第141話 埋め合わせ
あの日のやり方は変えなかった。
グイルがリゼを外に連れ出している間に、プログレスの面々でホーム内を装飾したり料理を運んだりして準備を進めた。
準備はつつがなく終わり、外に出ていたふたりも今度は予定どおりに帰ってきた。
「リゼちゃん、お誕生日、おめでとぉおおおおお!」
リゼがホームに入った瞬間、室内の明かりが灯り、盛大な拍手が巻き起こった。
「え? あ、ありがとうございます!」
リゼの実際の誕生日は数日前。
その日にリゼがさらわれたため、準備していた誕生会も流れてしまったのだ。
怖い思いをしたリゼを元気づけるためにも、今日その誕生日会を改めて開催したのである。
帰ってきたリゼをそのままテーブルに案内し、プログレスのメンバーが全員そろった。
テーブルの中央に置いてある巨大なケーキは観光地のシンボルのようだった。
それを数々の料理が取り囲んでいる。
山盛りのから揚げ、ひと切れごとにトッピングの違うレインボー・ピッツァ、濃厚なクリームと麺が絡み合うホワイト・パスタ、赤と緑の葉に大キノコを混ぜ込んだ贅沢サラダ、ふんわり巨大玉子焼き、七色グラデーション・ジャムのトースト。
それから各自の手元に置かれたグラスには、それぞれの好みのドリンクが注がれている。
マスターのグイルが軽く挨拶をして、全員がグラスを持った。
「誕生日を迎えたリゼに、かんぱーい!」
グイルの音頭で色とりどりのグラスがぶつかり合った。
誕生会はリゼを中心に盛り上がった。
フォルマンが恐縮しておとなしいぶん、アルチェが人一倍はしゃいでいた。
リゼの隣に椅子ごと移動してきたアルチェがベントに視線を向ける。
「あんな落ち着きのないベント君、見たことなかったよぉ。妬けちゃうなぁ」
アルチェがリゼの肩に肘を押し当てているのを見てベントは苦笑した。
ベントもいまだけは白衣を脱ぎ、黒いシャツの上から紫色のケープを羽織っていた。
グイルはみんなの様子を温かく見守っている。
ホーリスとクレムはベントがエメル・ポーアと戦ったときのことを聞きたがった。
ベントはエメルの話をプログレス外に漏らさぬよう釘を刺しつつ、ふたりにエメル戦の詳細を聞かせてやった。
そんなこんなで時間が過ぎるのはあっという間だった。
食事を終えて、プログレス一同からリゼにプレゼントを贈るという話になった。
グイルが促し、全員がギルドホームの外に出る。
あまたの星が瞬く夜空の下、紫のケープをまとった勇士たちが横一列に並ぶ。
中央にリゼがいて、グイルとベントが彼女を挟んでいた。
グイルが視線で合図を送ると、ベントはうなずいてフォンを耳に装着した。
「コール・メモリーワン。スタート」
ベントがそれを口にすると、夜空に光の玉が打ち上がった。
光の玉はじゅうぶんに上昇したところで弾け、大輪の花を咲かせた。
それだけでは終わらない。重厚に轟く音とともに爆発が連鎖し、一面の夜空を光の花が覆った。
「すごい……」
花火。青、赤、黄、白、緑、紫とさまざまな色が折り重なる様子はまさに花のようだった。
花火はシエンス共和国では夜の祭事でときどき見られるが、ウィルド王国で打ち上げられたのはこれが初である。
ゆえに、ウィルド王国の歴史に今日という日が刻まれることとなった。
夜を食い尽くさんばかりの光が、咲いては散ってを繰り返す。
リゼの潤んだ瞳の中でも6色の光が咲いて散った。
やがて、静かな夜が帰ってきた。
リゼは目尻に浮かんだ小さな雫を拭うと、数歩前に出てプログレスのメンバーたちに向き直った。
「マスター、アルチェさん、フォルマンさん、クレムさん、ホーリスさん、そしてベントさん。すっごく素敵な贈り物、ありがとうございました。私、私……」
リゼが言葉を詰まらせたところでアルチェが駆け寄り、肩を抱いてホームの中に連れ込んだ。
ベントやほかのメンバーもそれに続く。
「今日はリゼちゃんの誕生会だけど、自分の誕生会みたいに最高の気分だよ。ベント君、みんな、ありがとー!」
「なんでおまえがお礼を言ってんだよ」
アルチェにすかさず突っ込むフォルマン。彼もすっかり元気になったようだった。
「ボクもいい経験をさせてもらった。プログレスに来てよかったよ。ベント殿、プログレスに誘ってくれてありがとう」
ベントは微笑を浮かべ、うなずく形でホーリスに返事をした。
「僕もいい夢が見られそうです」
クレムが組み合わせた両手を頭上高くに上げてノビをしていると、グイルがその肩に手を置いた。
「クレム、ひたっているところ悪いが、おまえは俺と片付けだぞ」
苦笑を浮かべるクレムに、グイルが作った笑顔を送る。
そんなふたりを尻目に、ベントはフォルマンに声をかけた。
「フォルマンさん、花火の片付けに行きましょう」
「おう」
男4人が後片付けに入ると、リゼが手伝うと言いだした。
そんな彼女の腕をアルチェが引く。
「私たちはこれから女子会だよぉ。片付けは男衆に任せて、プロトポリアに行こーう!」
リゼの性格上、主賓だとしても自分だけ片付けないことに気おくれするだろうことはわかっていた。
そういうわけで、片付けはそっちのけでリゼを二次会に引っ張っていく役をアルチェとホーリスに担ってもらっていた。これはベントの案である。
「あの、みなさん。今日は本当にありがとうございました! 関門大徳です!」
リゼが頭を下げる。
みんなの視線が彼女に集まった。
「リゼ殿、それはたぶん感恩戴徳だ」
今回それを指摘したのはホーリスだった。
「はわわ!」
リゼはぴょこんと跳ねて赤面し、涙をちょちょぎらせた。




