第145話 黄色い引き潮(北軍・ホーリスSide)
ウィルド平野北部には黄色いケープがズラリと並んでいた。
ギルド・サーフェの勇士たちである。
28名いる彼らは前から10、10、8の3列に並び、彼らの前に立つ前衛部隊長からの指示を待っていた。
前衛部隊長であるホーリス・ウォルドは紫色のケープを風にはためかせ、前方の白い一団が迫りくる様子を見つめていた。
敵も最前列に10機並び、それが奥に6列続いていた。
やがてホーリスは振り返り、燃えるような赤い髪とは対照的な青く涼しい色の瞳を黄色い軍勢に向けた。
「諸君、敵ロボットの数は60。ひとりにつき2機を相手にする計算だが、キミたちは1機も倒さなくていい。近づかなくていい。とにかくロボットを撹乱して機関銃の弾を撃ち尽くさせてくれ。1機を弾切れにさせたら、すぐに離れて別の1機を撹乱するんだ。あとはボクが全部斬る!」
「おー!」
ホーリスの正面にいるひとりの若い勇士が声に気合をのせ、拳を高らかに掲げた。
それ以外の者も彼に続いて拳を上げるが、曲がった肘と小さい声に自信のなさがにじみ出ていた。
「覚悟がない者はいますぐ覚悟を決めてくれ。背を見せれば撃たれるだけだ。生き残るには立ち向かうしかない!」
「おー!」
今度はさっきのひとり以外は誰も声を出さなかった。
かろうじて拳を上げているが、総じてさっきよりも低い。
だが、いまから士気を上げようと試みている暇はない。
ホーリスは剣を抜き、それを敵ロボットのいる方向へ掲げた。
「これより戦闘を開始する。かかれ!」
ホーリスは敵ロボットに向かって走りだした。
後方にはサーフェの勇士たちもついてきていた。
そしてついに両軍が接敵する。
敵ロボットの並びは1機ずつ距離が開いていたので、ホーリスが正面のロボットと対峙すると、サーフェの勇士たちは自分の敵を求めて横方向に走りだした。
ホーリスはサーフェの勇士たちが走る様を横目に見届けながら敵ロボットを注視した。
敵ロボットはホーリスの1.5倍かそれ以上の高さがある。
その巨体が立ちどまり、上半身を動かしはじめた。
少し離れているので、攻撃手段は右腕の重機関銃である。
ホーリスは予定どおり、ロボットとの距離を一定に保ったまま横に走りつづけた。
ダダダダダダッという殺意の高い射撃音が続くが、ロボットの右腕は動きが遅く、弾丸はひたすらホーリスの後方で地面に刺さっている。
着弾地点で土が大きく跳ね上がる様子が威力のすさまじさを物語っていた。
1発でも受ければ間違いなく一巻の終わりである。
ロボットが弾を撃ち尽くすのは早かった。
ロボットの周りを2周した程度で弾切れになり、新しく装填する様子もない。
ホーリスは愛用する剣の鍔にアタッチメントを装着した。
外周上にあるボタンを押すと、剣身が青い光をまとう。
レーザー・エンチャンター。それは任意の剣にレーザー光をまとわせることができる、ベントの開発品である。
ホーリスが距離を詰めると、ロボットは左腕の鉄球ハンマーを打ち下ろしてきた。
それをサイドステップでかわして敵の左脇に潜り込み、そのまま下段から斬り上げる。
ロボットの左肩を青い光が走り抜けた。
白くて太い金属の塊が地面に落下してけたたましい悲鳴をあげるが、そのときにはすでにホーリスの剣がロボットの胸部装甲を貫いていた。
「まずは1機……」
剣を引き抜くと、ホーリスはひと呼吸入れた。
戦場は思いのほか静かだった。
本来であれば、いまごろは射撃音がそこかしこで響いているはずなのだが、それが聞こえない。
「え……」
ホーリスは周囲を見渡して唖然とした。
静かなのは当然だった。
サーフェの勇士たちは眼前の大きなロボットを前に二の足を踏んでいた。
ロボットが前進するにつれて黄色い勇士たちも後退していく。
「う、うわあああああっ!」
ひとりが大声をあげて後方へ走っていった。
彼の前にいたロボットは一瞬だけ重機関銃の右腕を上げたが、すぐに腕を下ろして前進を再開した。
「あ、ちょっと……」
ホーリスが声をかける暇もなかった。ひとりの逃走を皮切りに、黄色いケープが波のように後方へ流れていく。
ホーリスは慌てて軍隊長のグイルにフォンをつないで報告した。
「マスター、すみません。サーフェの勇士たちが後退しました。こちらで処理しきれないぶんがそちらに行くと思います」
ホーリスの声は切羽詰まっていた。顔も絶望の色に染まっている。
しかし、彼女の耳に入ってきた低音は力強かった。
「問題ない。そのための後衛だ」
簡潔なその応答にホーリスは奮い立った。
「了解しました。こちらもできる限り多く倒すようにします!」
「おう、頼んだ!」




