら元同胞だった。
自然な流れで青と緑に分かれ、互いにいがみ合った。
「軍隊長、どうにかしてくれよ。こいつら、あんたの言葉じゃねーと止まらねーんだよ」
ジオスはフォンに向かって怒鳴っていた。
彼の目の前ではふたつの勢力がそれぞれ武器を構えて相対し、一触即発の様相を呈していた。
「いいじゃない、やらせとけば。どっちもボクちんが教育したんだから、殺しはしないわよ。それよりジオスちゃん、ボクちんはね、あなたをしばきたいんだけど」
「は?」
「よくもバーキングの勇士を道連れに寝返ったわね!」
さっきまで抑揚の強い高音だったカリナーリの声が、急にドスの利いた太い声になった。
ジオスは喉を鳴らし、ひたいに玉の汗を浮かべたが、ギリリと歯を食いしばって覇気を押し返した。
「それは社長に……ベントに負けて仕方なかったんだよ。あんただってベントに負けて、いまは下僕だろーが!」
「……おい、すきっ歯、鷲鼻。ジオスをここに連れてこい」
カリナーリの声音が変わった。
今度は抑揚が強いわけでもドスが利いているわけでもない。声は低いままだが、淡々としていた。
どうやら逆鱗に触れたらしい。
ジオスはフォンを切った。無意識のうちにディスコネクトと発声していた。
ジオスは大きなため息を吐き出し、何気なく空を見上げた。
すると、東方の空がピカリと光った。
目を凝らしてよく見てみると、それは飛行機だった。
「おい、おまえら! 敵の飛行機だ。撤退しろ!」
ジオスは南軍全体にフォンをつないで命令した。
あまり人の言うことを聞かない青と緑の勇士たちだが、生存のための判断は早く、いがみ合いなど存在しなかったかのようにいっせいに西側へと走りだした。
ジオスも走るが、獲物の重さが尋常ではなく、いつの間にか最後尾を走っていた。
青と緑のラインがどんどん遠ざかっていく。
うしろを振り返ると、飛行機は高度を保ったまま飛んでくる。爆撃機である。
「はぁ……はぁ……。や、やべぇ……」
ジオスは息を切らしていた。いっそのこと武器を捨てて逃げようかとも思ったが、すでに疲弊してしまって手遅れだった。
だが、皮肉にもカリナーリを怒らせたことがさいわいする。
「おーい、へばってんじゃねーぞ! 乗れ!」
「武器はこっちによこしな!」
右目に眼帯をしたすきっ歯の男ギャットと、左目に眼帯をした鷲鼻の女イーゴルが、それぞれのエアバイク改で走ってきていた。
エアバイク改はひとり用だが、ギャットが前にずれたので、ジオスはうしろにまたがって無理やりふたり乗りをした。
武器はイーゴルに預けたが、重すぎてイーゴルが耐えられず、結局置き去りにすることになった。
はたして、ジオスは後衛の南軍待機位置まで退くことができた。
しかし、彼の前には飛行機よりも恐ろしいかもしれないエルフの男、カリナーリ・アルテがいる。
「おかえり、ジオスちゃん」
「あ、あぁ……」
カリナーリはさっきの口論なんか忘れたかのように忙しそうだった。
カリナーリはジオスの眼前にいるが、ふたりの間には男がもうひとりいる。
右目に眼帯をした肥満男、なで肩のストロキンが長テーブルの上に寝そべっていた。
彼は寝そべってはいるが、眠ってはいない。
「なで肩、いまからお湯を入れるわよ。絶対に口を閉じちゃ駄目よ。むせそうになっても我慢しなさい」
カリナーリは焚火の上で熱していた鍋を手に取ると、それをストロキンの口の上で傾けた。
「アーッ、アーッ!」
かなり熱そうだが、どうにか耐えている。
カリナーリは次に縮れた麺を投入して棒でかき混ぜた。
それから黄色い粉を入れ、さらにかき回す。
「アァッ、アゥッ! ア……ア……」
ストロキンは耐えきった。
カリナーリが彼の口に棒を差し込み、麺を引っ掛けて持ち上げる。
そして、すする。ズルズルと豪快な音を立てて麺をすする。
「うーん、美味!」
カリナーリはほおに左手を添え、恍惚の表情を浮かべていた。




