第142話 開戦の呼び水①
今日、この日、ウィルド王城はおごそかな雰囲気に包まれていた。
ウィルド王城の敷地内には、煌びやかな服装を身にまとった貴族らしき人々や、各色のケープを羽織ったギルドの代表者らしき人々が一堂に会していた。
今日おこなわれるのは、スカイタクシー運行開始記念式典である。
スカイタクシーはすでに運行しているが、それは試験運行という位置づけだった。
正式な運行を開始するにあたり、こうして式典を開催することで、ウィルド王国が着実な発展を遂げていることを歴史に刻むのだ。
城下町には全国各地から多くの人々が集まっていた。
ウィルド王城の敷地内に入って記念式典に参加できるのは一部の特別な人だけだが、城下町では誰でも参加できるパレードが開催されていた。
快晴の青い空。温かい陽光がウィルドに降り注ぐ。
人々はそんな眩しい空を、手をひさしにして見上げた。
スカイタクシー運行開始記念式典はもう始まろうとしている。
そんないま、スカイタクシーの開発者であり配備の立役者たるベント・イニオンは、ウィルド王城にも城下町にもいなかった。
ベントは自分の研究室でモニターに向かい、ウィルド王国動向監視衛星を通してウィルド王城や城下町の様子を観察していた。
それからベントが視線を移した別のモニターには、一機の飛行機が映っていた。
シエンス共和国側から飛んできたそれは、越境してそのままウィルド王国の領空を侵犯している。
その飛行機は長大な翼に加えていくつものプロペラが付いていた。
コックピットは見当たらない。つまり無人機である。
それだけでも特徴的な飛行機なのだが、その機はそれ以上に大きな特徴を備えていた。
腹に卵形の巨大な金属塊を抱えているのだ。遥か上方の衛星からでもわかるほどだった。
ベントは静かに笑みをこぼした。
そして、眼下のボタンを押す。
その瞬間、天より降る光の柱が飛行機を貫いた。
飛行機を発生源とした眩い光が世界を照らしつける。
ベントは別のモニターに視線を移した。画面にはウィルド関所の屋上に設置したカメラからのライブ映像が映し出されている。
とてつもない爆音で音割れを起こし、集音装置が壊れて音が消えた。
カメラは生きているものの、映像はひどく乱れていた。そこに映る世界は激しく揺れている。
揺れが収まったころ、ふたたび衛星からの映像を見ると、リッシャーフ山脈を構成する山のいくつかが大きく崩れていた。
「すごい破壊力ですね。でも、これでシエンス共和国の脅威は取り除けたってことですよね?」
ベントの隣にはリゼがいた。
手伝ってもらいたいことがあって、ベントが研究室に呼んでいたのだ。
「最大の脅威は取り除けたと思いますが、戦争はここからだと思います」
そう言いつつも、ベントは拍子抜けしていた。
投核弾があまりにもあっさりと迎撃できたからである。
ベントなら先にダミーの飛行機を飛ばすか、護衛の戦闘機を2機はつけるだろう。
ベルグバルト大連山でサイス科学省長官と話したとき、ベントは投核弾の対策をしていることを匂わせて牽制した。
ただ、具体的な内容はデタラメを言ってはぐらかしていた。
そのおかげが、どうやらサイス科学省長官はベントには打つ手がないのだと判断したようだ。
しかし安心はできない。
作戦を急いでいるらしいシエンス共和国に投核弾の残弾はないはずだが、万が一のことは考えておかなければならない。
「さっきのサテライト・レイはエネルギーの充填に時間がかかるので、一度撃ったら数日は使えません。それに、シエンス側が衛星を自爆させてサテライト・レイを破壊する可能性も高いので、もし第2段が飛んできたら、スカイタクシーに特攻でもさせるしかありません」
サテライト・レイとは、さっき天から投核弾を貫いたレーザー・ビーム兵器である。
ベントがまだシエンス共和国にいたころ、ひそかにこれを開発して国境監視衛星に仕込んでいた。
なぜこんなものを仕込んだかというと、お遊びで兵器を作ったものの、その処分に困り、誰にも見つからない場所に隠したかったからである。
衛星と一緒に宇宙に飛ばしてしまえば誰にも見つからない。
もちろん、当時はこんな破壊兵器を実際に使用する未来など想像していなかった。
そのサテライト・レイはベントにしかアクセスできないが、国境監視衛星はシエンス側も操作できるので、シエンス側が衛星を自爆させてサテライト・レイを破壊する可能性はじゅうぶんに高い。
どちらにしろ一回きりの切り札というわけである。




