第143話 開戦の呼び水②
「あ、ベントさん! これ!」
リゼが力強くモニターを指したので、ベントはそちらに視線を移した。
関所のカメラが人型のロボットを捉えていた。しかも複数。
「シエンスが攻めてきましたね。万が一にも投核弾を無力化された場合に備えて配備していたのでしょう」
衛星からの映像によりロボット群の配置を確認する。
ロボットはノルデン山脈の南半分とリッシャーフ山脈の北半分という、関所間の連絡橋を中心とした一定範囲から出てきた。
まっすぐ西へ向かっている。
ウィルド平野を突っ切ってウィルド王城に攻め込むコースである。
ベントは耳にフォンを装着していることを確認し、それを口にした。
「ワンウェイ・コール・オールメンバー」
これはフォンを装着した勇士全体にベントが一方通行で連絡するモードである。
受話側がアンサリングのコールをしなくても強制的につながるようになっている。
「敵出現。ウィルド平野にて迎撃すべく、各勇士は持ち場について戦闘に備えよ!」
ベントがそれを発信した瞬間、ウィルド王城内で貴族服が宙を舞った。
彼らは貴族ではなく勇士だった。
同様に、城下町で賑わっていた町民たちも全国から集まった勇士である。
シエンスが監視していることを想定して偽装していたのだ。
衛星からの映像では、式典参加者に扮していた勇士たちがいっせいに正体を現したことで、地上には赤、緑、黄、灰、青のカラフルな模様が出来上がった。
ピオニール、バーキング、サーフェ、フレダム、シクレシー。
各ギルドのテーマカラーであり、勇士たちが羽織るケープの色である。
ちなみにシクレシーの青は、ベントがエアバイク改製造工場で働く元バーキングの勇士に着せたものである。
「ベントさん、作戦成功ですね!」
「あ、リゼさん。まだフォンに音声入ります」
「はわわ!」
ベントがディスコネクトをコールしたところで、リゼは顔を覆ってしゃがみ込んだ。
「すみません」
「いえ、私こそ、ごめんなさい……うぅ、恥ずかしい……」
悶えるリゼを見て、ベントは思わず笑みをこぼした。彼女には小動物みたいな愛らしさがある。
ベントがリゼに研究室での手伝いを頼んだのは、受付嬢としての優秀な実務能力のほかに、実は彼女に安全な場所にいてほしいという想いもあった。
「リゼさん、気を取り直しましょう。私も作戦が成功して嬉しいです」
「そうですね……ありがとうございます」
ベントが喜びを口にするのは珍しかった。
ベントが立てた作戦はたいていうまくいく。
だが、今回の作戦は大がかりなものにもかかわらず、うまくいく保証はなかった。
スカイタクシー運行開始記念式典というのは、シエンス共和国の攻撃時期を誘導するための陽動作戦だったわけだが、シエンス側がこの式典を好機と捉えて狙ってくるかどうかは、彼らの諜報能力と判断に委ねるしかなかった。
シクレシーを解体した日、ベントはシクレシー内部に紛れ込んだシエンスのスパイをあぶり出した。
あぶり出したといっても、最初からスパイがいることを見抜いていたわけではない。
面識がなかったシクレシーの勇士全員と個別に話をする時間を設け、バカショックで隠し持っている秘密をすべて吐かせた結果、そのような異分子が紛れていることがわかったのだ。
だが、おかげでさまざまな情報が得られた。
元々、シエンス共和国は無人のロボット兵器で攻め入って首都にウィルド人を集め、そこに投核弾を落とす作戦を立てていた。
その日程は決まっておらず、いつ実行されるか不明な状態だった。
それを知ったベントは、逆にこっちから向こうに都合のいい状況を作り出し、攻撃のタイミングを誘導しようと考えたのだった。
シクレシーで回収したコンピューターをオンラインにして、スカイタクシー運行開始記念式典の情報を入力した。
シエンス側に作戦実行の提案はしない。罠だと悟られないよう、あくまで自分たちで好機に気づかせる必要があった。
はたして、作戦はうまくいった。
ただし、あくまで開戦のタイミングを誘導することに成功したにすぎない。
勇士たちの戦いはここから始まるのだ。




