第146話 剣聖の矜持(北軍・ホーリスSide)
「ホーリスさん、こっちのやつ弾切れになりました!」
突然声をかけられ、ホーリスは思わずそちらを二度見した。
なんと、サーフェの勇士がひとりだけ残っていたのだ。
「キミはさっきの……」
ホーリスの号令にひとりだけ元気よく反応していた、あの勇士である。
さっきの記憶では身長はホーリスより高かったが、彼の顔は幼い。歳はおそらくクレムと同じくらいだろう。
ちょっと自信なさげに見えるのは、髪の色がレザーアーマーと同じ茶色で地味だからか、あるいは若干垂れた眉のせいかもしれない。
「俺、ヤーニンっていいます。サーフェのギルドマスター、ランパ・ブラグベリーの孫です」
「おい、危ないぞ!」
白いロボットがヤーニンに迫っていた。
彼はとっさに剣と盾を構えたが、それでは鉄球ハンマーに潰されて終わりである。
ホーリスは全速力で駆け寄り、振り上げられたロボットの左腕を斬り落とすと、間髪入れずに胸部を横薙ぎに斬った。
「す、すごい……じゃなくて、あの、すみません!」
「いや、いいんだ。キミがいてくれて助かるよ。ただ、いまは悠長に自己紹介をしている場合じゃない。ちょっと無茶をしたいんだけど、協力してくれるかい?」
「はい!」
ホーリスはヤーニンに自分の立てた作戦を伝えた。
その内容はこうである。
まずはヤーニンがロボットの前を列に沿って走り抜ける。
するとロボットたちが重機関銃で彼を狙うので、その隙にホーリスが接近し、弾切れを待たずして胸部の動力装置を破壊する。
「どう? できそう?」
「走るだけですよね? できます!」
ヤーニンは剣を腰の鞘に納め、盾を背中の留め具にかけた。
「こけたら命はないよ」
「わかっています」
それ以上の確認は野暮というもの。ホーリスは笑みを浮かべてヤーニンにうなずきかけた。
ヤーニンも満面の笑みでうなずき返した。
かくしてふたりの猛進は始まった。
ヤーニンが走る。
ロボットの左腕がそれを追いかけて重機関銃を連射する。
その隙にホーリスが接近し、ロボットがターゲットを変更するまえにレーザー剣で胸部を斬る。
1機撃破、2機撃破、3機撃破。
これで最前列の半数、5機を撃破したことになる。
「折り返して2列目の10機をやろう。いける?」
「もちろんです」
最前列の残り半数はもう後衛の方へ進んでしまっているが、いまはできる限り敵の数を減らすことが重要である。
前進する5機を見送り、ふたりは迫りくる2列目に視線を定めて走りだした。
ダダダダダダダダッ! ダダダダダダダダッ! ダダダダダダダダッ!
ひたすら銃撃音が響く。
ヤーニンがロボットの正面を駆け抜け、ホーリスが背中の白い装甲に青い光を走らせる。
ふたりは2列目の10機すべてを撃破することに成功した。
「はぁ、はぁ、はぁ……。すみません。さすがにこの距離を全力で走るのは疲れます」
ロボット間の距離はかなり開いている。
列の端から端までは目測でおよそ500m。
それは何度も全力疾走できる距離ではない。
「息を整えよう。無理するのは危険だ」
ヤーニンは膝に両手をついて上半身を支えていた。全身で呼吸をしている。
対するホーリスは平然としていた。彼女の視線はすでに次の標的を追っている。
「ホーリスさん、ちょっといいですか? 言っておきたいことがあるんです」
「構わないよ。何?」
ヤーニンはまだ呼吸が落ち着いていなかったが、姿勢を正してホーリスの前に立った。
「俺、じいちゃんに憧れて勇士になったんです。でも、いまはホーリスさんに憧れているんです」
「そうか……ありがとう。だけど、この戦いが終わったらいくらでも話す時間はある。いまは雑談している場合じゃないよ」
「すみません。でも俺、死ぬかもしれないから……だから、伝えておきたくて……」
ヤーニンの目には涙が浮かんでいた。
それがいっそう彼の言葉を遺言たらしめていた。
ホーリスは左手でヤーニンの肩をつかんだ。それも、力強く。
「わかった。だけど、キミはもう死ぬわけにはいかなくなったよ。もしキミが死んだら、ボクは自分に憧れる人を目の前で死なせることになる。キミは憧れの人に後味の悪い思いをさせる気かい?」
「そう……ですね……」
ヤーニンには危険な兆候が表れていた。
彼の言葉からは、いざとなったら命を投げ打ってでも役目を果たそうという覚悟が垣間見える。
その覚悟は立派だが、それがあると死がグッと近くなる。
胸に爆弾を抱えているのと変わらない。
そんなものは捨てたほうがいい。
ホーリスはヤーニンの肩から手を離し、レーザー・エンチャンターのボタンを押してレーザーを消した。
第3列目のロボットたちが目の前を前進していくが、ホーリスはそれを見送った。
「キミはボクのことを無敵の戦士だと思っているかもしれないけれど、ボクだって死とは紙一重だよ。もしキミが危なくなったら、ボクは命を賭してキミを助けると思う。だから、キミは死を受け入れてはいけない」
「そんな! ホーリスさんはボクなんかよりずっと価値のある人間です。ボクなんか見捨ててください」
「それは無理だよ。だって、それがボクの性格だから」
ホーリスはヤーニンに優しくほほえんだ。
その正面で、垂れ目気味の眉がいっそう垂れる。
やがてヤーニンはあきらめたように笑った。
目尻の雫をそでで拭い取り、ホーリスに強い眼差しを向けた。
「わかりました。ふたりで必ず生き延びましょう!」
「うん。生き延びて、キミとキミのおじいさんの話を聞かせてくれ」
「はい!」




