第147話 マスターの貫禄(北軍・グイルSide)
北軍隊長であるグイル・マステルの前に、息を切らした黄色いケープたちがわらわらと集まってきた。
「隊長、あの……すみません。俺、怖くて……」
サーフェの勇士のひとりが報告しようとしているが、しどろもどろで要領を得ない。
そもそも彼らの撤退についてはすでにホーリスから報告を受けている。
「ホーリスはなぜ後衛まで後退するよう指示したんだ?」
それはさっきグイルがあえてホーリスに訊かなかったことだった。
戦闘中である彼女の時間を奪わないように配慮してのことである。
「あ、いえ……その……前衛部隊長からの指示ではなく、逃げてきたので……」
「ホーリスに黙って逃げてきたということか?」
「……はい」
グイルは腕を組んで唸った。
ホーリスが「逃走」ではなく「後退」という言葉を使ったのは彼女の優しさに違いなかった。
かつての最弱ギルドはプログレスだったが、いまはサーフェがそう呼ばれている。
サーフェにはランク3rd以下の勇士しかおらず、討伐可能な凶獣も少ない。
そんな彼らに並みの凶獣より危険なロボット兵器と戦えというのは、たしかに無茶だったかもしれない。
ただ、そうだとしても前衛部隊長になんの断りもなく逃げてきたことは看過できない。
これは後退どころか撤退でもなく、敵前逃亡でしかない。
初めての共闘なのでそもそも信頼のある関係性ではなかったが、こんなことをされたら不信感が生まれ、関係性はマイナスになる。
「だいたい、ひとりだけ強力な武器を持っていてズルいっすよ!」
誰かがそう叫び、何人かがそれに同調した。
彼らがさっきまでいた場所では小さな青い線が動き回っていた。
「それは敵を仕留めるという危険な役をひとりで請け負っているからだ。彼女ならあの青い武器がなくともいまと同じように果敢に戦うだろう」
27人が隣り合う仲間とヒソヒソと話しはじめた。
その中からたびたび「無理」という言葉が聞こえてきて、グイルの表情はかつてなく険しいものになった。
しかしグイルは怒鳴らなかった。
怒らなかった。
完全に怖気づいた彼らを前線に送り返しても足手まといになるだけだろう。
彼らが戦力となるためには足りないものを補ってやる必要がある。
だから、グイルはこう号令をかけた。
「おまえたち、無理に戦えとは言わん。だが、フォンだけはつないでおけ。それが軍隊長である俺からの、ただひとつの命令だ」
グイルは北軍の前衛部隊全体にグループでフォンをつないだ。
「北軍隊長のグイルだ。これより北軍の前衛部隊は全員フォンをつないだままにする。報告事項がある者は逐一状況を報告せよ」
「こちら前衛のホーリス。1列目の5機と2列目の10機は撃破しました。ただ、1列目の5機と3列目の10機がそちらに向かっています」
「了解!」
報告にあった1列目の5機はグイルたちに迫ってきている。
グイルは走りだした。
セオリーどおり、敵ロボットの周囲を走り回って銃弾を撃ち尽くさせてから近づく。
フェイントをかけて右腕の鉄球ハンマーを空振りさせ、その右腕を足場にして肩上まで駆け上がる。
そして右拳を頭部に打ちつけた。
――バチチッ、バチッ!
グイルの装着しているグローブから電気が流れ込み、ロボット頭部の基幹AIが破壊された。
そのグローブの名はエレクトリック・ナックル。
指に沿って紫色の線が入った黒いグローブで、ベントがグイル専用に作った開発品である。
基幹AIが破壊されたロボットは暴走モードに突入した。
左右の腕を振り回しながら走りだす。
グイルがロボットの左腕に体重をかけて降りたことで、ロボットの進行方向が変わって別のロボットへと突っ込んでいった。
結果、その2機は行動不能となった。
「こちら後衛。2機撃破」
「了解。こちら前衛。4列目の10機を撃破」
「了解」
グイルはすぐに次のロボットに向かって走った。
サーフェの勇士たちは、ただただグイルの奮闘を見守っていた。




