第144話 軍師の采配
「コール・リーダーズ」
そうやってベントがフォンで呼び出したのは、グイル・マステル、セルフィート・メイジェス、カリナーリ・アルテの3名だった。
それぞれの返答を待ち、全員が受話したことを確認して話しだす。
「みなさんのことは衛星からの映像でモニターしています。各軍持ち場に到着したようですが、問題はありませんか? 北軍から報告をお願いします」
ベントは5つあるギルドの全勇士に対して指揮権を持っている。シエンス側の進行状況を確認したのち、勇士たちをウィルド平野に配備した。
敵の進路がベントの想定どおりだったので、予定どおり北軍、中央軍、南軍の3つに分かれてウィルド平野に展開している。
ちなみに、貴族に仕える騎士たちはベントの指揮系統外にある。
彼らは主の指示でウィルド王城を守っている。
「こちら北軍のグイル。前衛部隊は配置について待機中。後衛部隊は物資運搬のためまだ到着していない」
「了解しました」
各軍の構成は、軍隊長が1名、前衛部隊長が1名で、前衛と後衛にそれぞれ数十名の戦力を割り振っている。
軍隊長は後衛にて軍全体の指揮を執り、前衛部隊長は軍隊長と連携しながら前衛部隊の指揮を執る。
ウィルド平野の北方を守る北軍は、グイル・マステルが軍隊長を、ホーリス・ウォルドが前衛部隊長を務めている。
北軍の前衛部隊に割り当てた戦力はギルド・サーフェの勇士たち。
後衛部隊が遅れているので、彼らが戦線を突破されるとグイルがひとりで対処しなければならなくなる。
サーフェは小ギルドだが、現状、彼らの責任は重い。
「次、中央軍の報告をお願いします」
「中央軍のセルフィートだ。前衛、後衛ともに問題ない」
「了解です」
ウィルド平野の中心で広い範囲を守備する中央軍は、軍隊長がセルフィート・メイジェス、前衛部隊長がウォルグ・エフカインとなっている。
前衛を守るのはウェアウルフ族の戦士たちと、ギルド・フレダムの勇士たち。
後衛を守るのはピオニールの勇士たち。
北、中央、南の各軍の守備領域は、おおよそ3対5対3の配分となっている。
中央軍は範囲が広いことに加え、特に激戦となることが予想されるため、量も質も最大のものをあてがっている。
「最後、南軍の報告をお願いします」
「南軍のカリナーリよ。こっちも問題なし。強いて言うなら、風のせいで調理しにくいってことかしら」
「だったら具材を生で食べなさい」
「ひどーい!」
南軍の軍隊長はカリナーリ・アルテ、前衛部隊長はジオス・アウトロである。
前衛はエアバイク改製造工場で働いている元バーキング所属の勇士たち、後衛はバーキングの現勇士たちである。
バーキングは元々人数が特に多いため3大ギルドのひとつにかぞえられていた。そのため、バーキングだけで1軍を構成しても成り立つ。
「みなさんはこのまま待機してください。敵はすでに進行を開始しています。相手は戦争ではなく未開の地の開拓くらいの認識なので、開戦の合図もなく、接敵ししだい攻撃してくると思います。じゅうぶんに警戒してください」
「了解」
「了解した」
グイルとセルフィートの返事ののち、カリナーリが抑揚の強いねっとりした口調で声を入れる。
「こわーい。そんなマナーの悪い子たちは、このボクちんがじきじきに四肢をぶち千切って――」
カリナーリがしゃべっている途中だったが、ベントはそこに被せて話を再開した。
「改めて説明しますが、敵ロボットは右腕が重機関銃、左腕が鉄球ハンマーになっています。重機関銃による攻撃は盾では防げませんが、照準合わせが遅く、予測撃ちもしてこないので、動き回っていれば当たりません。弾数が少なくてすぐ弾切れになるので、とにかくまずは逃げ回って弾切れを狙ってください」
グイルもセルフィートも黙ってベントの説明を聞いている。
カリナーリもさすがにもう黙っている。
ベントは一度咳払いを入れ、喉の調子を整えてから説明を続けた。
「ロボットの弱点は、腕や脚の関節部です。可動域を確保するために関節部だけは装甲がありません」
弱点といっても、四肢の関節部を破壊して止められるのは四肢の動きだけである。
破壊力の高い攻撃手段がある場合は胸部の動力装置を狙ったほうがいい。
分厚い装甲に守られているが、そこを破壊できればロボットは完全に停止する。
「それから、胸部より装甲の薄い頭部を狙うのも有効です。頭部には基幹AIが搭載されていて、それを破壊できればロボットは敵を捕捉できなくなります。ただし、暴走モードになって暴れるので気をつけてください」
これらの情報はあらかじめ軍隊長を通して全勇士に伝えている。
この戦争において最重要の情報なので、ベントは軍隊長たちに改めて説明したしだいである。
「敵の情報は以上ですが、ロボットが私の知る情報よりアップデートされている可能性もあることには留意してください」
3人の返事を聞き、ベントは締めにかかった。
「しばらくみなさんのことをモニターしていますが、みなさんの力がウィルド王国を守るに足ると判断したとき、私はシエンス共和国に乗り込みます。みなさんがウィルド王国を守りきれば、この戦争は勝利します」
フォンからフッと笑う声が聞こえた。
その声の主はセルフィートだった。
「さすがは最強の勇士だ。我々は必ずウィルドを守りきる。だから必ずシエンスを落としてくれ。私は君を信じているよ」
よく通る凛々しい声。
ベントはセルフィートの鼓舞をありがたく受け取った。
そこにグイルも渋い低音で言葉を重ねる。
「おう。頼んだぞ、我らの軍師殿」
カリナーリは何も言わなかった。
かすかにあくびの音が聞こえた。
「それでは、みなさんの健闘を祈ります。ディスコネクト」




